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うちにネコがやってきた 【超短編小説/あったかくなる/猫が出る話】スキマ小説シリーズ 通読目安:3分
「ああ・・・ 疲れた・・・」
会社を出ると、思わず声が漏れた。
「久しぶりに癒やしをもらおうかな・・・ 忙しくて行けてなかったし」
近所のペットショップ。
自宅最寄り駅から家までの帰り道、時々寄って、癒やしをもらう
「君はまだここにいるんだね…」
店に入り、猫がいる場所にいくと、その子は一瞬顔を上げて、すぐにまた丸くなった。
ずっと残っているマンチカン。
他の子に比べて愛嬌がない。
いつも丸くなって、手を振っても、話しかけても、めんどくさそうな顔をして、甘える仕草もない。
「そんなだから、誰ももらってくれないんだよ…」
私が別の場所を見てる間に、他のお客さんもその子に声をかけたが、同じように反応せず、みんな、他の愛嬌がある猫や犬たちのほうに行ってしまう。
一通り見て、少し元気をもらったあと、私はその子のところに戻ってきた。
相変わらず、愛嬌がない。
でも、素直じゃないだけかも、私みたいに…
「家に来る?」
そう言うと、一瞬顔をあげて、小さく鳴いたように見えた。
気のせいかもしれないし、そう思いたいだけかもしれない。
でも、そう感じた。
「すみません・・・」
その日、彼は私の家族になった。
私はその子に、マルと名付けた。
理由は単純、店で見たとき、いつも丸くなっていたから。
「相変わらずだね、マル」
家に来ても、マルは同じように、愛嬌がない。
ご飯をあげれば食べるし、変に警戒をしているわけでもない。少しなら撫でることができるけど、撫でていると、すぐに逃げていってしまう。
「そっか・・・
ここでも、"彼"は去っていくわけね…(笑」
マルが離れていき、残されたご飯の入れ物だけを見ていると、一人ポツンと残されたような気分になる。
「・・・もう寝ようかな」
冷たいベッドで、寂しさに抱かれて眠りにつく。
「・・・」
ふと目覚めて、時計を見ると、夜中の3時。
頬には涙の跡。
「夢まで・・・ 私を否定するの・・・?」
膝を抱えても、寂しさは消えない。
涙が止まらない・・・
情けない、しっかりしなきゃ・・・
そう思うほど、涙が溢れてくる
「・・・?」
あったかい…
ぬくもりを感じて、ふと見ると、離れて寝ていたはずのマルが傍にいた
「マル・・・」
名前を呼ぶと、「家に来る?」と言った、あのときのように、小さく答えたような気がした。
体を擦り付けるように寄り添って、心配ないとでも言うように・・・
「ありがとう・・・
ありがとう・・・ マル・・・」
次に目が覚めたときは、朝だった。
あったかくて、いつの間にか眠りに落ちたらしい。
少し目が腫れている。
「マル・・・?」
マルは近くにはいなかった。
いつもの距離で、一度だけ顔を上げて、小さく鳴いた。
今度は間違いなく、聞こえた。
思わず頬が緩む。
いつもの距離。
相変わらず、愛嬌があるとは言えない。
でも、本当は優しい子。
私だけが知ってる優しさ。
家に猫がやってきた。
愛嬌はないけど、優しくてあったかい、私の家族。
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