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【MITOの奇妙な冒険】  主人公 南葦 ミト


フィクションです

あなたはまな板の上の鯉、クリオネクリスマス第一弾

南葦 ミト さん
を主人公に書いています
ご参加ありがとうございます


ズゥゥゥゥン

冬の空には珍しく、雲の高い日だった

ミトは朝食がわりの大きなカップに入ったカプチーノを飲んでいた

お気に入りのカフェで、同年代であろう女性がほんわりとした様子で切り盛りしている

鳩や雀や名も知らぬ小鳥が花壇や街路樹を行き交い、その風景に躍動感を与えていた

長く窓の外の景色をみていたからか、口にするカプチーノがひどくぬるい

やれやれ、ミトはコーヒーカップを右の掌で掴み、精神を集中させる

「緋色の波紋疾走(スカーレットオーバードライブ)!!」

ペリッ、ペリペリペリペリッ

カップ内のコーヒーが再び熱を帯びて、しぶきを上げて湯気が上がる!

「おいしい」

温め直したコーヒーに舌鼓を打ち、窓の外を再度眺めた


いつからだろう、この力を手にしたのは。

この街にきてからだ。


そんなことをぼんやりと考えていた


外に目をやる

おかしい、先ほどと何かが違う!

木と木の間の空気が!

向かいの花壇の花の傾きが!

小鳥たちの姿もない!

何者かが意思を持ってその景色の中を通り過ぎている!

この景色は、異常だ!

胸騒ぎ、ミトは冬の景色の中になにかを見つけた気がした

「この感じ、監視されているっっっっっっ!!!」

ミトは危機を感じ、窓ガラスを気にすることなくぶち破り、外に飛び出した!



時は遡ること2017年
メキシコの遺跡の中から発見された、通称【石の中の男】!
米国の調査団は石化した状態の【石の中の男】から炭素の放出を調べ、その破片から調査を進めた!
そしてその結果の出た翌日、米国はメキシコとの国境に壁を作ることを発表する!!

2019年2月!
メキシコにあるチアパス州沖で地震が発生した!
【石の中の男】を呼び起こすように!

地震の発生から数時間後、【石の中の男】の調査団の壊滅が判明し、【石の中の男】も見当たらなくなっていた!

物語は日本へと移る!!
そして、運命は惹かれ合う!!





「どこだっ!いるのはわかってる!そこかしこから古びたタンスの中で湿気った反物みたいな匂いがぷんぷんしてるぜっ!」

ミトはビルの壁に背中をつけ、辺りを警戒しながら叫んだ

「いつからだ!なぜ私を狙う!」

さらに叫ぶ

「ここだ」

頭の後ろで声がした

素早く振り向き距離をとったが間に合わないっ!

ビルの壁からヌルッとした感じで男が出てきた!

身の丈は190cmはあるであろうその男が強烈なパワーでミトの腹部へ向けて拳を繰り出した!

ばざぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、吹っ飛び、街路樹の中へ叩き込まれたミト、一瞬意識を失いかけたが、とっさに波紋で腹部をカバーしたため致命傷は免れた!


【波紋】とは!!
特殊な呼吸法により、体を流れる血液の流れをコントロールして血液に波紋を起こし、太陽の光の波と同じ波長の生命エネルギーを生み出す秘法である!!
この波紋を流すことを波紋疾走といい、治癒に使ったり、普通の攻撃では倒せない吸血鬼や屍生人を浄化させることができる!!


「なんてパワー、少しやばかったわね、波紋がなければ」

コォォォォォォォォォ、呼吸を整える

巨大な男がこっちへ向かって走ってきている!

ミトはまだ街路樹の中に引っかかっている状態!

その高さ、3mほど!

あの巨大な男であっても私に致命打を与えるにはこの木を少しは登らなければいけない!

そう、この木を!生命である、この木を!!


男が木に手をかけた!

入った!

エネルギーの流れを感じる!!

「生命とは、水のかたまり!水とは、波動の力!疾れ!!青緑の波紋疾走(ターコイズオーバードライブ)!!」

「ピニーーーーーッッ!!」

男は地面へ落下し、動かなくなった


「へへっ、どんなもんだい!」

木から降りたミトは男に向かって歩き出した

「危ないっ」

声がした!

声のした方向にはカフェの店員さんがいた!

「深煎り豆色の波紋疾走(イタリアンローストオーバードライブ)!!」

ぱちぱちと音を立てて煎りたての豆が男にむかって放たれた!

「キュンッ!」

半身を起こしかけた男は再度地面に倒れた


「店員さん、あなたもこの力を…?」

「はい。わたしも。正確にいうならば、わたしがこの力をあなたに与えたの。いつもコーヒーの中に入れていたの。巻き込んで悪かったと思ってる。でもあなたの力が必要だった。強力な意思からくる正しい心、世界にはその波紋が必要だった」

「なぜ…」

「巻き込んで悪かったと思ってる。でもあの男から世界を救うにはあなたの力が必要だったのよ。ずっと待っていたの、あなたが現れるのを。そして間に合ったの。あの男が目を覚ます前に、わたしはあなたに出会えた。さぁ、準備を。話はまた後で。来るわ」

シュゥゥゥゥゥゥゥ

男がすごい形相でこちらを睨みつけ、その口からは蒸気のようなものが溢れ出ている

「本気ってことね。店員さん、お名前は?これからはコンビプレイが必要になるわ。わたしはミト」

「うん、ミトさん、スタンプカードに書いてあるから知ってるわ。わたしはクリオネ。流氷の天使」

「オーケイ、クリオネさん!行くわよ!」

男がものすごい速さで迫ってきた!

エネルギーが黒い影のように2人を執拗に追う!

「ミトさん、今はよけて!反撃しようとは思わないで!もう少したてば今ほどの勢いはなくなるはず!」

「了解!反撃しようったってこれじゃ無理よ!きゃあ!」

影に足をとられたミトに男が拳を振るう!


ギョウウゥゥ


「クリ オネ さ ん?」

目の前にはミトをかばい血を流すクリオネがいた

「きに、しないでみ とさん わたしは だいじょうぶ よけて まだはんげきしちゃだめ!」

そう言ってクリオネは気を失った

「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!!」

ミトは血を流すクリオネを見て正気を失いつつあった

怒りが湧いてきた

抜き差しならぬ状況であることは間違いない

冷静にならなければならないこともわかっている

それでも怒りが増せば増すほど、男の影は勢いを増した

「ぶしゅるしゅるしゅる」

激しい攻撃を避ける!

「邪悪な!なんと邪悪な!!」

息の切れてきたミトは吐き捨てるようにそう言い、反撃態勢に入った!

「さぁ、こい!とっておきをくらわしてあげるわ!」

ミトが数歩前に出る!

「にせんねんまえと いっしょ ミ ミトさん  感じてください、 影にたちむかっちゃだめ、怒りに身をまかせてはいけない かんじて!目を閉じて!」

クリオネは虫の息になりつつも、精一杯の声を振り絞る!

「とどいて ください、 わたしのメッセージ みとさん どうかとどいて く ださ い」

動かなくなったクリオネ

ミトはなにか黄色い光を感じた

その瞬間に前に出る足を止め、その光に意識を集中する!

クリオネから発された波紋、ミトはたしかに感じとった

「力とは、力とは、!!光だ!未来を照らす光だ!うぉぉぉぉぉぉぉ、クリオネ!感じるぜ鼓動(ビート)!燃やし尽くせ灼熱(ヒート)ォォォォォォォォ!!」

ミトの体がオレンジ色の波紋に包まれ、世界を照らす!

戦闘中とは思えぬ奇怪なポーズをキメ、波紋が溢れ出した!

「くらえ!!!」

ダッ!

「山吹色の波紋疾走(サンイエローオーバードライブ)!!!」

眩い光が男を包む!

意識を失っていたクリオネが目を覚ます!

「この光!このパワー!圧倒的!圧倒的!圧倒的ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「ミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミト!!!」

ミトが拳を連打する!!

「ピーッッッ!」

光の渦にのまれ、男が叫ぶ!

「おまえが謝るまで、わたしは許さない!ミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミト!!!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃ」

「すごい!ミトさん!イカしてるぅぅぅ!」

山吹色の波紋が星屑のように舞う!!

「ミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミトミト!!!!!」

「わたしが悪かったですぅぅぅぅ、もうリタイヤですぅぅ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」

光とほこりにまみれてもなおも奇抜なポーズを崩さないミト!

男は消滅した




「クリオネさん、大丈夫?」

「ええ、わたしは平気よ」

いつのまにかクリオネは血も流れず元の姿にもどっていた

「あなたは、いったい」

「わたしはずっとここで待っていたの。あなたに出会えるのを。2000年も前から。石の中の男を監視しつつ、ずっとこの時を待っていた」

「2000年も!?わたしを?」

「そう、ほかでもないあなたを。2000年前、あなたはわたしをかばい、この力を託した。でもわたしはうまくこの力を使いこなせなかった。あの石の中の男を抑え込むには至らなかった。だからあなたがまたこうやって正しい力を受け取れるこの日を待っていたのよ」

「でも、どうやって2000年も?」

「石の力。あの石の中の男と同じ力よ。石仮面と呼ばれる仮面を被り、わたしは不老不死を得た。通常ならば波紋の力でわたしは消滅するのだけれど、なにかの運命の悪戯か、わたしは今まで石の力と波紋の力を併せ持って生きてこられた」

「石の力とは?あの男はいったい何?」

「力とは光、ミトさんはそう言ったわね。でも時に光は影を生む。光が眩しくて、羨ましく思う者がいる。影からじっと。そして考える。光さえなければ影は生まれない。ならばその光を消そうと。なにもかも消してしまおうとする。光がなければ時間は止まるわ。世界が終わるの。でも、あなたの光はこの世界を何もなかったかのように照らしたわ。ありがとう、ミトさん。あなたが時間をつなぎとめてくれた。誰の想像よりも確かに、そして強く、再びこの世界のネジを巻いてくれたの。やっとわたしも元の正しい時間へ戻れるわ。あなたのおかげよ、ミトさん。あの日あなたがわたしに託してくれた力、それは今、あなたと共にある。もうこのような恐怖は訪れないかもしれない。でもその力は形を変えて、ずっと輝き続けるはずよ」

クリオネが黄金の色をまとっていく

「クリオネさん!なにをしてるの!!」

「最後の石の力はここにある。さようなら、ミトさん。ありがとう。山吹色の波紋疾走(サンイエローオーバードライブ)!」

クリオネは太陽の光に溶けていくように消えていった。

ミトは思う、最後に少し、クリオネが微笑んでいた気がした、と




数日の後、朝のこと


お気に入りのカフェで朝を過ごす

店の周りの花壇や街路樹には小鳥たちが行き交い、この風景に躍動感を与えている

「いらっしゃいませ!」

愛想の良い、若い女性がオーダーをとりにきた

「今日はなににいたしますか?」

「カプチーノを大きなカップでいただけますか」

「かしこまりました!いつものカプチーノ!今お作りしますね!」


カプチーノがいつもと同じカップに入ってやってきた

「あ、あの」

「はい、なにかほかに?」

「奇妙な、とても奇妙な話なんですが、あなたとは初対面のはずなのに、あなたはわたしのことを知っているかのように話をしている。奇妙な話なんだが。で、わたしは質問があって、前に働いていた女性、そう、わたしと同じくらいの歳の女性。たしかいたと思うんです。彼女は今日は?」

「前に働いていた女性?やだなぁ、ミトさん、この店はわたししかいませんよ!」

「いや、こう、オカッパ頭の背の高い女性です。たしか、そんな人でした。いつもいたはずです。」

店員の目がキョトンとしている

「ミトさん、大丈夫ですか?それにそれお砂糖じゃなくて、お塩ですよ。」

やれやれ、ミトは呟いた


カプチーノはすっかりぬるくなってしまった

何かがおかしい

ぬるくなったカプチーノ、なぜだ、ぬるくなったカプチーノになぜ喪失感を感じるんだろう

以前はこの一杯でもっと長く楽しめた気がする

いろいろ考えた

過去のことや今のこと、いろいろと思いを巡らせた

でもなにも変わっていないような気もするし、何かが変わった気もする

なにも特別なことを思い出せないので、ミトは手もとのタブレットの楽譜に音符をのせていった

この数日間、いろんなメロディーが出てくる

その音の中に心地よい波動のような、そんなものを感じている



空はまだ暗いけれど、それはもうすぐ春の来そうな、山吹色の太陽が暖かい朝だった



【完】

本日も【スナック・クリオネ】にお越しいただいき、ありがとうございます。 席料、乾き物、氷、水道水、全て有料でございます(うふふッ) またのご来店、お待ちしております。