生保・損保のJ-REIT投資動向

 J-REITが上場20年周年を迎えました。何か書こうと思いましたが、面白いことや勉強になることは他の方々がたくさん書いてくださっていますし自分には書けないので、マイナーなネタを書きます。一時期話題になりました生保・損保(主に楽天損害保険)の投資動向についてです。以下ダラダラと書きますが、言いたいことの一つは、楽天損害保険(以下楽天損保)の名前をJ-REIT投資で聞くことは減りましたが、今もそれなりの金額を保有しているプレーヤーではないかということです。誰でも取得することができる数値を寄せ集めた駄文ですので悪しからず。

①楽天損保のJ-REIT投資とは

 そもそも楽天損保のJ-REIT投資が話題となったのは2019年です。J-REITは決算説明資料に主要投資主(大体上位10社)が開示されているのですが、複数の銘柄の主要投資主に突如として楽天損保の名前が出現しました。下の表は大和証券オフィス投資法人(2019年5月期)とヒューリックリート投資法人(2019年8月期)の期末の主要投資主です(ともに数値は決算説明資料より)。

スクリーンショット 2021-09-12 170758

 どちらの銘柄も当時の時価にすると30億円台と相応の金額を保有していることが判明しました。他にも日本プロロジスリート(2019年5月期)、アクティビア・プロパティーズ(2019年5月期)などにも楽天損保の名前があります。当時は東証REIT指数が上昇基調でしたので、新たな投資家の登場がリートの上昇に寄与しているとも言われたりしました。

②え?すぐに売っちゃったの?

 上記のように楽天損保が話題となりましたが、それから半年後の翌期の決算説明資料を見ると、楽天損保の名前は全く見られなくなりました。先ほどの大和証券オフィスやヒューリックリートは生保・損保の保有状況も開示しています。

スクリーンショット 2021-09-12 174752

  特にヒューリックリートは2019年8月期に損害保険会社の中で楽天損保のみが保有していて、翌期の2020年2月期には一気に減少していることが分かります。直近の決算期では損害保険会社による両銘柄の保有はほどんどありません。え?たった半年間で売ってしまったの?本当にそうであれば2020年3月のJ-REITの急落を免れたことになります。

③生保・損保の投資動向

 J-REITの投資動向を見る際には、各銘柄の決算説明資料以外にも日本取引所グループ(以下JPX)が公表しているデータが参考になります。まずは、JPXが月次で公表しているJ-REITの投資部門別売買動向を見てみましょう。生保・損保の差し引きでの買い越し(売り越し)金額を折れ線で示しています。

スクリーンショット 2021-09-12 180632

 2019年7月に約318億円、同年8月に約282億円の買い越しとなっており、楽天損保の名前が話題となった時期にかなりの金額の買い越しが確認できます。2019年5月から9か月間で連続の買い越しであり、総額で約1,192億円の買い越しとなりました。その後買い越しは目立たなくなりましたが、特段売り越しとなっている様子も確認できません。また、JPXはJ-REITの投資主情報調査というデータも公表しています。こちらは半年ごと(毎年2月と8月)のデータで、投資主を主体や地域別にまとめられています。損害保険会社の保有金額の推移を見てみましょう。

スクリーンショット 2021-09-12 182652

 2019年8月に損害保険会社の保有金額が急増していますが、それ以降は減少が続いています。また、生命保険会社は2021年2月時点で2,579億円を保有しています。

④今はどうなっているの?

 損害保険会社(楽天損保)の保有金額が減少していることを書きました。いや、冒頭で「今もそれなりの金額を保有している」って言ったじゃんと思う方もいるかもしれません。実は、JPXが公表している売買動向では集計されないデータもあります。例えば、POやIPOでの取得しても、JPXのデータでは買いに含まれません。個人投資家がJ-REITの売り越しとなることが多い背景には、POやIPOで取得したものを(買いに含まれない)市場で売却(売りに含まれる)することが挙げられます。

 では、楽天損保が今どうしているのかというと、取得した投資口を証券会社に貸し出しているのではないかと考えられます(貸株)。EDINETでJ-REITの大量保有報告書を見ると、以下のような記載があります(下の画像は野村證券が2021年9月7日に提出したオリックス不動産投資法人の大量保有報告書)。

スクリーンショット 2021-09-12 190220

 野村證券が楽天損保から14,900口を借り入れ(楽天損保は貸し出し)ていると記載されています。このように借り入れた投資口についても、証券会社の保有としてカウントされています。楽天損保は保有している投資口を証券会社に貸し出し、名義が証券会社に移ったため、各リートの主要投資主から名前が見られなくなったのではないかということです。大量保有報告書をいくつか見ると、みずほ証券、野村證券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大量保有報告書から楽天損保の貸株が確認できました。以下に直近の楽天損保の貸株の動向を記載しています(手作業での集計ですので、ミスや記入漏れなどがあると思います)。

スクリーンショット 2021-09-12 203437

 あくまで大量保有報告書は提出された時点での数値でしかないので、現状は違う可能性もありますが、楽天損保による貸株は24銘柄で合計約874億円ありました。これを楽天損保が実質保有しているのであれば、かなりの金額です。

⑤最後に

 以上、楽天損保が今もそれなりの金額を保有しているプレーヤーではないかというお話でした。今後も2019年のようにかなりの金額を売買する可能性はありますので注目したいところです。それと同時にある疑問が浮かんできます。それは、2019年に取得したJ-REITを今も保有しているのであれば、2020年3月のコロナショックの時はどう対処したのかということです。また、東証REIT指数は2021年9月10日時点で2,100pt台と堅調に推移していますが、オフィスや都市型商業、ホテルのウエイトが高い銘柄は2019年の投資口価格水準まで回復していませんので、購入時期によって投資の明暗が分かれます。ダラダラ書いても依然分からないことは多いですが、今回はこれで終わります。最後まで読んでいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?