子どもが柚子を持って帰ってきた。
「ママ、忘れてた、明日は学校で柚子狩り。長靴がいる」
移住した豊前市の山間は、柚子の産地だ。
地域の人の柚子畑で柚子狩り体験をさせてもらえるらしかった。
持っていた長靴がサイズアウトしていて、慌てて市内のしまむらに行ってみたけど該当サイズの長靴なし…。
車を走らせてお隣の中津市まで行くかと思ったら、「おうちの人のものを借りてもいいんだって」という。
それは無理じゃないのサイズ的にと思うも帰宅して履かせてみたら「ちょっと大きいけどいけそう」
もうそんなに大きくなったのかと驚く。
翌日、ドロドロになった長靴を持って帰ってきたのを見て、大人用の長い長靴が役に立てた様子なのがわかった。
「はい、柚子。いっぱいもらったよ」と手渡された赤いネットに入れられた黄色い柚子たち。
大阪、広島、北九州、そして豊前にやってきたけど、柚子畑に行って柚子狩りをして、柚子を持って帰るなんて豊前以外では見聞きしたことは無かった気がする。
子どもたちが見ている景色と、子どもの頃の自分が見ていた景色は真反対なのだろう。
川といえばドブ川。
空き地がなく、建物でひしめき合う灰色っぽい町。
大阪でも住んだ場所と時代によったのかもしれないが、「川の水が透明なんて」と広島に引っ越した時、川を見て驚いたことをよく覚えている。
北九州の川も人口のわりには綺麗だったけど、豊前はさらに水が綺麗なのか生まれて初めて黒いトンボを見た。
豊前の人たちから「何もないでしょう、ここは」とよく言われるけど、こんなにありますよと思う。
ドイツから来た女性もそう言っていたように。
豊前の人たちにとって当たり前の景色が、子ども時代の自分にとっては当たり前ではなかった。
ここで成長していく子どもたちがいつか思い出す故郷は、自分とはおそらく違う色の景色なのだろう。