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[レポート] ラストソング~医療と音楽の出会い~

イベントレポート
トークライブ「ラストソング ~医療と音楽の出会い~」
(講演者:音楽療法士 佐藤由美子さん、2018年6月10日開催)
印象に残るトークライブ、初主催

 6月初旬、降りしきる雨の中、私はこのイベントのために北海道から訪れました。

 ここは東京都千代田区神保町にある、「神保町ブックセンター」。ブックカフェとして2018年にオープンしたばかりの新店舗です。内装はシンプルな洋風仕立てとなっており、オシャレで非日常的な空間を楽しむことができます。四六判コーヒーとチョコレートパフェを堪能しながら、スタッフ集合時間を待ちます。SNS上ではたくさんの意見を交わし合う中ですが、会うのは今日が初めて。不安を抱えつつも、顔を合わせると、そこには優しそうな面持ちの方々が待っていました。


 打ち合わせと会場準備を終え、チケット配布役に徹しきる私。会場には多くの方々が集まっており、全体的に女性が多い印象を受けつつも、幅広い年齢層の方が訪れていました。イベント開始時刻となり、「地域医療編集室」を主宰する福士さんよりはじめの挨拶がありました。記念すべき初イベントということもあり、福士さんの話し振りにも緊張の色が・・・。しかし私も同じ気持ち。緊張、というよりはワクワク感でしょうか。これから始まるであろう素晴らしい出来事に高揚感を覚えるばかりでした。

 ついに佐藤さんのトークライブの幕開け。そもそも佐藤さんが生業としている「音楽療法」とは? というところからお話しいただけました。音楽療法の起源や日本における現状などを学ぶことができました。特に、日本における音楽療法の普及は進んでいるとは言えず、啓発活動が大きな課題になるようです。佐藤先生が米国より帰国し、音楽療法の講演を始めようとした際には、30件以上の業者に問い合わせて帰ってきた返信が「結構です。」の1件だけだったというのです・・・。不遇の時代を味わってきた方々からすれば、音楽療法のセミナーにたくさんの人が関心を寄せるようになったことは感慨深いのかもしれません。より多くの人々に音楽療法が届くように、私たちも正しく音楽療法を理解していかなければなりませんね。

 音楽療法にはいわゆるマニュアルというものが存在しません。これはマニュアル好きな、敷かれたレールの上を走ることが好きな日本国民にとっては衝撃的なことかもしれません。しかしこれには大きな理由があります。音楽療法はクライエント(対象者)のニーズに対応するために音楽を効果的に使うことであり、人によってニーズ(求める音楽や場面、タイミング)は異なるため、画一的な対応となってしまうマニュアルは存在しないのです。あくまでもクライエント中心のアプローチ「パーソン・センタード・ケア」が重要となるのです。では具体的に音楽療法のセッションとはどのようなものなのでしょうか。一般的には音楽を聴くことや一緒に歌を唄うこと、楽器の演奏などが挙げられますが、さらに発展したものでは曲作り、歌詞のディスカッション、音楽回想法などがあるようです。「音楽回想法」とは何でしょうね・・・。とても気になります。
 ここまで音楽療法について話してきましたが、知らない人たちからするとやはり一番気になるのは「それって本当にエビデンス(科学的根拠)があるの・・・?」ということでしょう。佐藤さんが何度も口にしていた通り、確かなエビデンスを提示して取り組まない限り、音楽療法はいつまでたってもインチキセラピーの烙印を押されてしまうのです。

 例として音楽療法のエビデンスを挙げるならば、

・うつ症状の軽減に効果がある
・QOL(生活の質)の向上

などがあります。こうした音楽療法の効果を研究している論文は非常に多いのです。多くの研究が進められるにつれて、医療界も音楽療法に注目し始めております。現に看護師である私は非常に注目しています。その理由の一つとして、医療の焦点が変化していることが挙げられます。病気の治療という医療の目標には限界があり、全人的なケア(身体面だけではなく精神面やスピリチュアリティーの側面、社会面など)を提供いていくことが重要となったからです。
 ここで重要なのが、スピリチュアリティーの側面です。音楽療法はスピリチュアリティーの側面を非常に重要視するため、このスピリチュアリティーの理解が不十分だと、音楽療法の正しい使用は難しいのです。スピリチュアリティーは日本では霊的なものとか、占いのようなものとして訳されていますが、これは大きな間違えであり、本来は幅広い意味があり、「人生に意味を与えるもの」、「自分を生き生きとさせるもの」、「神聖なものと自分、世界と自分との関係性」といった意味で使われるものなのです。細木○子のようなものではありません。

 ではそのスピリチュアリティーが損なわれた状態とはどういうことなのでしょう。

・自分らしく生きることができなくなった悲しみ
・人生の意味を見いだせない苦しみ
・人生を振り返ってやり残したことへの後悔
・大切な人との関係を修復できない苦悩

 これらの精神的な苦痛を総称して「スピリチュアルペイン」と呼びます。スピリチュアルペインの種類は人それぞれであり、個別性をもったケアが必要なのです。

 音楽療法を通じたクライエントのケア事例で1曲の歌が紹介されました。「この広い野原いっぱい」という歌です。私はこの曲を知りませんでしたが、歌詞やメロディーには引き込まれるものがあり、会場が一体となってその歌を奏でているような雰囲気となりました。まさに目には見えない音楽の力を感じることができました。
 私たちはこの音楽の力を使ってクライエントの苦しみを癒すことができるのでしょうか。答えは「ノー」です。音楽の力を使って苦しみを癒すのは私たち医療者ではなくクライエント自身なのです。本人がもともと持つ力を音楽を通じて引き出してあげること、エンパワメントすることが私たちにできることなのです。

 ここまで音楽療法について触れてきましたが、実際にはまだまだ序の口。専門的に学ぶためには然るべき教育機関での専門的なトレーニングを積む必要がありそうです。半端な知識や技術のまま音楽療法と称して実施されるセラピーは、いわゆる「レクリエーション」と大差ないものととらえられかねないのです。
 そうならないためにも、確固としたエビデンスを提示して音楽療法の魅力を発信していくことが大切ですね。

ライター/大山和依 @0405_izi
地域医療編集室 イベント企画チーム

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編集長|小さな医療
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