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ギガントシャーク 第13話 大・量・発・生

 ここはスリランカ内陸部の紅茶農園。今日も平穏に畑仕事が行われ、普段通りの一日が続くと誰もが思っていた。
しかし、
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ‥
突如として不気味な羽音が響き、空が無の真っ赤な何かで覆い尽くされた。それは血のように赤いカミキリムシの大群だった。大群は一般的な虫害では発生し得ない被害を出した。なんと口から炎を吐き、遠くまで広がっていた広大な畑を焼き尽くしてしまったのだ。カミキリムシたちは茶畑を跡形もなく灰に変え、巨大な損失を生み出し、どこかに飛んでいってしまった‥

 シャーク一行はスリランカの農業地域を襲った火を吹くカミキリムシの大群を調査しに向かった。炎を発生させる生物は既知の種には存在しない。Kエナジーによる変異種、あるいは怪獣境由来の敵性生物である可能性が高い。一行はスリランカに上陸するとシャークをグレゴリー湖に待機させ、現場に向かった。
「この間の鹿といい、クソ映画が簡単に現実になっちまう時代になったな。」
ブレットは焼け野原に塗った茶畑を見てそう呟く。ミスティは甲虫の化石種に関するデータを集めていた。
「うーん‥赤い体に火を吐く‥化石からはわからないことだらけね。まずは実物を採取しないと。」
彼女は畑の持ち主からカミキリムシたちが飛んで行った方角を教えてもらい、次に襲われる可能性の高い農地を割り出した。スリランカの紅茶生産の中心地であるヌワラエリヤ周辺である。ミスティたちはその近辺の森を探索していた。火を吐くということを考慮して防火服を着ていく。ふと森の中心部に、何やらガサガサと揺れている大きな木があるのをブレットが見つけた。
「ありゃなんだ?」
「下まで行ってみましょう!」
一行は揺れる木の下に向かった。ブレットが木陰に入り、上を見上げると
「うわっ!」
彼が目にしたのは非常に悍ましい光景だった。物凄い数の血のように真っ赤なカミキリムシが大木の枝にびっしりと犇いていたのだ。虫たちは彼らの動きを感知したのか一斉に羽を振るわせ、襲いかかってきた。
ヴヴヴヴヴヴヴヴーン!
「ひぃーっ!」
マークが叫ぶ。
三人は武器が積んである車まで慌てて戻る。虫の大群は赤い龍の如く空に舞い上がり、人里へと飛んでいく。上空からはカチカチという音が聞こえる。カミキリムシたちが顎を打ち鳴らしているのだ。
「な、何だ?」
ブレットが戸惑う。
すると‥
ゴォォォォーッ!
カミキリムシたちの口から炎が飛び出した。木に火がつき、森が燃え上がる。三人は森を出て、道路脇の車の前に避難する。
「顎を火打石の要領で打ち鳴らしているのね。」
「そんな生き物初めて見たぜ‥」
「既知の化石種の特徴とは一致しないから、未発見の種ね。小型の怪獣かもしれない。」
ミスティが考察を巡らせていると無数のカミキリムシたちが三人に向かってくる。ブレットとマークは荷台に積まれていた自動照準ライフルを撃った。銃声と炎が噴き出す音が畑に響き渡る。カミキリムシは何匹か撃ち落とされるも、すぐにピクピクと動き、その体の損傷が治癒し、再び翅を広げて襲いかかってくる。
「どういうことだ?」
「すごい再生能力‥」
するとカミキリムシたちが空中で翅を震わせながら待機する。そして
ボォォォォォーーッ!
羽を広げた瞬間、その体が炎に包まれ、弾丸の如く突進してくる。
「こりゃ大変だ!」
「一時退避しましょう!」
一行は車で避難するが、火だるまになったカミキリムシたちは弾丸のスピードでなおも追跡してくる。
「何であれで生きてるんだよ!」
「あれはもう怪獣と定義して良さそうね。」
カミキリムシたちが火を纏ったまま車に体当たりする。
「おいまずいぞ!」
「任せて!」
ミスティが運転席のスイッチを押すと車の側面から金属バットのようなものが飛び出し、回転して向かってくるカミキリムシたちを跳ね飛ばす。
「ふぅ。事前準備って大切ね。」
「007かアンタは。」
三人は何とか虫たちの追跡を振り切ろうと
一方ギガントシャークはKエナジーの動きを感じ取って立ち上がり、ヌワラエリヤの街の方に向かった。民家を踏まないように歩いていると、ミスティたちのトレーラーが炎に包まれた虫の大群に追われていることに気がついた。
「大変だ!」
シャークは体を光らせ、電磁波を発生させて虫たちを誘き寄せる。すると虫はトレーラを追うのをやめ、発火状態のままシャークの方に向かってくる。
ヴヴゥゥーーン!
カミキリムシたちは灼熱の炎に包まれた硬い体でシャークにぶつかってくる。熱いには熱いがシャークの巨体にはそれほどのダメージにはならない。しかしカミキリムシたちは徐々に体にまとわりついていき、最終的にはシャークの体を覆ってしまった。そしてそのまま体の炎を燃え上がらせた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
シャークは全身を炎で蒸されているような状態になった。体を叩いてカミキリムシたちを追い払おうとするが、虫たちはがっちりと脚でシャークの体に掴まっており、全く離れようとしない。我慢ならなくなったシャークは全身から電撃を放つ。
「畜生!離れやがれ!
シャークスパーク!」
青い電撃のショックでカミキリムシたちがシャークの体から離散する。カミキリムシたちは群れてやがて一つの塊となる。一体となった群れはまとまっていき、巨大な一つの体を形成していった。
キキュゥーーン!
群れが一つになって現れたのは二足で立つ赤い甲虫の怪獣だった。腹側が黒く背中は真っ赤、触角は長く顔付きはシロスジカミキリに似ており、2本の鉤爪や細い足、尻尾は恐竜を思わせた。
「体を分裂させて虫の大群を作り出していたのね‥」
「どこまでもイカれてやがる‥」
「名前は『キリフレア』としておくわ。」
ミスティは手っ取り早く命名すると、避難勧告の準備を始めた。
「やっと怪獣らしくなりやがったな。」
シャークはキリフレアの方を向いて言う。
「かかってきやがれ。虫野郎。」
キキュゥゥーン!
キリフレアは顎をカチカチと打ち鳴らし、業火を吐いた。
ボォォォォーーッ!
シャークは素早く側転して避けた。
ゴォォォォーッ!ゴォォォォーッ!ゴォォォォォォーッ!
キリフレアは無尽蔵に火炎を吐き、シャークは軽やかな側転でそれを避ける。それがしばらく続く。それが続くとキリフレアは今度は形を変えて火を吐いてきた。
ボッ!ボッ!ボッ!
顎を小気味良くカチッ、カチッと打ち鳴らして小刻みに火球を吐くキリフレア。
シャークは前に手をかざし
「シャークエナジーボール!」
と叫び青い電気の光球を投げる。炎の球と電気の球がぶつかり合い、橙色と青色の光が茶畑とヌワラエリアの町に走る。光球が火球を相殺する
ボボボボボボ!
キリフレアは火球を吐くペースを早める。シャークも連続で光球を発射する。が、全ての火球を避けられるわけではなく、シャークは体中に火傷を負っていた。それを好機と見たキリフレアは全身に炎のKエナジーをチャージし、発火状態になる。そして炎を纏ったまま翅を広げ、凄まじいスピードでシャーク目掛けて突撃してきた。シャークは避けきれず炎の体当たりをもろに受けてしまう。
「ぐああああああっ!」
シャークは苦悶の声を上げながらキリフレアと共にそのまま後ろに飛んでいく。そしてそのまま先ほど待機していたグレゴリー湖に着水した。
「危うく丸焦げになるところだったぜ‥」
間一髪で炎から解放されたシャーク。
キリフレアは炎を解除し、舌打ちするかのように顎を鳴らしながらシャークの頭上を旋回していた。シャークは頭上のキリフレアを睨んでいたが、解決策を閃き、シャークエナジーボールをキリフレアに投げた。電気の球はキリフレアの翅にぶつかる。翅はいとも簡単に破壊され、キリフレアはグレゴリー湖に落ちる。
「よし!」
シャークは着水したキリフレアを見ると素早く襲いかかり、その体を押さえつけて水に沈めた。
「おとなしくしやがれ!」
キキュゥゥッ!キィィィィッ!
暴れ回るキリフレアをじっくり水に浸けたシャークは手を離した。キリフレアは苛立ったようにその頭を振り、シャークの方を睨む。
そして顎をカチカチと鳴らし、火炎を出そうとするが、いくら顎を打ち鳴らしても炎が出てこない。
キキィ!?
キリフレアは戸惑ったような動きを見せる。
「どうだ!体が濡れてちゃ火も出せねぇだろ!」
キリフレアは顎を打ち鳴らして着火し、火炎を吐く。が、体が濡れては顎は火打石の役割を果たさなくなり、無用の長物となる。全身に水が染み込んでいるため全身発火もしばらくはできない。
「てっとりばやく沈めてやるぜ!
シャークネットワーク!」
シャークは湖に電磁ネットワークを張り、海からオオメジロザメたちを呼び出す。オオメジロザメたちはトンネルを通って湖に到着する。キリフレアの足元が波立ち、巨大な渦が巻き起こる。
「必殺ムラサメ流し!」
キリフレアはサメが起こした渦により深く沈んでいき、姿を消した。
「決まったぜぇ‥」
渦がおさまったのを確認すると、シャークはブレットたちの方に向かう。
その後、被害を抑えてくれたシャークに農場主から大量の高級な茶葉が贈られた。シャークはこれが気に入ったらしく時々巨大なカップで海上ティータイムを楽しむようになったという。

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