渡岸寺観音堂 十一面観世音菩薩像
何度も何度も写真を見て、お会いできる日を待ち望んでいた十一面観音様は、真冬の収蔵庫のピンと張り詰めた空気の中で、静かに微笑まれていらっしゃいました。その姿はあまりにも美しく、しかし、美しいという言葉が的はずれな表現にしか思えず、かと言ってどう言えばいいのかも分からず、ただただじっと見つめるしかありませんでした。
仏様はそれを信じる人にとって、一つ一つがかけがえのない仏様ですし、比べるものではないことも分かっているつもりです。それでもなお、この十一面観音様の前では「この仏様は他の仏様とは全く違う。」という思いが湧き上がってくるのをどうしようもありませんでした。
2m近い、大きな仏様です。両耳の後ろに大きな小面があり、頭の上のお顔も大きめですが、そのそれぞれのお顔がまたなんとも言えず素敵です。そして、耳にはインドの神様が付けている大きなイアリングをつけていらっしゃって、なんとなく異国的な感じがします。
係の方に「寒いのでこちらへどうぞ」と言われ、ホットカーペットに上がらせて頂き、冷え切った足を温めながらお話を伺いました。昔、いくさがあると仏様を土に埋めて守ったこと。お寺の当番が、この地区の住民だけでは人数が足りないので、隣の自治会からも応援に来ていること等を話して下さいました。
先程までいらっしゃったご家族づれが帰られたので、国宝の十一面観音様を独り占めにして、後ろや横からもそのお姿を繰り返し見させて頂きました。
拝観を終え、雪の残る参道を歩きながら、やはり仏様の素晴らしさは実際に拝観しなければ、その何分の一すら分かりはしないなあと、改めて思いました。