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クリスマスになると聴きたくなる曲。『Our House』『Innocent When You Dream』

 CSN&Yのアルバム『Déjà Vu』に収録されている『Our House』という曲。
 クリスマス・ソングというわけではないけれど、クリスマスになると聴きたくなる。
 聴きたくなるというよりむしろ、思わず口ずさみたくなる歌だ。
 このアルバム自体は時期を問わずによく聴く。
 『Our House』も好きな曲だが、この時期になると頭の中で再生されるのは、歌い出しの

 ”I'll light the fire. You place the flowers in the vase”
 (私は暖炉に火をつける。君は花瓶に花を活ける)

 という歌詞が冬っぽく、また続く内容も恋人との甘くて暖かくて幸せな暮らしについて歌われるから、もう勝手にクリスマスソングと分類しているのだろう。

 CSN&Yはメンバーの名前の頭文字をとったバンドで、元バーズのデビッド・クロスビー、元バッファロー・スプリングフィールドのスティーブン・スティルス、元ホリーズのグレアム・ナッシュで結成されたCSNに、スティルスの腐れ縁で同じく元バッファロー・スプリングフィールドのニール・ヤングが加入した、各々が個性の爆弾のようなグループである。
 (この『Déjà Vu』は名曲揃いの大好きなアルバムだが、個性がバラバラすぎてビートルズの「ホワイトアルバム」のようなまとまりの無さを感じてしまうところもある)
 『Our House』はグレアム・ナッシュの楽曲で、この曲を聴くだけで彼はメンバーの中でも本当に善い人間だとわかる。それくらい幸せに包まれる歌だ。
 ただ、恋人がいようがいまいが家族がいようがいまいが、クリスマスの時期に特有の孤独さを仮に味わうことがなかったとしても、この時期が虚しくなかったことはない身としては、この歌は窓の外から見ただけの、暖炉の火が消えたらすべて消えてしまいそうな「まやかし」のようにも思えて虚しくなる。

 クリスマス自体、まやかしを楽しむための行事だ。

 ということで、クリスマスになると聴きたくなる曲をもう一曲。
 映画『スモーク』のラストシーンで使用される、トム・ウェイツの 『Innocent When You Dream』が好きだ。
 いや、『スモーク』がめちゃくちゃ好きだ。まやかしを楽しめる映画だと思う。
 このラストシーンは、スランプに陥っている小説家のポールが、親友の煙草屋オギーに何かクリスマスに纏わる話はないか尋ねるところから始まる。
 オギーは昔、店の商品を盗んだ少年を追いかけると、その少年が落とした財布を拾った。その財布から彼の家の住所がわかったオギーが、彼の住む団地の部屋を訪ねると、少年の祖母がオギーを孫と間違えてしまう。
 彼女は盲目で、また認知症もあったのか咄嗟に孫のふりをしたオギーとそのまま二人でクリスマスの夜を楽しむ。彼女が寝るとオギーは財布を返し、おそらく少年の盗品だろう新品のカメラを盗んで部屋を出た。
 そんなエピソードをオギーは話して、ポールはそれを小説にすることにした。

 そして最後に、そのオギーのエピソードがモノクロサイレントの映像で流れるのだが、そのときに流れるのが『Innocent When You Dream』である。


 ”you're innocent when you dream”(無邪気でいられる 夢見るときは)という歌詞が繰り返されるこの歌は、この映画のテーマである「まやかし」「嘘」(この物語は登場人物が皆、「嘘」を抱えている)にも通じている。

 最後のオギーの話も、そもそもこの話がどこまで本当かわからないし(カメラを盗んだのはたぶん本当)、老婆は孫のふりをするオギーの「嘘」に気づいていたかもしれない。そしてポールはこの話をさらに小説というフィクションに仕立て上げる。
 ただ、後悔をするオギーへのポールの言葉が映画の全てへの救いになる、のでとりあえず観て下さい。

 中盤、ポールが匿っている少年のトーマスに語る、「バフチンが戦場の前線で死を覚悟したとき、煙草を吸いたくなったが巻紙がなく、何年もかかって書いた原稿を煙草に変えてしまった。死ぬ前に一服の煙草を求めた」という話。トーマスは「嘘だ」と疑うが、マッチ売りの少女のように、煙草こそまやかしの現実から逃避させてくれる道具だと思えて、急に煙草を吸いたくなるくらい好き。
 (以前、喫茶店で隣にいたおじさんが「学生の頃、巻き煙草の紙がなくなると、辞書を破って巻紙にした。日本語の辞書より、英語や仏語の辞書の方が美味かった」と言ってたのでバフチンの話は起こり得ると思う)

 あと、一瞬だけ出てくる本屋の店員の女の子がめちゃくちゃ可愛いです。初めて観たとき衝撃を受けたが、メアリー・ウォードという女優で全然他の映画に出てない。役名が”エイプリル・リー”なのもテーマが「嘘」の映画っぽくていい。
 
 クリスマス・ソングを紹介しているように見えて、途中から映画のおすすめハラスメントになってました。 

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