舞依とレイコの空手チョップ……第8話
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■第8話
あたしの体がヤバい。全身ありえない筋肉痛。この業界に入ってから最初の2週間くらいもそうだったけど、ここまですごいのは一度もなかった。
胸、腕、腹、脚、首。こんなところにも筋肉があったのかというくらい。つなぎの部分も含めて隅々まで。どんな姿勢でいてもどこかが痛い。だから、どうしたって楽な態勢が見つからない。いちばんきついのは起き上がるとき。まず、頭がボーリングの球みたいに重たく感じる。弱った首の筋肉が、頭の重みを支えきれないのだ。鍛えることで、いちど壊された筋肉が回復するまでが筋肉痛なんだよって、その痛みから回復したときに強くなるのが筋肉なんだよって、以前レイコがそう言っていた。回復するまでの間、筋肉は弱っているらしい。
起き上がるときは、口をイーッ!とすると首の前の方にスジが浮き出る、あのあたりが特につらい。両手で頭を抱えるように押さえておかないと、そこのスジがきつすぎてとてもじゃないけど持ち上げきれない。だけど頭を抱えるために腕を動かすと、今度は腕の裏側、いわゆる三の腕が吊りそうになる。肩も筋肉痛なのは間違いないけど、不思議とそれほど痛みはない。そしていよいよ起き上がろうとすると、今度は腹筋が吊りそうになる。おなかの横のあばら骨の間のにある細かい筋肉も全部。次に、腿と腰回りの筋肉。鉛でできた腿と腰回りを、初めて動かしているみたいな感じになる。今朝なんて起き上がろうとしたらおなかが吊ったから、のけぞるように伸ばしたら今度は背中の筋肉が吊ってしまった。どうしようもないので、どっちかを我慢したままどっちかを伸ばしの繰り返し。それでどうにかおさまったけど、オッサンは「よしよし、これでええ!」なんて嬉しそうに笑っていた。あたしはオッサンに言いたい。男の鍛え方と女の子の鍛え方を一緒にするな、と。だけど、ひとつわかったことがある。全身はつながっているんだなって。一か所だけを動かしているつもりでも、本当は全身がつながって動いているんだなって。それでも毎日こんなになるまで鍛えられたら、あたしの体はいつか壊れてしまうにちがいない。
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