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舞依とレイコの空手チョップ……第5話

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■第5話

視界にいきなり黒幕が降りた。何も見えない。真っ暗闇。なんなのこれ……どうしちゃったの?

見えない壁から、ゆっくりと何かが流れ落ちてくる。あっちからも、こっちからも。銀色で、キラキラしてて。まるで、とろけていく光のカーテンみたいな。よく見ると……一瞬だけ何かの形にパアッと光って、それから流れ落ちては見えない大地に溶けこんでいく。あれは何の形だろう?どこかで見たことあるような。あれは……レイコ?三木先輩?トイレの洗面台?何なのこれ?

どこからか、小舟をこぐような音がきこえてきた……すいー、すいー……心地よい、眠たくなってくるこのリズム……すいー、すいー……あっ、もしかしてこれは……寝息?オッサンの寝息?そうか、オッサンは寝たんだ。だからいきなり真っ暗闇になったんだ。じゃ、あのとろけていく光のカーテンは………レイコ、三木先輩、トイレの流し……わかった、きょうオッサンが見たものの記憶なんだ!記憶が次々心にとろけて……あれが夢の材料になるのかもしれないなあ。人間の心って、夜になると綺麗なイルミネーションみたいなんだ。

ん?体がのびのびしてきた感じ……なんだろ?さっきまでよりずっと身軽になってるような。もしかして……オッサンの心が起きていないとき、あたしは自由になれるのかも。ということは……いまあたしが喋ったらレイコに聞こえるのかな?あ、もとの自分が戻ってきてる感じ……声を……出せそう……

「レイコ!」

ずっと壊れていたスピーカーから、とうとう大音量が飛び出したような開放感と爽快感。あたしの口から出た言葉が、あたしの耳にはっきりと伝わってくる。それってすごいことだったんだ。両眼の端がじわじわとあたたかくなり、ゆっくりと頬をつたっていくのがわかった。

だけど目を開いたり、首を動かすことはできなかった。オッサンが寝ても体は自由に動かせないみたいだ。口の中は内側につながっていてあたしの心に近いから、こうして声は出せるのかもしれない。

目を開けられないので真っ暗闇のままだったけど、レイコが布団から起き出してくる気配を感じた。

「舞依?いまの感じは舞依ね!」

レイコの声。よかった、あたしはあたしのまんまなんだ!

「レイコ、たすけて!」

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