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SaaS定点観測マガジン -ZOOM- 株価予想

先日、超絶決算を発表したZOOMについて決算内容をまとめた記事を書きましたが、今回は現在の株価が割安なのか割高なのかをどう判断すべきかについて考察します。

ZOOMはコロナ禍の追い風を受け、売上高が急成長しました。そして、株価も跳ね上がり、「時価総額 / 売上高」のマルチプルで見ると稀に見るレベルの水準になっています。
では、現時点の水準でZOOMの株を新規購入する、もしくは既に保有している方は保有し続ける、事は得なのでしょうか?損なのでしょうか?期待値はいかほどのものなのでしょうか?
巷では、今回のコロナで需要の先食いをしており、また解約率も高まるであろうことから、今後の成長率は急減速すると考えられています。では、どの程度の減速であれば、どの程度のリターンが得られるのか?これ気になりませんか?そこで私なりのやり方でシミュレーションをしてみました。

今回の記事はZOOMを例に、「成長株への投資」のリスクファクター(株価変動の要因)が何で、それに対してどういう風に考えれば良いか、を理解できる内容となっています。そのため、ZOOMは投資対象外という方にも参考になると思います。

カバーガールについて

株式は恋人なので、銘柄毎に絵と名前を付けることにしました。この子はZMちゃんと呼んでいます。(そのままw)
髪の毛はZOOMのカラーである青にしました。また、個人的には真面目な会社(特にCEO)のイメージがあるため、優等生風にしてみましたがいかがでしょうか。
誰もお気づきでないと思いますが、記事毎に髪型とかポーズを変えています。髪型を変えたらあまり優等生に見えなくなりましたが、まあこれはこれで可愛いので良しとしましょう(笑)
お付き合いはIPO時からなので、もうすぐ1年半になります。

<目次>
■最初に
シミュレーション概要
■シナリオ作成
■予想PSR計算
■将来
株価計算
■まとめ
■最初に

最初に、今回の記事を読む前段として以下をお読みいただければ幸いです。本題とは少し外れた内容ですので、「そんな事は当たり前じゃ!」という方は読み飛ばして下さい(笑)

私は投資をするにあたって、「木を見て森を見ず」にならないよう常に気をつけるべきと考えております。例えば、下記の通り、今回の記事の内容は投資をするという一連の行為の中で、最も細部の話をしているという認識でいます。

・投資をするのは何のため?
・数ある投資対象の中から株式という手段を選択するのは何故?
・新興国ではなくて先進国に投資するのは何故?
・先進国のうち、米国に投資するのは何故?
・ETFではなく個別株に投資するのは何故?
・高配当株ではなく成長株に投資しているのは何故?
・その領域を選んだのは何故?
・その株を選んだのは何故?保持する理由は? →今回の話

個別株式への投資をする前に、もっと上の層の質問に対して、自分なりの回答を用意しておく事が重要だと思っています。そうでないと、投資スタンスがブレてしまい、市場が大きく動いた時に判断を誤ってしまうと考えるためです。

自分なりの回答を用意した後、その根拠となる前提が崩れて来た場合には、適宜、投資先の見直しを行う必要があります。
例えば、私が先進国の中でも米国に投資する理由の一つに、将来の人口推移のポジティブな予測があります。人口推移の予測は信頼性が高いのですが、この予測がネガディブな方向に進む場合、投資先を別の国に変更する事を検討するつもりです。(※勿論、米国に投資する理由は他にも沢山あるため、人口推移だけでなく総合的に判断します。)
このあたりの話をし始めると非常に長くなるので今回は割愛しますが、いずれ機会があればお話できればと思います。

「どういう理由でどのような性質のものに投資しているのか」、そして「リスクはどこにあるのか」、また「そのリスクは減少やヘッジする事が可能なもの」か、をしっかりと理解した上で、投資を行う事が長期的に資産形成をしていく上で重要と考えます。
私は株式投資だけではなく、不動産投資も行っておりますが、こういった根本的な投資に対する心構えというのは投資対象が何であろうが同じだと思っています。

すみません、前段が長くなりました。そろそろ本題に入ります。

■シミュレーション概要

シミュレーションの手順は以下の通りです。
①今後10年間の成長率、フリーキャッシュフロー売上高比率の推移をLOW、MIDDLE、HIGHの3シナリオ用意します。
②類似企業を用いて予想PSRの算出式を算定します。
③予想PSRの算出式を用いて、それぞれのシナリオにおける5年後、10年後の株価を計算します。

株価評価にはDCF法などいくつかの方法があるようですが、こうやって算定してみたらどうだろう、という事で私なりに考えてみました。

■シナリオ

シナリオは今後10年間の売上高成長率、フリーキャッシュフロー売上高比率について作成します。

▼売上高成長率
今回はLOW、MIDDLE、HIGHの3シナリオを用意しました。
シナリオ1(LOW)     :CAGR 20%
 翌年に20%まで減衰。その後、10年間同じ水準
シナリオ2(MIDDLE):CAGR 29%
 翌年に38%まで減衰。その後、毎年2%ずつ減衰し、10年後に20%まで減衰
シナリオ3(HIGH)    :CAGR 33%
 翌年から47%まで減衰。その後、毎年3%ずつ減衰し10年後に20%まで減衰
※CAGR:年平均成長率

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最後にそれぞれのシナリオのリターンがS&P500、nasdaq100の過去実績を上回れるかを計算しますが、先にご自身で予想してから答え合わせをしてみて下さい。感覚的にどうなると思いますか?(笑)

シナリオを作る際は以下3点を参考にしました。
・過去実績
・対象企業の将来像に近いと思う会社の過去の推移
・業界全体のCAGR

・過去実績
過去の実績は以下の通り。NTM revenue growthは113%となる想定のためそれをスタートラインとしました。
※NTM revenue growth:将来12ヶ月間の売上高成長率。
※NTM revenue:今後の2四半期(3Q'21、4Q'21)は会社予想を使用。その後の2四半期は3Q'21→4Q'21のQoQ成長率を用いて計算。

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・対象企業の将来像に近いと思う会社の過去の推移

シナリオを作る際、対象企業の将来像に近いと思う会社の過去の推移も参考にしました。過去の推移はtrading viewで確認できます。
今回参考にしたのは、TEAM(Atlassian)、NOW(ServiceNow)、CRM(Salesforce)の3社です。

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少し余談になりますが、上記3社のPSRの推移も非常に興味深いですね。TEAMとNOWは2016年以降は成長率が減速しているにも関わらず、PSRが上昇しています。この原因は、市場全体の値上がりに加え、SaaS企業全体の評価が年々高まってきている事にあります。SaaS企業の評価の推移についてはbessemer venture partnersのサイトでも確認できますので参照下さい。
また、CRMは成長率が再加速していますね。強すぎる。ZOOMにもこのような動きを期待したいところです。

・業界全体のCAGR(年平均成長率)
業界全体のCAGR(年平均成長率)も参考にしました。
https://www.gminsights.com/industry-analysis/video-conferencing-market
2020~2026 CAGR(年平均成長率):19% 
https://www.psmarketresearch.com/market-analysis/web-conferencing-market-report
2020~2030 CAGR(年平均成長率):39.3%


▼フリーキャッシュフロー売上高比率
予想PSRから株価を計算する際、「売上高成長率+フリーキャッシュフロー売上高比率」を用いるため、フリーキャッシュフロー売上高比率についてもシナリオを用意します。「売上高成長率+フリーキャッシュフロー売上高比率」を用いる理由については後述します。

売上高成長率と同じようにLOW、MIDDLE、HIGHの3シナリオを用意しました。
シナリオ1(LOW):5年後、10年後共に25%
シナリオ2(MIDDLE):5年後、10年後共に30%
シナリオ3(HIGH):5年後、10年後共に35%

・過去実績

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・対象企業の将来像に近いと思う会社の過去の推移
TEAM:33.36%
NOW:28.56%
CRM :17.93%

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■予想PSR計算

PSRの定義は「時価総額/売上高」です。予想PSRを先に計算しておき、上記のシナリオに従ってZOOMの売上高が推移した場合に将来の株価を「将来の予想売上高×予想PSR=将来の予想時価総額(将来の株価×株数)」で計算します。
まず、予想PSR(下図の①)をどのファクターによって決めるべきを検証するために、PSRと以下のファクター間の決定係数(予測式によってデータをどれくらい説明できているかを表す値。MAXは1で1に近いほど説明できていることを指す。)を調べました。
・LTM売上高成長率(下図の②) ※過去12ヶ月間の売上高成長率
・FWD売上高成長率(下図の③) ※将来12ヶ月間の売上高成長率
・FWD売上高成長率(下図の③)+フリーキャッシュフロー売上高比率(下図の④)

決定係数を計算する際、ZMとSHOPは異常値となっていたためサンプルから除きました。また、売上高を大きい順にならべ、サンプルとする企業を変更しながら決定係数を計算しました。
例えば、決定係数「① vs ③+④」の列の一番上の決定係数0.9878(赤文字)はサンプル企業を「CRM、ADBE、WDAY、NOW」として、「PSR vs FWD売上高成長率+フリーキャッシュフロー売上高比率」の決定係数を計算しています。

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こちらの結果から以下のことが分かります。
・「① vs ③」の決定係数は「① vs ②」よりもが大きい。つまり、PSRはLTM売上高成長率(下図の②)よりもFWD売上高成長率(下図の③)に相関がある。これは、現在の株価は過去の売上高成長率よりも今後予想されている売上高成長率を元に決まっている事を表しています。これは当然の結果と言えるでしょう。
・「① vs ③+④」と「① vs ③」の列を比較した場合、サンプル企業に売上高が小さい会社を含めている場合は「① vs ③」の方が大きいが、大きい会社のみをサンプル企業とした場合は「① vs ③+④」の方が大きくなります。これは、売上高が小さい時期はフリーキャッシュフロー売上高比率よりも売上高成長率を重視して株価が決まるが、売上高が大きくなるにつれてフリーキャッシュフロー売上高比率が重視されるようになる、ということを示しています。こちらの結果も直感通りで違和感がないですね。

以上のことから、ZOOMの5年後、10年後に用いる予想PSRの計算では、将来の売上高の規模から考えて「FWD売上高成長率+フリーキャッシュフロー売上高比率」を用いるべきと考えました。
後は、サンプル企業をどこまで入れて計算した結果を用いるかですが、サンプル企業を「CRM、ADBE、WDAY、NOW」とした場合の決定係数が0.9878とほぼ1に近い値になっていたため、こちらを使用することにしました。(下図参照)
予想PSR = 55.238×(売上高成長率+フリーキャッシュ売上高比率)-10.032

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■将来株価計算

シナリオと予想PSRの算出式が決まったので、シナリオ毎に将来株価を計算します。計算結果は以下の通りです。

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上記の結果の良し悪しを判断するにはS&P500、nasdaq100の過去実績と比較するべきでしょう。
S&P500(配当込)  :10年+13.8%、20年+6.3%
nasdaq100(QQQ):10年+20.2%、20年+6.2%

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どうでしょう。ご自身の予想は当たっていたでしょうか?

・シナリオ1
ZOOMの10年間の平均リターンがS&P500、nasdaq100の過去20年平均に対して辛うじて上回りましたが、その他は全て大きく下回りました。個別株の方がボラティリティが高い事を考えると惨敗と言えるでしょう。このようなシナリオを描いている投資家はZOOMの購入をすべきではありません。現在保有している場合はすぐに売却すべきです。また、今後の決算でこのシナリオのような兆候が見られた場合も同様に売却すべきと考えます。

・シナリオ2
ZOOMの10年間の平均リターンがnasdaq100の過去10年平均に対して僅かに下回りましたが、その他は上回るという結果になりました。特に、S&P500、nasdaq100の過去20年平均と比較すると大きく上回っています。このシナリオを描いている投資家はZOOMの購入を検討して良いと思います。また、現在保有している場合もそのまま保持して良いと思います。

・シナリオ3
S&P500、nasdaq100を大きく上回る結果となりました。このシナリオを描いている投資家はZOOMを即買うべきでしょう。また、現在保有している場合は今後もガチホすべきでしょう(笑)

■まとめ

MIDDLEのシナリオ2、HIGHのシナリオ3では概ねS&P500、nasdaq100のリターンを上回る結果となりました。このシナリオを想定している投資家は現時点ではZOOMに対してポジティブで良いと思います。そして、今後については、決算発表の都度、ご自身のシナリオが崩れる兆候がないかを丹念にチェックし、その時点の株価とシナリオを元に保有が撤退かを判断していくことになります。こちらのブログでは、私が保有し続ける限りは追いかけて行こうと思っておりますので、宜しければ判断の材料としていただければと思います。

さて、冒頭で2つのテーマを上げました。
1つ目は「成長株への投資」のリスクファクター(株価変動の要因)が何かということでしたが、これに対する回答は「売上高成長率」、「フリーキャッシュフロー売上高比率」となります。(※当然、他にもリスクファクターはありますが、この2つの影響が特に大きいという意味です。)また、売上高が小さいうちは、「売上高成長率」の影響が「フリーキャッシュフロー売上高比率」よりも大きくなるという事も理解しておくべきできしょう。
2つ目は、リスクファクターに対してどういう風に考えれば良いかということですが、これに対する答えは、S&P500、nasdaq100等のリターン(もしくはご自身の求める期待リターン)を上回るような「売上高成長率」、「フリーキャッシュフロー売上高比率」のシナリオを描けるかどうかという事になります。
今回はZOOMを例にシミュレーションを行いましたが、他の銘柄でも同じシミュレーションが有効だと思います。データの整備に少々苦労しますが、宜しければトライして見て下さい。

今回は以上となります。今回もそこそこのボリュームになってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後のモチベーションに繋がりますので、少しでも収穫があればリツイートやいいねをお願いします!(笑)

引き続き応援よろしくお願いします。

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