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白鳥座の4人

これは私が3歳の頃のいちばん古い記憶の一つととして、今でも鮮明に覚えている情景のお話です。

今から60年以上前、当時わが家は岡山市内中心部にありました。
玄関を出て、すぐ前を通る国道250号線を渡れば、南北に長く連なる商店街のアーケードの、南端の入り口が目の前にあります。

両親が共働きで、兄弟のいなかった私は、日常の遊び場として、毎日のようにアーケード街に通っていました。

当時この商店街一帯は地元のKサーカスの興行部が仕切っており、5つの映画館を中心に、バーや飲食店、パチンコ店に銭湯までKサーカス傘下の一大歓楽街として賑わっていました。

そんな商店街のなかに、なぜか場違いな救世軍の教会もあり、その入り口には、クマという大きなオス犬がいつも寝そべっていました。
とてもおとなしい犬で、いつ見ても顎をペタリと地面につけて、上目遣いに商店街を行き交う人々を眺めています。
私は銭湯への行き帰りや遊びの途中などに、そんなクマを撫でるのを楽しみにしていました。

また、教会の向かいには中華料理店があり、その横の細い路地の突き当りが銭湯の入り口になっています。
そして、教会の斜(はす)向かいには、当時あった新東宝という映画会社の封切り館があり、その隣は警察の派出所と、今思えばなかなかに場末感の漂う混沌とした雰囲気を醸し出していました。

ある日の夕方、いつものようにクマを撫でていると、不意に彼は頭を上げて、その新東宝の封切り館の方を小首をかしげるように眺めはじめました。

映画館の名前は「白鳥座」と言います。
当時の新東宝は、〈エログロ〉路線が主流で、肉感的なグラマー女優を起用した、独立系プロダクションによる短いお色気短編映画や、ストリップやヌードショーを撮影した〈ショウ映画〉と呼ばれる一種の記録映画のようなものを多く上映していました。

クマが見つめているのは、その白鳥座の出入口です。
しばらくすると、そこから4人の男性が出て来ました。
肌色の面積がやたらと多い大きな看板ばかりが並んでいて、出入りするお客の姿など一度も目にしたことがなかった私は、珍しいものを見るような気持ちで、男たちの様子をクマと一緒に眺めていました。

4人のうち二人は中年と青年の建設作業員風、あとの二人は初老とそれよりもやや若い、スーツにネクタイ姿のサラリーマン風の男性でした。

映画館から出てきた4人は並んで、しばらく壁にはられたポスターなどを
名残惜しそうに眺めていましたが、やがて作業員風の中年男性を先頭に、
縦一列になってぞろぞろと歩きはじめました。

4人ともきれいな等間隔を保ったまま歩いて行きます。
そして、歩くたびごとにその姿はどんどん薄くなってゆき、銭湯の入口への路地に入ったところで完全に消えてしまいました。

当時の私は、等間隔の一列縦隊で歩く4人の姿ばかりが印象深く、お化けや幽霊を見たという怖さはまったく感じませんでした。
しかし、こうして改めて思い返してみると、幽霊になっても、いや幽霊になったからこそでしょうか、男というのはつくづく懲りない生き物なんだと感じずにはいられないという…、
そんなお話でした。

初出:You Tubeチャンネル 星野しづく「不思議の館」
怪異体験談受付け窓口 七十日目
2023.1.29

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