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偶然の太陽クラブ(short short)

それは単なる偶然だった?

ヒカルは本を借りに学校の図書室向かった。
いまどき、わざわざ出向く必要なんてないのだけど、
母はセラピーに行って留守だし、勉強もしたくない、と言うわけで、図書室へ出掛けた。
10歳のヒカルは特に賢いわけでもなく、ごくごく平均的な頭脳だったので、
いわゆる小学3年生と呼ばれていて、小学3年生らしい学問を学んでいた。
勉強は退屈だった。だからいくつか受けていない(サボってコンテンツを見ていない)授業もあった。
でも本を読むことは好きだった。

学校には教室はない。
だったら図書室もいらないんじゃないでしょうか?
保護者からもこんな声が多く寄せられたが、
「図書室なくして子供たちの成長はないのです」と、校長先生の教育思想のもと、阻止されている。
だけあって、いまだに紙の本が山ほどある(もちろん電子版も無限に)。

ヒカルは紙の本が好きだった。
だからこの図書室の常連。
今日も昔のSF小説でも読もうかとセンサーにタッチした。
「ヒカル、アーサー・Cクラークはいかが?」
「先週も読んだよ。別のがいいな」
「ヒカル、でもあなたの心はアーサーを読みたがっているわ」
「まあ、いいけど」
「ヒカル、あまり乗り気じゃないのね。だったら、別の惑星の写真集でも眺めてみなさいよ」
「別の惑星の写真集?本物の写真?そんなのあるんだ。知らなかった」
「ヒカル、知らなくて当然よ。だってヒカルはまだ小学3年生だから」

ヒカルはセンサーの情報を頭にインプットして、写真集のコーナーに来た。
「わあー」、目をキラキラさせて、写真集に没頭した。
「ユウヒ?」
ヒカルは、オレンジ色に染まる空の写真に釘付けになった。
ヒカルは夕日を知らなかった。本物の太陽を見たことがない。

この都市に太陽が昇ることはなく、月が昇ることもない。
この都市の明るさは電気の明るさ。
この都市に夜はなく、星もない。

かつて、はるか昔、こことは別の都市があったことは、
ヒカルも歴史の授業で習ったから知っていた。
でも、夕日のことは歴史の授業で習わなかった。

「夕日を、僕たちは決して見ることはできないの?」
受付のセンサーに尋ねた。
「ヒカル、夕日は買えます。しかし、べらぼうに高いです」
「え?売ってるの?」
「ヒカル、冗談です。私たちの都市では夕日を見ることは不可能です」
ヒカルはがっかりした。
「ヒカル、でも、方法はあります」
「なになに?」ヒカルはワクワクした。
「ヒカル、創るんですよ。夕日を創るんです」
「創る?」
「ヒカル、作り方はこの図書室の中にあります」
「なんの本を読めばいいの?」
「ヒカル、アーサーはいかが?」
「もういいよ」
と、ヒカルの後ろから見知らぬ少女が話しかけてきた。
少女はヒカルの数個上の先輩。
「SF好きの生徒たちには、たいていこのコース。星新一→アーサー・Cクラーク→惑星の写真集。知ってた?」
「センサーは僕たちの深層を読んで、答えてくれてるんじゃないの?」
「違うわ。校長のマーケティング戦略よ」
「なんのために?」
「これよ」と言い、先輩はTwitterを見せた。

「校長先生はこことは別の都市を作る計画をしているらしいよ。
その計画のために今から生徒を選抜して育てるんだって。それが「太陽クラブ」」

「そのクラブはもう始めってるの?」、ヒカルは先輩に尋ねた。
「今日の5時にどこかに集合するらしいわ」
「どこだろう?行ってみたい」
「クラブに入るつもり?親には言ったの?」
「知らないよ。だって今知ったんだもん」
「それもそうね」
「で、どこに集合だろう?」
と、センサーが大声で叫んだ。
「ヒカル、だからアーサー・Cクラークはいかが?って言ってるでしょ?」

二人は渋々アーサー・Cクラークのコーナーに行った。

2001年宇宙の旅をめくると、「0322 05PM、図書室に集合」と、書いてあった。
あと1時間後。
ヒカルと暇な先輩は「太陽クラブ」待つことにした。

To be continue.

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