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【講座メモ】芥川龍之介『トロッコ』一回目

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4月4日から新しいシーズンが始まりました。
今回は芥川龍之介の『トロッコ』をテキストに、全6回でお届けします。

初回は

・言葉のかかり方
・期待をこめる
・言葉の質感
・気持ちの流れ
・大きな声を出す

といった所に注目しました。

・言葉のかかり方

「工事をーーといったところが、唯トロッコで土を運搬するーーそれが面白さに見に行ったのである」

こちらの文章の線で囲まれた箇所をいかに読むか。
工事を、と始まり「まぁ工事っていう大仰な言い方をしたんだけれど」…「という単純な作業でして」
というようなニュアンスが汲み取れます。
これを上手く音に乗せていくには
「といったところが」と、直後の「それが」が重要になってきそうです。
といったところが、で少し音を上げておくと、少し軽めのニュアンスが出せそう。「それが」は、土を運搬する事をしっかり受ける必要があるので、少し強調して読んでみました。

・期待を込める

「煽るように車台が動いたり、土工の袢天の裾がひらついたり、細い線路がしなったりーー良平はそんなけしきを眺めながら、土工になりたいと思う事がある。せめては一度でも土工と一しょに、トロッコへ乗りたいと思う事もある」

この箇所の冒頭三文、とてもリズムがよくて好きです。リズムよく読むのに加えて、良平くんがまさに憧れている景色ですから、「すげぇ、かっこいい、乗りたい!」というような憧れの感情を乗せて読んでみます。
そしてその感情を「土工になりたい」「せめては一度でも」に乗せていく。
「野球選手になりたい!」くらいの気持ちを持ってみましょう。憧れにも、うっとりとか、激しいとか、色々なニュアンスがありますね。

・言葉の質感

「トロッコは三人の力が揃うと、突然ごろりと車輪をまわした。良平はこの音にひやりとした。しかし二度目の車輪の音は、もう彼を驚かさなかった」

太字にした、ごろり・ひやりといった表現が美味しい文章です。
重い物が動く感じ、その瞬間の感情。そこから、二度目以降の音にはむしろ高揚感が伴っていく感覚。言葉の質感と気持ちの動きを掴みましょう。しっかし改めて、文章が上手いですね芥川先生。

・気持ちの流れ

「トロッコは最初徐ろに、それから見る見る勢よく、一息に線路を下り出した。その途端につき当りの風景は、忽ち両側へ分かれるように、ずんずん目の前へ展開して来る。顔に当る薄暮の風、足の下に踊るトロッコの動揺、ーー良平は殆ど有頂天になった」

ここも面白いですね。情景がありありと見えてくるようです。
トロッコの動きのスピードの変化が、視界の変化になってどんどん加速していきます。
そこから、顔に当る風の表現・トロッコの振動と、身体感覚になってきます。
スピード変化の所は読むスピードで遊んでみても楽しいでしょう。視界の表現になったら「ワクワク」を大切に。
身体感覚にきたら、スピードよりもむしろじっくり味わうのも手かと思います。
「この瞬間が永遠に続けば良い」というような思いは時間の流れの外、静止した永遠の瞬間のように味わうのが私は好きです。


以上の箇所にクローズアップしつつ、初回を終えました。私自身の少年時代の迷子の記憶なども話し、このお話の肝の一つ「心細さ」といったものを考えたりする回でございました。

トロッコの位置

併せて、『朗読の理論』の著者で、
漫画『花もて語れ』の朗読監修の東百道先生の『トロッコ』の解釈について触れました。
芥川龍之介の創作の折返し地点にある位置に『トロッコ』がある、という点から当時の芥川の「今後の作家生活への不安」を読み取るアツイ解釈。
少年の日の心細エピソードとして読んでもよし、作家の未来への不安と読んでもよし、好きなように味わいましょう。

なので講座では、解釈についてはあまり触れません。解釈はそれぞれご自由に、それを見える形に表現する方法について、主に考えて実践していきます。

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