オリジナル版・プロレス深夜特急……第2回
■陽がかげりはじめた庭。大陸サイズな冷蔵庫のドアが開け放たれたかのように、紫色に変わりつつある大気がみるみる冷却されていく。朝鮮半島の過酷な冬が、すぐそこまで迫ってきているのだ。
年季の入った鉄アレイやバーベルが、無造作にいくつも転がっている。握ってみた。ひんやりと冷たく、ズッシリと重い。
「ナニカシテマスカ?」
背後に、白いジャージを着た初老のおじさんが立っていた。
オレの顔を見て微笑むと
「ニホンジンデスカ?イラッシャイマセ」
宿のご主人なのだろう。軍手をはめた両手で鉄アレイを握り、交互に挙げさ下げし始めるおじさん。吐く息が白い。半分ほど、髪も白い。
「おじさん、なにかやってるんですか?」
日本語で尋ねてみた。
「タイソウヤッテマシタ」
オレのことが邪魔でもなさそうなので、そのまま話を続けてみる。
「ボクはプロレスが好きなんです」
おじさんの動きが一瞬止まった。
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