【わたしだけのもの】 旅する日本語 第9話
ふと感じることが増えた。六月柿という名が先で、トマトがあとからついた名なのか、もしくはその逆なのか。
そんなことはどうでもいい、緑は車内の窓に映る自分に微笑みかける。
私は六月柿の妖精だ
私だけの六月柿、皆トマトと呼ぶといい。トマトと呼ばれれば呼ばれるほど、六月柿とわたしの親密度は上がるのだ
イタリアもスペインも、わたしが六月柿と呼ぶ限り、トマト祭りすらもわたしの前では無力だ
年間何百トンのトマトを煮込もうが、それはトマトですらない
モッツァレラとバジルと合わせようが、あなたたちは六月柿には届かない
出会いが私を変えた
やっと私は私になれた
スーパーのレシートに刻まれたトマトの字をみて安堵する
ずっとずっとこんな日が続きますように、トマトの字が×で塗り隠された野菜図鑑を抱え、緑は目を閉じる
そして、その朝が来た
ママ、私の中で実る自我。真っ赤に実る私の自我。
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席料、乾き物、氷、水道水、全て有料でございます(うふふッ)
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