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YouTuberは私物を経費で落とせるか

「(YouTubeに)出した私物がすべて経費で落ちます!」

 こんにちは、税理士の吉川です。突然ですが、アニメ「推しの子」見ていますか?冒頭のセリフは、アニメ第2期21話「カイホウ」に出てきたセリフです。

 その他にも、「YouTuberが高額商品の購入をYouTubeにアップするのは経費にするため」という趣旨のセリフもありました。職業病ですが、この点が気になったので考察してみました。

 この記事では、YouTuberは私物を動画にアップすれば経費にできるのか?という問題を題材に経費の基本的な考え方を解説しています。

 そもそも経費にできるとは何を意味するのか?どのようなものが経費になるのか?という問いの基本的な考え方をマスターできるような記事を目指しました。よろしければ最後までお付き合いください。

前提条件

 アニメの中では、アイドルをやっているキャラクター(有馬かな)の私物を経費にできると言っています。”有馬かな”はB小町というアイドルグループで活動しています。

 さて、このアイドルグループのYouTube収入はだれが受け取っているのでしょうか?これは推測ですが、芸能事務所(会社)の収入になっている可能性が高いです。

 この点はややこしくなるので、シンプルに個人事業主がYouTubeをやっている前提とします。個人がYouTubeチャンネルを持っていて、広告収入を本人が受け取っているとイメージしてもらえばOKです。

”有馬かな”は私物を経費にはできない

 いきなり結論です。私物をYouTube にアップすることで、購入費用を経費にすることは極めて難しいです。

 経費として認められる支出とは、収入を得るための活動と関連があり、客観的にみて必要性がある支出です。アニメを見る限り、明らかにプライベートで使用するカバンなどをYouTubeにアップしています。これは事業(ここではYouTubeの広告収入を得る事業)を行うために必要は支出とは言えません。

「YouTuberは動画にアップすればすべて経費にできる」というセリフは税務的には誤りです。あくまでアニメ的な誇張した表現であるととらえたほうがよさそうです。

そもそも経費にできるってどういう意味?

 「経費にできる」という言葉はよく聞きます。一般的にポジティブな意味で使われることが多い印象です。そもそも経費にできるとなぜうれしいのでしょう?

 答えは、経費にできると税金が安くなるためです。

 所得税や法人税は所得(利益)×税率で計算されます※。この所得(利益)は、収入から経費を引くことで計算されます。税額=(収入―経費)×税率 となります。
※所得税、法人税では利益のことを所得と表現します。

 例えば、YouTubeの広告収入が100万円あり、税率は30%だったとします。経費がない場合には 100万円×30%=30万円 の税金を支払う必要があります。

 しかし、経費にできるものが90万円あったとします。この場合は、(100万円―90万円)×30%=3万円 の税額となり、27万円も得をすることになります。

 経費が増えれば所得(利益)が減り、支払う税金が減るメリットがあることが分かります。経費にできる=支払う税金が減る、という効果があるわけです。

経費の種類

 経費になるかならないか、を考える前に経費の種類と言葉を確認しておきましょう。一口に経費といっても実は種類があります。ここでは費用、必要経費、損金という3つの言葉を紹介します。一般的にこの3つの言葉を総称して経費と言います。

 費用とは、会計上の利益を計算する際に用いられる言葉です。決算書上の利益を計算する際に用いられる言葉です。会計上の利益=収益―費用

 必要経費とは、所得税の所得(利益)を計算する際に用いられる言葉です。所得税法という法律に書かれている言葉です。所得税上の所得=収入金額―必要経費

 損金とは、法人税の所得(利益)を計算する際に用いられる言葉です。法人税法という法律に書かれている言葉です。法人税上の所得=益金―損金

 ビジネスの場ではこの3つの違いを理解したうえで話すことが重要です。会話の中で、経費という言葉が出てきたときに、これは必要経費の意味だな、損金の意味だな、などと自分の中で整理するようにしましょう。

原則は同じ

 経費には3つの種類があるとお伝えしました。厳密には取り扱いが異なる点もありますが、基本的な考え方は同じです。

 その考え方とは、「売上に必要なもの」が経費に該当するということです。

所得税の条文を読んでみる

所得税法37条抜粋

その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。

所得税法37条

 堅苦しくて読みにくい文章ですね。太字だけを読んでいただいて、簡単に言い換えれば、必要経費になるのは収入を得るために必要な部分だけとなります。また、こんな条文もあります。

所得税法45条抜粋

居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない
一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの

所得税法45条

 家事上の経費(家事費とも言います)とは、事業とは関係ないプライベートな支出を言います。アニメでの”有馬かな”の私物はまさに家事上の経費に該当すると考えられるため、所得税の計算上必要経費にすることは認められません。

 少し専門店的な話になりますが、必要経費の条文(所得税法37条)があればプライベートな支出が必要経費に該当しないことは明らかであり、家事費の条文(所得税法45条)は不要のはずです。あえて家事費の条文が存在するのは、家事費は必要経費ではないと強調していると考えられます。

YouTuberの経費になるものは?

 では、どういったものがYouTuberの必要経費として認められるのでしょうか?

 YouTuberの収入のメインは広告収入と考えられます。その広告収入を獲得するために必要な費用が必要経費となります。一例ですが、下記は必要経費として認められると考えられます。

・YouTube撮影用の機材、編集用の機材
・編集を外注した場合のその外注費用
・撮影の企画で使用した消耗品 など

まとめ

・「YouTuberは動画にアップしたものはすべて経費にできる」は税務的に誤り
・経費になる=利益(所得)が減る=税金が安くなる
・経費には費用、必要経費、損金の3種類ある
・経費とは収入を得るために必要な支出である=プライベートな支出(家事費)は経費ではない

 経費になるか否かを迷ったときは、この原則を思い出してください。税務調査等に対応するためには、事業に関連するものであると説明ができるよう準備をしておくこと、証拠(レシートや領収書など)を保存しておくことが重要です。

おまけ

「YouTuberが高額商品の購入をYouTubeにアップするのは経費にするため」というセリフについても同様のことが言えます。動画にアップするだけで購入費用のすべてが経費になるとは言えません。

 大物YouTuberが高額商品の購入動画や、購入した車でドライブする動画を見ると、「経費にするためにアップしているのかな」と邪推してしまいます。一方で自分がその大物YouTuberの顧問税理士だったらどこまでを経費と判断するだろうか、とも考えます。

 面白みのない結論にはなりますが、動画の内容、広告収入の状況、法人か個人事業か、該当資産の実際の使用状況等を総合的に考慮して判断することになります。

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