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#40 斜めの父子

あら、いらっしゃい。
クラブマゼンダへようこそ。

思えば久々の開店ね。
みなさん元気にしていたかしら?

私はぼちぼち。と言うよりは怒涛の日々を過ごしてたわ。

先日、無事に(?)国家試験を終えて、次の日から父方のお墓参りに行ってきたの。

だから、今日はそのお土産話でもするわね。

先ず、前にも書いたかも知れないけれど、私は実の父の顔を15歳の冬まで知らずに育ったの。
義理の父は、母にも姉にも、もちろん私にも手を出す、今で言うならばDV男だったんだけれど、そんな義理の父と母が別れる際、再会したのが初めてだったわ。

それまで、本当の父親に対して、僅かながらに希望を抱いていた私は、初めて会った時、「なんだ。こんな普通の人だったのか」と少し残念に思ったことを覚えてる。

そんな父だったけれど、私が高校を出て、大学に進学する際には、毎月僅かばかりの仕送りをしてくれていたし、それなりに私に対して情はあったのだと思う。

だから、私も父のことを憎んだり、嫌ったりはしていなくて、この人が生物学上の父親なんだなって思うと、すんなり受け入れられたわ。

とは言え、それだけ長い時間会っていなければ、お互い超えられない壁というか距離があったのも事実。

そんな、私が父を誘って、父方のお墓参りに行きたいと思ったのは、父もそろそろ年齢的に遠出がキツくなる頃だと思ったのと、私も国試が終わって、後は大学を卒業するだけって事を報告したかったから。それと、一応長男として、ご先祖様に挨拶をしておきたかったってのがあったのよ。

それで、10数年ぶりに連絡をして祖父のルーツである日本海側から、太平洋側へ、そして、父の故郷の大阪へ2泊3日。父と一緒に過ごしたわ。

感想を端的に言えば、行って良かったな。と思う。

ただ、父の口から出たある一言に、私は本気で怒ることになったわ。

道中のこと。
父と母が別れた時の話に自然となって、そこから、父が、
「お前の母さんが(2人目の男)と別れた時、養育費を払ってくれないと泣きついてきたんだ。だけど、オレは何もしてやれない。あの男のところに行ったのはあんたでしょ。って言ってやった」
と言ったのよ。多分何の悪気も無かったのだと思う。

ただ、その頃の私はある程度大きかったし、母や姉や私がどれだけ苦労したか、なにより、母がどれだけ追い詰められていたのかを間近で見ていたから、軽く言われた事が本当に頭に来て、それからの道中の空気はお察しの通りよ。

私もまだまだ子どもよね。けれど、母や姉、幼かった自分のことを思うとどうしても許せなかった。

そこに追い討ちを掛けるように、父の老いを見せつけられることになったわ。
さっきまで話してたと思ったら急に黙り込んで、「大丈夫?」と声を掛けるとふと我に返って話し出すんだけど、さっきまでの話はどこかへ飛んでしまっているのよ。

恐らく軽い認知症が始まっているんだと思う。

そう思うと、益々悲しくなってきて、私は、この人を支えることは出来ない。だから、きっとこれが最後だから優しくしてあげなくちゃと思ったの。ただ、そう思えば思うほど、優しく出来ない自分に苛立っていたわ。

そして、とうとう旅行の最終日。半ば突き放すように父と別れたの。

もう限界だった。

試験と旅の疲れももちろんあったけれど、父の無責任な一言(例え悪意がなかったとしても)、そして、老いていく父を見ているのがしんどかったのよ。

本当に申し訳ないことをしたな。と思うし、最後ぐらい可愛げのある息子を演じてあげれば良かったのに、反抗期ですか?って勢いで父を突き放してしまった自分に後悔しているわ。

いつかはその時が訪れるとしても、こんなにも早くその時が訪れるかも知れないと思うと、恐怖を覚えてしまった。

旅行から帰ってきても、しばらく考えてしまう自分がいたわ。自己嫌悪にも陥ったし、心配しているって素直に言えない自分に腹が立ったし、何よりも一緒に来てくれてありがとうと自分の口から、言えない自分が嫌で嫌で仕方が無かった。

ただ、それでも向き合うべき時だったのだろうし、ご先祖様のお墓に手を合わせられたことは本当に良かったなって感じているわ。

私は覚えていないけれど、お爺ちゃんもお婆ちゃんも私が生まれたことを本当に喜んでくれたと聞いて、嬉しかったし、そして、恋しくなった。
せめて、元気なうちに顔を見せてあげたかったなって思いはあるけれど。

そして、ここに書いても届かないのは分かってるけれど、最後に父への思いを綴って終わりにするわね。

「私は、貴方に何度も何度も助けて欲しいと叫んだわ。その声が届かないと分かっていても、貴方なら助けてくれると信じていた。だから、私の母の事を話す貴方には、酷く落胆したし、激怒した。とは言え、その後の旅行中、ずっと態度を持ち返せなくてごめんなさい。私は、これからも、母の事を大切にしていくし、正直、貴方の事は面倒が見きれないと思う。だけれど、貴方がどんな人であれ、私の父は貴方だけだし、出来る事ならこの先ずっと長生きして、穏やかな日々を送って欲しい。良い歳をこいて何も成し遂げられていないこんな私でごめんなさい。だけど、1人で生きていく強さをくれたのはもしかしたら貴方が居てくれたからかもしれない。3日という短い期間だったし、会えるのはこれが最後かも知れないけれど、一緒にいれて嬉しかったわ。ありがとう。くれぐれも無理をしないで、健康に気を付けて頂戴ね。本当にありがとう」

以上よ。

さて、湿っぽくなっちゃったわね。ヤダわ。
国試も終わって、父との旅行も終わった今、私も更に前に進まなきゃいけないわね。

頑張るわ❣️

てことで、今日はここで閉店よ。
今日も来てくれてありがとう。
大好きよ💖またね。

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