デスクライトをつけて本を読んでいる。夜の音がする。いない人の息遣いが響いている。羽虫が電球にぶつかってばちばちと音を立てた。梅雨前の、光が幾重にも重なる美しい時分だが夜はまだ冷える。肌が粟立ち私は幾分固体らしくなった。私の意識はすっかり行と行の間からはみ出てしまって、仕方なく本を閉じた。月が皓々と瞬いている。私はずっと月に映る私を見ていた。

私はこのままでいいのだろうか。輝きを認めるのがいつも少し遅い。見るだけで触れられない。そういう時はいつも心臓をつねられたみたいに痛くなる。このまま瞬く間に大人になってしまうのか。

月は答えない。月はかわりにあなたを映した。私は月に映るあなたを見ていた。

遠くの輝きに手を伸ばすのはやめにする。明日も2年後も10年後も1000年後も考えないことにする。今あなたを好きで、あなたを思う度に愛を教えられることがすべてなんだろう。ここでは時間すら意味を持たない。笑わないでほしい。

空が白んできた。月は輝きを失わない。

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