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オリジナル版・プロレス深夜特急……第5回

■廊下から響いてくる、やけに早口なスペイン語で目を覚ました。メイドのおばちゃんたちだろう。窓からは陽が射している。夜が明けていたのだ。端の部屋から清掃を済ませ、だんだんと近づいてくる声。ドアをノックされたら対応できるだろうか……そそくさと身支度を済ませ、逃げるように部屋をあとにした。

1階の受付には誰もいない。フロントにカギを返し、街路へ出た。よく晴れている。例の大気の匂いが陽に照らされ、より一層強い臭気となってメキシコシティを覆い尽くしている。ホテルの周りは随分と賑やかだった。タコス屋、ジュース屋、果物屋……それらすべてが屋台だった。道端では立ち話に興じる人、駆けずりまわる子供たちなど、ガイドブックに書かれているほど危険というワケでもなさそうだ。緊張がだんだんほぐれてくる。

ガイドブックによると、メキシコシティ中心部に日本人が経営するペンション・アミーゴという宿があるらしい。まずはそこへ辿りついて、いったん落ち着き、本来の目的であるルチャ・リブレのジムを探すという今日の計画を頭に描いた。しかし、オレは今どこにいるのだろう。とりあえず、歩き回ればガイドブックに載っているどこかへ行きあたるかもしれない。そうすれば地図を活用できる。とにかく、歩いてみる以外になかった。

しかし行けども行けども、そんな場所には行きあたらない。心が不安に支配されかけてきたころ。街路を曲がると、いきなり視界が開けた。

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