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社労士が年末調整をするのは違法か?

こんにちは、税理士・社会保険労務士の吉川です。
年末調整の時期が近づいてきましたので、今日は年末調整の話題です。
タイトルの通り、社労士が年末調整業務を請け負うことは違法なのか?を解説します。

そもそも、社労士業務の一つとして、給与計算があるとイメージしている人は多いと思います(私もそうでした)。

企業が給与計算をアウトソーシングする場合、税理士に依頼する場合もあれば社労士に依頼する場合もあります。では、年末調整はどちらがやるのでしょうか?もしくはどちらもできるのでしょうか?

この記事では、年末調整の職域問題を題材に、社労士と税理士の職務分担の考え方や連携の必要性を解説しています。ぜひご一読ください。

給与計算は社労士か税理士か

給与計算業務はどちらの士業が担当すべきなのでしょうか?結論はどちらもOKです。

給与計算業務は特定の資格を必要としないため、どちらの士業であっても(士業でなくても)担当することができます。

給与計算は、社会保険、所得税、住民税などの知識が必要です。
社会保険は社労士の得意分野ですし、所得税・住民税は税理士の得意分野です。そのため、社労士か税理士のどちらかが担当することが多いのです。

年末調整事務は社労士が実施できると「月刊社労士」に掲載

「月刊社労士」とは、全国社会保険労務士連合会が発行する機関誌です。社労士に毎月送付されてきます。

この「月刊社労士」平成27年5月号にこのような記載がされました。

「……また、賃金計算事務の延長線上にある年末調整事務についても、法定調書の作成及び税務署への届出を除いて、社労士(法人)が行うことのできる業務です。」

「月刊社労士」平成27年5月号29項

これを見た日本税理士会は反論し、以下の2点を求めました。

①記事の内容を訂正し、この旨を全国の社会保険労務士に対して周知すること
②社労士が年末調整事務を行うことができない旨を全国の社労士に対し指導すること

どちらが正しいのか?

このような士業同士の職域問題は定期的に発生します。
年末調整業務は、給与計算の延長線上にあるため、税理士・社労士のどちらの職域なのか不明瞭だったのです。

全国社会保険労務士会連合会と日本税理士会連合会は協議を重ね、平成14年に確認書を取り交わしました。確認書はHPで確認することができます。

日本税理士会HPより

確認書の中に「なお、年末調整に関する事務は、税理士法第2条項に規定する業務に該当し、社会保険労務士が当該業務を行うことは税理士法第52条(税理士業務の制限)に違反する」とあります。

このように、年末調整業務は税理士業務であって、社労士は実施できないことが確認されています。年末調整は税額計算の側面が強く、税理士業務の範疇であると判断されたのでしょう。

税理士が実施できない業務も確認されている

一方で確認書の中では、税理士が実施できない業務も明記されています。
条文番号が書かれていてややこしいですが、簡単に言うと

「税理士は、税額確定に必要な場合でなければ社会保険や労働保険の手続き業務はできません」ということです。

税額確定に必要なケースというのは稀でしょうから、基本的に社会保険手続きを税理士はできないことが確認されました。

「そんなの当たり前」と思われそうですが、実際に税理士事務所が労働保険の計算を代行しているケースは私も見かけたことがあります。

独占業務の確認は重要

隣接士業(司法書士、行政書士、社会保険労務士、公認会計士、税理士など)はその独占業務の範囲で定期的にもめている印象があります。

私も昔は「そんなにもめなくても、やれる人がやったらいいのでは・・・」くらいに思っていました。

しかし、独占業務はそれぞれの士業の”めしの種”です。今、自分が仕事をできているのは先輩たちが独占業務を守ってきたから、とも言えます。それを後輩たちのために守るというのはある意味ではそれぞれの現役士業の責任でもあると思います。

でもクライアントには関係ない

とはいえ、クライアントにとっては各士業の職域など関係ありません。
社労士に給与計算を依頼しているのであれば、その社労士が年末調整をやった方が楽だし正確だと思うのは当然です。

そこで重要になってくるのは、士業間の円滑な情報交換と連携です。
社労士が給与計算をしているのであれば、税理士と給与データを共有することでスムーズに(クライアントに負担をかけずに)年末調整ができるかもしれません。

日頃からコミュニケーションをとることで、従業員の入退社情報や助成金手続きなど、スムーズに手続きが完了するケースはたくさんあります。クライアントも手間が省けて、結果的に質の高いサービスを提供することができるはずです。

一人で全部はできない

税理士が相続税業務を実施する場合、登記手続きでは司法書士を頼ることになります。
建設業許可などの手続きをクライアントから求められれば、行政書士を頼ることになります。

各士業は一人ですべての業務をすることはできません。重要なのは士業間で連携し、それぞれが発展することだと思っています。

余談ですが、各士業が集まっての勉強会や情報交換をするコミュニティを作りたいと思っています。今のところノープランですが、いつかやりますので興味のある方はフォロー等お願いします。

まとめ

・給与計算は特定の資格は不要
・年末調整は税理士業務であり、社労士が実施すると税理士法に違反する
・税理士は原則社会保険に関する手続きはできない
・社労士、税理士等の士業間の連携が重要

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