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Journal of "Tokyo Good Morning" vol.04
2025年2月27日(木)から東京・三河島のアートスペース「元映画館」で上演する新作『トーキョー・グッドモーニング』。本作のクリエイションの過程に伴走してくれるつちやりささんによる稽古場レポートを、Journal(ジャーナル:日々の出来事を記録するもの)としてお届けします。
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———2/6(木) 握りしめる
今日は、以前行った発表のうちのいくつかを振り返るという日。バストリオは稽古場を転々とすることが多いので、以前違う場所でやった発表を、今日この場所でどうやるか、もう一度起こせるのか。そういうことを試してみる。
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かなさんとスカンクさんの発表の振り返りの様子を見せてもらう。前回この発表をやった稽古場の天井には、フックがついていたらしい。そこにテグスを引っ掛けて、ある仕組みを作り、それを使って発表したのだという。今日の稽古場の天井はかなり高い。それにフックもない。ふたりはまずはその仕組みづくりに取り掛かる。こういうものがあったらいいのに、とどちらかが言うと、こんなもの持ってきたよ、とどちらかがカバンから取り出し、あれがない、と言うと、これでどうだろう?と代用のものを見つける。ふたりの道具と知恵を、見ているだけでたのしい。こういうのは得意だから、とニコニコしながら手を動かすスカンクさん。テグスのはしっこには見失わないように、マスキングテープを巻きつけておく。テープを貼るときは、あとからはがしやすいように必ずはしっこをちょこっと折り返す。そうした細やかさに、スカンクさんという人を少しずつ知っていく。そんな様子を見ていた今野さんが、もはやシステム作りが発表みたいだな、と言って笑う。発表を振り返るときって、どんなことを考えるんですか?スカンクさんに聞いてみると、自分のときはどうでした?と聞かれる(わたしは昨年の『新しい野良犬/ニューストリートドッグ』に出演していた)。うーん、前回のことをなぞる、ということではなくて、もう一度起こす、ということだったように思います、と答えると、スカンクさんは、そうそう、作業じゃなくて、自分のいとなみにしなきゃいけないんだよね、と言った。わたしたちが舞台上に見るのは、スカンクさんの、みんなの、いとなみ。
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黒木さんが発表の中で、イラストを描くときのことを話していたので、今回のフライヤーのイラストはどんなふうに出来上がったんですか?と聞いてみた。黒木さんは出演者であると同時に、宣伝美術のイラストも担当されている。今野さんから、今回のタイトルが小津安二郎の『東京物語』と『お早う』からきていると聞き、それらの作品に出てくるものをモチーフにしたり、作品から発想を得たりしながら描いたと教えてくれた。発表の中で、最初に描いたものがいいってわかってるんだけど、それでも何度も描く、ということを黒木さんが言っていたので、あれはどういうことですか?と聞いてみると、そうそう、やめどきが、いまのわたしの挑戦なんです。そう言いながら、黒木さんが小さく笑う。完成したところまでいきたくない。いままでさんざんやってきて、はじめに描いたのがいいってわかってるんだけど、それでもやっちゃうんです。
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橋本さんの、ほわの発表も振り返ることになった。そこで、ほわの発表をいっしょにやったのは、坂藤さんだったということを知る。今回は少し変えてみたので、これはこれで見てもらえたら。そうことわりながら、ふたりは発表をした。発表後の感想の時間に、なぜ前回から変えたのか、という質問がふたりに投げかけられる。橋本さんがその理由について、慎重にことばを選びながら、みんなに話す。この発表を人に見せる、ということを考えたときに、前回のは少し強すぎたというか、暴力的だったような気がした。そう思って、今回は少し変えてみた。それを聞いた今野さんは、少し考えたあとで、こう言った。「自分にはどうしても、この発表を客観的に見ることができなかった。」自分たちのために変えたのか?見る人のために変えたのか?伝えたかったことと、伝わったことが違うのかもしれないと思った。いやでも、客観的に見れない。今野さんが考え続ける。今回の発表は、ほわで終わっている、という感じがした。前回の発表は、ほわがいなくなったことをふたりが握りしめてくれていて、ほわのことで、ふたりのなかで何かが起きているという感じがした。もう一度、前回のやり方の、発表を見てみたい。今野さんがそう言って、少し時間を置いてから、もう一度その発表をやってみることになった。
感想の時間が終わると、橋本さんと坂藤さんはまたふたりで集まって、発表のことを振り返り、話し合い、確かめ合う。「これは見せるほうがいいかな、見せないほうがいいかな」橋本さんが考えていると、かなさんが「そのときの感じで、やってみたらいいんじゃないかな」と言って、「そやな」と橋本さんがうなずく。
みんなの発表がひととおり終わり、もう一度、ふたりがほわの発表をする時間になった。ふたりの発表を、みんなが静かに見守る。終わりです、とふたりが言うと、今野さんがすぐに、「おれはこっちだ。ほわのを見るなら」と言った。ふたりはやってみてどうだった?と今野さんが聞くと、かなさんが、前の発表もさっきの発表もやってみて、3回目にこれができたのがよかった、と答える。そうだね、おれもそう思う。今野さんが言う。「ほわのこと、みんなが発表にしてくれてうれしいよ。自分にはできないから。」今日一日のなかで、いちばん時間をかけて、みんなで考え続けた発表。かけがえのない、命のはなし。
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(執筆・写真:つちやりさ、カバー写真:Ralph spieler)
『トーキョー・グッドモーニング』公演情報
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なんでここにおんねや/誰や/知らんか/ええよ
声かけてみよか/返事なくてもええやんか
おはよう
イントネーションどこの国のやつでいく?
西から東から北から南から
中心から逸れたトーキョーボディ
全然やってこない星たちはいまも上にあって
真っ白に落ちてきたもん口に入れる
おはよう
死なんて遠くに追いやって
生きてるものが、おめでとう、ありがとう
◆クレジット
演出・照明:今野裕一郎
出演:菊沢将憲、黒木麻衣、坂藤加菜、佐藤駿、スカンク/SKANK、中條玲、橋本和加子、本藤美咲
音楽:コルネリ、高良真剣、中村太紀
美術:岩村朋佳
音響:岡村陽一
衣装:伏尾奏美
◆会期|2025年2月27日(木)〜3月6日(木)
2月27日(木)19:30-◉(早割)
2月28日(金)19:30-
3月1日(土)13:00-/18:00-☆(アフタートーク|ゲスト:横浜聡子)
3月2日(日)13:00-/18:00-
3月3日(月)休演日
3月4日(火)14:30-/19:30-
3月5日(水)14:30-/19:30-
3月6日(木)14:30-
受付開始・開場は開演の30分前
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