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舞依とレイコの空手チョップ……第9話

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■第9話

いよいよ明日からシリーズ開幕。力道山から大月舞依に生まれ変わったワシの初陣じゃ。しかも前回からの流れを汲み、初戦の相手は因縁の金髪ビヤ樽コンビ。ワシの相方はもちろんレイコさん。プロレスは因縁が金を生む商売。このマッチメイクは興行会社として大正解じゃ。あれからSNSのフォロワーも9000人を突破し、いまや多くのファンが生まれ変わったワシの姿に期待しておる。景気づけに一杯やりながら寿司でも食いたいところだが……一介の新人レスラーにすぎんワシにそんな金はない。レイコさんは朝の合同練習を終えたあと、昨日から痛いという腰を診てもらいに鍼灸院へ行ってしまったし。今日はもう自主練はせず体を休めるつもりだったから、ひとり寂しく駅前の安い牛丼でも食ってくるかのう……うん?誰だ、寮の前に立っている陰気な眼つきの太った男は?ペンギンのような歩き方で近づいてくるぞ。

「ま、舞依ちゃん……」

ワシの知り合いなのか?脅えたように目玉をキョロキョロさせて挙動不審なヤツじゃ。

「し、試合前なのにラインくれないから、この前のことまだ怒ってるのかと思って……」

何を言っておるのだコイツは?

「この前のこと?」

「ほ、ほら……ボクが舞依ちゃんに、もっとパワー付けた方がいいとか言って怒っちゃったこと……」

そんなの知らんわ!そもそもコイツはいったい誰で、ワシとどんな関係なんじゃ?

「ああ、あれか……ところでアンタは誰だったかのう……じゃなくて、誰だったかしらん?オホホ……!」

相変わらず、女言葉は虫唾が走るわ。しかしワシも愛想笑いがうまくなったもんだ。

「や、やっぱりまだ怒ってるんだね……もうトヨちゃんて呼んでくれないのかなあ……」

トヨちゃん?ああ、わかった!舞依の対人関係についてレイコさんが教えてくれたとき、近しいファンにそんな名前があったはず。

「そうそう、トヨちゃんだった!トヨちゃん、いきなりどうしたの?」

少しだけ表情が緩みやがったわ。

「明日からシリーズ開幕だから『舞依ちゃんパワーアップ』で……いつもみたいにボクと一緒に、お寿司食べにいってくれない……よね……」

なに?寿司を食わせてくれるのか!そうか、なるほど。コイツはいつもこうして舞依にいいモノを食わせてくれる小タニマチってところかい。利用しない手はない。

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