【昭和的家族】家族で買い物
私の両親は私が小さい頃こそ、そんなに遠くない場所にたまに家族旅行に連れて行ってくれたけれど、私が成人を超える前頃から、そんな滅多にしかない旅も一緒にしなくなった。それでも週末、父母が近所のスーパーマーケット等に車で行く時、”出掛けるな”という気配を察知し私や弟が一緒に車に乗り込んで家族で出掛ける事は良くあった。今思うとそれもある意味小さな家族旅行のようなノリだった。
行く場所は大抵広めの食料売り場のある近所のスーパーマーケットのどこかで、両親はカートの上下にカゴを入れてそのカートを押しながらゆっくりと売り場を巡る。私か弟は、其々自分の欲しい物を先回りして探しては、両親が押しているカートに戻ってそれらを入れて行く。流石に無断には入れなかった。それぞれが持ってきた商品を父に黙って見せて反応を見る。ほとんどの場合父は嬉しそうに笑って「いいんじゃないかな」と言ってその商品をカゴに入れるようにジェスチャーで示し承諾してくれる。母はそういう時はだいたい別の商品を見ていたりしてカートから少し離れた場所にいたので、この場合の承認者は父の事が多かった。勿論、私達は限度をわきまえているつもりではあったけど、結構色々な物を両親のカゴに入れていたように思う。確か当時、私も弟も其々毎月家計の足しにと少しは給料やアルバイト代を母には渡していたけれども、今思うと本当に心から甘えさせてもらっていた時間だった。
両親はその後、全ての食料品売り場をゆっくり回り終わり、父は「他にも何か買いたいものはあるか?」と最終確認してくれる。私達は首を振る。その後、レジの会計をするのは母だ。(父は荷物を纏める台に先回りして場所を確保している)私達は父の所に行って、母が戻るタイミングで荷物作りと運搬を手伝う。その後、重い荷物を其々持って一緒に出口に向かう。出口付近の売店や一時的に今川焼やたい焼き、たこ焼きといったお店を構えている屋台に、必ずという位の頻度で父が立ち止まる。既に両手に重い荷物が入った白いレジ袋を沢山持ちながら、父は私達の方を振り返り「これも買うか?」と聞く。「こんなに沢山買い物したからもういいよ」と仮に私達が言ったとしても、殆どの場合は父は誰の答えも聞かず買ってしまうのだけど。
両親がいなくなり、そんな予定の無い土日の、のんびりしたでも確実に幸せな買い物の旅は、今や遠いおとぎ話の国の出来事のようだなと、私は今思う。