一家の大黒柱(ショートショート)

 長方形の棺桶が家に運び込まれる。棺桶が開くと、父さんはその中に入り、母さんと最後の言葉を交わす。母さんが涙ぐみ離れていくと、今度は兄さんが呼ばれ、父さんと最後の言葉を交わす。兄さんが険しい表情を浮かべ離れていくと、最後に僕が呼ばれた。

「お前はいずれ、この家を支えなければならない。幼いお前には、まだ意味がわからないと思うが、これだけは言っておく。父さんがこの家を支えている間は、お前は安心してそのときが来るのを待ちなさい」

 父さんが言い終えると、村人たちは僕にここから離れるよう促した。

 大工さんが家の中心にある柱を、ノコギリで切り始めた。家は鋼鉄の棒で支えられているから、柱を切られてもびくともしない。切り終えると、父さんの入った棺桶を村の力自慢が運ぶ。そして、さっきまで柱のあったところに棺桶を差し込むと、ぴったり収まった。

「みなさん、ありがとうございます! これでやっと、立派な大黒柱になれます! 本当にありがとうございます!」

 父さんは声を張り上げ最後の言葉を口にすると、深い眠りについた。

 

 この村の男は、二十歳になるとお見合いを経て結婚させられる。そして子どもが二人できると、家の柱として生きなければならない。それが村の風習。

 柱になるのは例外を除いて次男と決まっている。長男は柱になった次男を支えるという役目がある。ちなみに次女が生まれてしまった場合、例外として長男が柱になる。

 僕は次男だから、二十歳になったらこの家の柱になることが決まっている。父さんみたいに。

 

 十八歳の誕生日を迎えた。この歳になると、柱の取り替えに駆り出されるようになる。

 僕は村の奥にある、大きなお屋敷に来ていた。今日はこの家の次男が柱になる日だから、村の若い衆が手伝いに呼ばれている。

 この家は何代も住み続けているから、柱は切らず交換するだけ。つまり、古い棺桶と新しい棺桶を交換するのだ。次男が棺桶に入りスタンバイすると、僕含めた若い衆が、古い棺桶を力任せに抜き取る。そして、新しい柱として棺桶を収めて任務完了。

 古い棺桶が外に運び出されると、村長の指示で中を開けた。

「はて、ここはどこじゃ? ワシは誰?」

 鉛筆のように痩せ細った、真っ白い肌のおじいさんが出て来た。状況が理解できないのか、あたりをキョロキョロ見回している。無理もない、ずっと棺桶の中にいたのだ。それに、生きているだけで奇跡だ。

「お役目、ご苦労様でした」

 村長がそう言って頭を深く下げると、おじいさんは若い衆に抱えられ運ばれて行く。役目を終えた柱は、山奥に捨てられるのだ。

 

 二十歳の誕生日を迎えた。今日はお見合いの日。僕は柱になりたくなかった。だって柱になったら身動きできないし、役目を終えたら捨てられる。考えただけでゾッとする。そのことを兄さんに相談すると、嬉しそうにこう答えた。

「よし! 兄さんが代わってやる。大丈夫、俺とお前は似ているからバレやしない。だから、今日からお前が長男で、俺が次男だ。俺がお前の代わりに柱になってやる」

 たしかに、僕たち兄弟は年子で、よく似ていると言われる。だから兄弟が入れ代わっても、おそらく誰も気づかないだろう。

 僕はこの日から兄さんと入れ代わり、長男となった。そして、兄さんは次男となり、お見合いに行った。

 

 兄さんは結婚すると、すぐに一人目の子どもが生また。そして翌年には二人目も生まれた。二人とも男の子だ。

 ほどなくして、兄さんが柱になる日がやって来た。兄さんはあの日の父さんみたいに、奥さんと子どもと最後の言葉を交わすと、棺桶に入り柱となった。

家はそのまま継いだから、古い棺桶から父さんが出て来たけど、すでに息絶えていた。

 

 僕は今、床下にいる。長男になった僕は、柱となった次男を支えなければならない。つまり、「縁の下の力持ち」として、床下で一生過ごすのだ。柱になって身動きできないよりはマシだけど、床下は狭いから這って動かなければならないのがつらい。

 床下には伯父さんの腐敗した遺体があった。僕は伯父さんの骨を取り出すと、その骨で地面を掘った。目的は外に出るため。もちろん、こんな変な風習のある村から出てくつもりだ。


※この作品は、落選作品です。
もうやばい。今の部署、問題ありすぎて創作活動ができない。
今の状況を簡単に言うと、前のリーダーが処理しきれなかった案件が実りに実って自分に襲いかかってきています。

 

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