【講座メモ】芥川龍之介『トロッコ』三回目
池袋コミュニティ・カレッジで講師を担当しております講座「西村俊彦の朗読トレーニング」講座メモ
芥川龍之介の『トロッコ』を読む・三回目。
今回は物語後半・良平の帰りたい気持ちが高まってくる部分を見ていきました。
・心の転換点
「その路をやっと登り切ったら、今度は高い崖の向こうに、広広と薄ら寒い海が開けた。と同時に良平の頭には、余り遠く来過ぎた事が、急にはっきりと感じられた」
という箇所。最後の部分に、これまで「楽しい」という感情でいっぱいだった良平の心に暗雲が立ち込め始めます。
この微妙な気持ちの変化が生じる箇所で、少し呼吸で気持ちを動かしてみよう、という事をやりました。
良平が海を見たときの気持ちは言葉にするならどんなでしょうか。
あれ?/やば…/ウソ…/え…?
色々考えられますが、人がそんな気持ちになるとき、呼吸はどう動くのか。
息を吸うのか吐くのか、或いは止まるのか。速さは、深さはどのくらいか?
「もし自分がその体験をしたら」を考え、呼吸を物語と合わせてみると、自然と心が、音が動いてくるのではないでしょうか。
・ストレスの増加
この後の良平は、何をするにも「楽しさ」よりも「ストレス」を多く感じていくようになります。
土工たちに「もう帰りな」と声をかけられるまで、読みながらストレスを貯めていくと面白いと思います。
そこに至るまでの自分なりのストレスワードを拾っていくと、蓄積が分かりやすくなるかもしれません。
例えば…
悠悠と茶などを飲み始めた
跳ね返った泥が乾いていた
相手にすまないと思い直した
石油の匂がしみついていた
同じような茶店
西日の光が消えかかっている
など、時間の経過が「早いこと/遅いこと」への表現が、「早く帰りたい」良平にとってのストレスとして散りばめられているような気がします。
こういった部分を声に出す度に、良平と共にストレスを味わってみましょう。
・気持ちよく相手を突き放す
そして土工からかけられる言葉
「われはもう帰んな。おれたちは今日は向う泊りだから」
「あんまり帰りが遅くなるとわれの家でも心配するずら」
が登場します。
これは何の悪気もなく、むしろ親切心さえ漂う言葉でしょうが、良平にとっては「何言ってくれとるんじゃ!」な言葉かと思います。
ポンと、気持ちよく突き放す気持ちで台詞を発してみましょう。
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