「パーソナルソング 医療・介護をつなぐ音楽」イベントレポート
2019年1月20日、ドキュメンタリー映画「パーソナルソング」上映会・意見交換会が開催されました。場所は神保町ブックセンター(東京都千代田区)。チケットは予約完売となりました。
国分寺市で2018年11月に開催したイベントの第2弾となる今回、医療従事者、介護施設関係者、音楽療法士、建築関係者、水産加工関係者、ご自宅で家族の介護をされている方など、多様な背景の参加者50名が参加され、会場は熱気につつまれました。
映画「パーソナル・ソング」
まずはドキュメンタリー映画「パーソナル・ソング」の上映から。
ソーシャルワーカーのダン・コーエンさんはiPodを使い、認知症の人に思い入れのある曲をきかせれば曲の記憶とともに当時の自分や家族のことなど何かを思い出すのではないか、ということを思いつきます。
自分の名前すら忘れていた人が曲を聴いた途端、劇的な反応をみせます。若い頃好きだったこと、嬉しかったこと、鮮明な記憶を取り戻します。音楽によって失われた自分を取り戻し、忘れかけた心を呼び覚ますのでしょう。
ダン・コーエンさんの音楽プログラムは当初3か所で開始されましたが、ショートムービーをインターネット動画サイトにアップした途端、1週間で700万回も再生され、プロジェクトが全米での注目を集めることになります。現在では7か国650か所以上で行われています。
国内先行事例紹介
上映会のあと、「医療・介護をつなぐ音楽」に関する国内での先行事例が2名のゲストから紹介されました。
上岡 裕 さん
栃木県で地域ESD(持続可能な開発のための教育)拠点を手がけるNPO エコロジーオンライン理事長。インターネット事業を核に環境省、林野庁、ソニー株式会社、東京都などと、数多くの協働事業を手がけています。
は気候変動の被害に苦しむマダガスカルでの支援活動が認められ、環境大臣賞を受賞されました。
「CONTENTS for CARE」という活動を通して認知症ケアにも取り組まれています。その中で見えてきた問題として、コストを誰が負担するのか、介護保険活用施設の現場の仕事量の多さ、エヴィデンスの取得の難しさ、iPod、iTunesの活用の難しさ、音楽ビジネスの変容(会員制サービスへ)を挙げています。解決策は、NPOとしてボランティアを稼働する、認知症の治療から高齢者のQOLを向上する、高齢者向けの音楽サービスの企画、開発とお話しされていました。
長野 祐亮 さん
15歳からドラムを始め、つのだ☆ひろ、そうる透に師事。大学在学中にプロ活動をスタートし、数々のアーティストのレコーディングやライブ等をサポート。現在は音楽活動と並行して後進の指導も積極的に行っています。
2018年11月「脳もリズム感も活性化!みんなで楽しむ手拍子リズムトレーニング」を出版。会場で著書販売、サイン会も開催されました。
ほかに「新・ドラマーのための全知識」、「リズム感が良くなる『体内メトロノーム』トレーニング」など、著書多数。
会場では、参加者全員で童謡や言葉合わせの手拍子エクササイズを体験しました。初対面とは思えない盛り上がりと一体感、参加者の心を通わす素敵な時間となりました。
意見交換会
テーマは、この場所で、この仲間と、この時間を共有して「してみたくなったこと・してほしいこと・実現するためには」。会場でお会いしたばかりの参加者がグループとなり、意見交換会が始まりました。盛りだくさんの内容のイベントでしたが、皆さん、時間いっぱいまでお互いの経験談や提案をお話しされていました。
会場からは「音楽の素晴らしさをたくさんの人に伝えたい」「大切な人に何かできることはないか」という前向きなご意見が多数寄せられました。
また、「聴覚だけでなく、嗅覚や味覚を刺激するとよいのでは」といった声に、水産関係の方から「魚の血の匂いでも刺激される」という意見も。音楽だけではなく他の芸術や動物の癒し効果を活用するなど、視点を広げる意見もあり、熱心なやりとりとなりました。
さらに、職業として音楽に携わる方々からはボランティアでは続かない現実についても教えていただきました。仕事として、音楽の素晴らしさをたくさんの人々に提供できるシステムの構築や音楽の裾野を広げていくことは、今後の課題となっていきそうです。
初めて会った方々がこのように話し合えることこそ、音楽の力そのものではないでしょうか。高齢者が自然と興味や関心を寄せ、無理なく意欲や自信を引き出せるような環境づくりの取り組みについて、皆さんと一緒に考えることができ、心温まる機会となりました。
どうもありがとうございました。
(Makiko Sato、地域医療編集室)
いつもありがとうございます。 これからも、どうぞよろしくお願いします。