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アベルノとTAJIRIの秘話
NJPW WORLDで2月28日におこなわれたファンタスティカマニア後楽園大会を見ていたら、メインにアベルノが登場していた。
もう29年も前のこと。IWAジャパンを退団して海を渡った、オレの第一次メキシコ修行時代。当時のCMLLの現場は、ネグロ・カサスが仕切っていた。ネグロは日本人が好きなので、オレは付き人とまではいかないが
「毎朝6時に電話して俺を起こせ。そして7時にはアレナ・メヒコへこい。俺がお前を鍛え抜いてやる」
と、師弟関係を仰せつかってしまったのだが。朝6時にネグロの家に電話をかけると、まず奥さんが出るのだ。そして奥さんがネグロを起こす。
「なら最初から奥さんに起こしてもらえばいいじゃないか!」
そういうことになってしまうのだが、日本好きなネグロはきっと、日本のプロレス式の習慣のようなものをマネしてみたくて仕方がなかったのだ。なので、別にそれはいい。問題は、せっかく6時に起こしたのに、ネグロの来る時間がだんだん遅くなっていったことである。ネグロが来るのは7時から8時となり、ときには9時に来ることもあった。一度、あまりに遅いので帰ってしまったら
「どうして来なかったんだ?」
なんて理不尽極まりない追い込みをかけられてしまった。なのでやはり7時に行かなくてはならない。オレはひとりでウエイトをしたり、誰か巧い選手をつかまえては教えを請うたりしていたのだが。そんなある日。
朝7時。アレナ・メヒコに、ルチャの「達人」的な雰囲気を持つ、チョビ髭を蓄えた年配の人がやって来たのだ。ロドルフォ・ルイスという往年の名選手だと誰かに聞かされた。これからアレナ・メヒコで若い選手を教えることになったという。ルイス先生は、髪が長い細身の息子を従えていた。口数は少ないが、いつもニコニコと愛想が良い。レンコル・ラティーノという名前でマスクをかぶり試合をしているとのことだったが、その名前を聞いたことは一度もなかった。
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