ヘモグロビン2.4で緊急入院3日目
フェロミアという薬が最大量の1日200mg処方されていた。
昔も一度自傷瀉血でひどい貧血になったので、鉄材を飲むのは初めてではない。
特に副作用も無く、4本の輸血で健康になった身体は薬すら求めていないように感じた。
内科病棟でも一応服薬の確認はある。
精神科病棟と比べればとても緩く、「すいません、飲み忘れていたので今から飲みます」と答えても笑顔を返してもらえた。
もちろん怠薬をするつもりはなく、処方分はすべて飲んだ。
身体は日に日に健康体へ向かっていた。
退院したくない
退院したくない。
毎日病室で思っていたことだ。
翌日の採血検査の結果次第では退院が決まる。
残された時間はあとわずかしかなかった。
自宅は持つ物も持たず飛び出してきただけあって、どうなっているか不安で仕方なかった。
病床の清潔なシーツは心地よく、窓からは穏やかな街並みが見えていた。
何もしなくとも三食、栄養バランスを考えられたおいしい食事が運ばれてきた。
誰がここを抜け出したいと思うだろうか。
眠剤の効果が目に見えて違う
ロヒプノール2mgとマイスリー10mgが睡眠薬として処方されている。
家では処方量を飲んでも悩みがぐるぐると頭の中を渦巻き、眠れず朝を迎えることなどザラだった。
不思議なことに、人気があり時にはうるさく感じるような病院で飲むと、初めて眠剤を服用したときのようにころんと眠ってしまう。
精神的な安心感が大きかったのだと思う。あるいは貧血が改善し、十分に薬がまわる身体になっていたか。
ともあれ、心配していた睡眠に関しては問題があるどころか圧倒的に改善していた。
それも、いつまでもここにとどまりたいと思った理由の一つだった。
近づく退院の日
限度額認定証の関係で、7月中には退院しなければならなかった。
日々不安が募り、あわよくば死んでも良いという想いで行った自傷瀉血の末、なぜ救急車を呼んでしまったのかという後悔も募る。
しかし、ほったらかしにしてきてしまった家のことも気になる。
病院の方達はお医者様を初め、皆優しく、よく気にかけてくれた。
今でもお医者様の「ここまで辛い思いをしたことを、誰か信頼できる方に相談できると良いですね」という優しい言葉が耳に残っている。
明日には退院かな、とぼんやり考えながら消灯時間のあと布団で少し読書をした。
眠剤がよく効いて、気づけば退院予定日の朝になっていた。