紫陽花に一滴



永い永い雨の季節。

俺は傘を差しながら道を行く。


植え込みに、赤紫の紫陽花。

普段は気にもしないのに今日は足を止める。


いつか君と見た紫陽花を思い出した。


故郷のあの花は俺にとってかけがえのないものだ。

もう君は忘れているだろう。


いや、忘れていほしい。

こんな馬鹿な俺のことなんて忘れていてくれ。


大きすぎる夢を追って出ていく俺を

君は頑張れって送り出してくれた。


夢を叶えて迎えに来るって、そう答えたけれど

その言葉は、俺自身への呪いになった。


夢は日常に押し潰されて

追って生きていくことなんて出来なくて。


もし、あの時に

君と一緒に生きていく選択をしたら。


そんなことを考えてしまった。

無駄なことだと自嘲した。


今はただ、君が幸せであればいい。

強がりを呟いてみた。


紫陽花は雨の中で、花弁を耀かせている。


その花弁に涙が一つ、落ちた。


             「紫陽花に一滴」

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