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霊の先ぶれ

今回はUくんという20代後半の男性が体験したお話です。

Uくんが大学4年生の夏休み、土曜日の夜に友人たち3人とドライブがてら、心霊スポットへ度胸試しに行こうということになったのだそうです。
目指したのは、複数の幽霊が出るというホテルの廃墟で、当時は地元では有名な心霊スポットでした。

Uくんたちは午前1時頃に到着して、ホテルの中をあちこち探索しましたが、結局はただ荒れているばかりで、怪しいことはなにも起こりませんでした。
期待外れと何も起こらなかったという安堵の思いとで、Uくんがワンルームマンションの自分の部屋に戻ったのは、空が白みはじめた午前4時過ぎのことでした。

鍵をまわして自室のドアを開けたとたん、玄関と廊下の明かりが灯ったのです。
スイッチにはまだ手も触れておらず、もちろん人感センサーなどとといったようなものは付いていません。

不思議に思いながら、廊下を進み、奥の部屋との境の扉をひらくと、今度は部屋の明かりが自動的に灯ったのです。
また、シャワーを浴びようと浴室に向かうと、今度は扉を開けないうちに浴室の明かりがついて、シャワーがひとりでに流れはじめたのでした。

この頃になると、さすがにUくんも〈心霊スポットからなにか連れて帰ってきちゃったのかな?〉と怖くなったのだそうですが、疲れと眠気のほうが先にたって、その夜はそのまま眠ってしまいました。

翌日の昼近くに目を覚ましたUくんは、ぼんやりとした頭のままで、近くのコンビニへと買い物に出かけました。
Uくんがコンビニの入口に差し掛かると、彼の1m以上先で自動ドアが開きました。

Uくんがまだ自動ドアのセンサーの範囲外にいることは確かなのに、
まるで彼より一足先に、見えない何者かが入って行ったようなそのドアの動きに、Uくんの脳裏には帰宅時の明かりの件が蘇り、改めて恐ろしくなったのだそうです。
この不可思議なドアの動きは、コンビニから出るときにも見られました。

この自動ドアが、Uくんがドア前に立つより早く開くという現象は、コンビニに限らずほかの店の自動ドアでも同様に起こりました。
帰宅時の照明の自動点灯もあいかわらずで、まるでスマートリモコンでも持っているかのような感じだったといいます。
ただし、照明はつけてはくれますが、自動で消してはくれなかったとUくんは愚痴っていました。

ともかく、この不思議な現象はただそれだけで、金縛りにあったり、霊がベッドサイドに立っていたり、馬乗りになって首を締めてくるなどといった怖い怪奇現象は一度もなく、Uくんはしだいに慣れていったのだそうです。

ただひとつ困ったのは、駅の自動改札でした。
毎回Uくんの直前で、自動改札は〈券なし〉を感知して扉を閉じてしまうのです。
そのたびに駅員が出てきて解除してくれるのですが、行き帰りの1日4回、それが毎日起こるのですから、すぐに駅員に顔を憶えられてしまって、〈またあんたか〉というような渋い顔をされたそうです。

ともかくも、そんな生活が続いて1ヶ月ほどたったある夜のことでした。
Uくんはコンビニへ行こうと部屋を出ました。
イヤホンをして、ながらスマホで、とある信号のない横断歩道にさしかかった時のことです。

そのまま渡ろうとしたUくんの目の前を、一台の車が猛スピードで通り過ぎようとしました。
車は少し先で急停車して、しばらく何かを探しているようでしたが、すぐにまた猛スピードで立ち去っていったのでした。

そして、その後に到着したコンビニの自動ドアは、Uくんがその前に立つまで開くことはありませんでした。
帰宅したときの部屋の明かりも、スイッチを入れないと自動ではともるらなかったのです。

どうやら常にUくんの前にいた幽霊は、さっきの車に跳ね飛ばされてしまったか、車にくっついて行ったようでした。
Uくんとしては、いつしか美しい女性の霊を想像していただけに、なんとも残念というか、少し寂しく感じた夏休みの思い出なのだという、そんなお話でした。

初出:You Tubeチャンネル 星野しづく「不思議の館」
テーマ回「ナビ・センサー等に纏わる不思議怖い話」
2025.2.15

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