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返信:エビデンスを参照しない医療

地域医療ジャーナル 2019年11月号に掲載された記事

に対して、読者メッセージからこのようなご意見をいただきました。

ご意見ありがとうございます。せっかくの機会ですので、この件についてコメントしたいと思います。


エビデンスを参照しない医療の横行

十分な科学的根拠が揃わないままに新たな治療法を導入すること(仮にここでは「エビデンスを参照しない医療」と呼ぶことにします)については、慎重であるべきだと考えております。こうした医療行為が横行し、潜在的に患者に不利益や害を与えている可能性について、一医療者としては深刻な問題と受け止めております。

だからこそ、地域医療ジャーナルを創刊し、これまで情報発信に努めてまいりました。

ここであえてバロキサビル マルボキシルを記事として繰り返し取り上げているのも、「エビデンスを参照しない医療」の一事例であると認識し、現場に警鐘を鳴らしたいからであります。本記事を執筆した記者も、おそらく同じような考えでしょう。

この点については、質問者のご意見には基本的に賛同いたします。

繰り返します。

科学的根拠が十分でない新薬が安易に処方されていると感じているからこそ、あえてバロキサビル マルボキシルを記事として取り上げたのです。

バロキサビル マルボキシルはほかの記事でも取り上げています。こちらもあわせてご参照ください。


抗インフルエンザ薬の安易な使用自体に問題がある

バロキサビル マルボキシルの安易な処方よりも、むしろ抗インフルエンザ薬が安易に処方されている実態に深刻な問題があると考えています。

インフルエンザ発症者が抗インフルエンザ薬を使用しても、解熱までの時間を短縮するだけで、重症化予防や伝染予防効果は確認されていません。有害事象のデメリットを考慮すると、合併症のない成人にとってはメリットが少ない薬です。

しかし、インフルエンザにかかったら医療機関を受診し、検査をして、抗インフルエンザを処方してもらう、という慣習が定着してしまっており、なかなか変えられないようです。

抗インフルエンザ薬が広く使用されている現状においては、バロキサビル マルボキシルが選択される理由があるはずです。たとえば、インフルエンザでつらい時、薬を5日間服用するよりも1回服用で済んだほうがいい、という理由かもしれません。

それなら、健康な成人には薬なしをお勧めするのですが。

診察室で地道に説明して、この慣習を変えていくしかありません。(途方に暮れますが、日々努力しています。)


判断材料も出揃っていない

バロキサビル マルボキシルについては、まだ判断材料が十分出揃っておらず、安易に批判もできないと考えております。昨シーズンから新たな情報も追加され、空気が変わってきています。最新情報の動向に注視しておく必要もあると思います。

追加情報については、順次こちらを更新する予定です。


エビデンスを参照することの困難さ

この「エビデンスを参照しない医療」は抗インフルエンザ薬や新薬に限ったことではなく、根幹には医療全般にはびこる構造上の問題があると考えております。

そして、いずれ改善していかなければならない問題ととらえています。

情報の更新スピードも格段に早くなっています。実際の臨床現場では、日々数多くの医療行為が行われており、すべての医療行為についてエビデンスを検証することは、現時点では不可能でしょう。おそらく、無意識のうちに「エビデンスを参照しない医療」を頻繁に行っているはずです。

医療者ができることは、まだきわめて初歩的・限定的なことだけ。だからこそ、医療者自身の努力で啓発・情報発信していくことは重要であると考えています。

これからも、これからの医療について考えていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。


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編集長|小さな医療
いつもありがとうございます。 これからも、どうぞよろしくお願いします。