叫ばないのはあなただけ ─平沢進ライブ「HYBRID PHONON 2566」現地レポート
2023年9月8~9日にグランキューブ大阪で、9月17日に東京国際フォーラム ホールAで平沢進 単独ライブ『HYBRID PHONON 2566』が開催された。
すべてがつまびらかにされる前の自分に今回のセットリストを伝えたところで、たぶん鼻で笑われ一蹴されるだろう。
「そんなのありえないだろ?」と。
前段:『HYBRID PHONON 2566』への道
2014年10月11~13日の3日間に渡って開催された平沢進 X 核P-MODEL『HYBRID PHONON』は、多くのファンに強烈な印象を与えた。
これまで一度も交わることが無かった、平沢ソロ名義で発表されつづけた楽曲群と平沢ソロ変名プロジェクト「核P-MODEL」の楽曲群を一度に披露するこれまでにない試みのライブだったからである。
その内容もソロ側からは「Kingdom」「Nurse Cafe」「庭師KING」、核P-MODEL側からは「アンチ・ビストロン」「Big Brother」、そしてP-MODEL時代の人気曲「SPEED TUBE」「Black in White」などなど、まさにキャリア総決算のスペシャルなセットリストだった。(2014年で60歳を迎えた平沢進の還暦記念ライブだったと推測)
巷で「ハイノン」と呼ばれた伝説の記録映像がDVDで発売されたのは2017年4月。2014年当時には平沢進の”ひ"の字もまだ知らなかった自分はすぐさまDVDを買い、感動し、熱狂し、そして「またこういう形式のライブ開催しないかなあ」と思い焦がれた。同じ考えのファンが全国各地に居ただろうと思う。
それ以後の2015年『WORLD CELL 2015』、2017年『第9曼荼羅』、2018年(核P-MODEL名義)『LIVE 回=回』、そして2019年に出演した『Fuji Rock Festival』とほぼ年1ペースで開催されたライブでは、それぞれの名義の楽曲は演奏したがソロと核Pの曲を交互に演奏してはこなかった。
世間では「なんかヤバげな感染症流行ってるくね?」と騒がれ始めていた2020年3月初めに平沢進が投稿したポストでファンは大いに盛り上がった。
これは2020年2~4月の3ヶ月間にかけて行われた『会然TREK 2K20』シリーズの東京編『会然TREK 2K20▲03』の内容についてのツイートである。
読んだ瞬間に叫んだ。まさかHYBRID PHONONスタイルのライブを見られるとは夢にも思わなかったのだ。
タイトルこそ「HYBRID PHONON」ではないものの、これはほとんど「ジェネリック・ハイノン」じゃないか。その感動は計り知れない。言葉にならない高揚感を常に感じながらライブまでの数日間を過ごした。
当日を迎えたライブはあっと言う間に終わった。
日替わり曲こそ少なかったものの「MOTHER」「巡航プシクラオン」、極めつけは中期Pから「LOOPING OPPOSITION」と、ハイノンから6年経った現在の平沢が送る豪華なベストヒット的セットリストで、終始圧巻のパフォーマンスをくらった。
2021年4月、世界の間隙を縫って大阪で2日間にわたり開催された『24曼荼羅』でも『会然TREK 2K20▲03』と同様に「ジェネリック・ハイノン」形式が取られ、「スノーブラインド」、「排時光」、ハイフォでも演奏された改訂Pの「論理空軍」などが演奏された。ただP-MODEL時代の楽曲は「論理空軍」のみであり、それも1日目にしか演奏されなかった。
この両公演にはドラマーのユージ・レルレ・カワグチ (#STDRUMS)が参加していたから「ドラムが映えるステージングしようぜ」的なところもあったのだろうが、それにしても2年連続でそんな贅沢をファンにさせていいのか。とんでもない。
同年に2度目の出演を果たした『Fuji Rock Festival』においても「夢みる機械」、「アンチモネシア」、「ENOLA」、そしてツイートでその演奏を匂わせていた中期Pの「HOLLAND ELEMENT」などを演奏。
もはやヒラサワ、留まるところを知らない。自身が持つ40年のキャリアで残した膨大な音源アーカイブを使いこなし、人々を魅了した。
2022年に開催されたインタラクティブ・ライブ『ZCON』にしてもそうだ。
これまでのインタラではほとんどP-MODEL曲はおろか核P-MODEL名義の曲なんて演奏されたことがなかったため、2曲めに演奏された核P-MODEL「TRAVELATOR」はかなり衝撃であった。
「もはやソロと核P-MODELの垣根は崩れつつあるのか」と考えていたところに舞い込んできた『HYBRID PHONON 2566』開催の報。
ここ最近のセットリストの傾向を踏まえた上で、いま改めて「HYBRID PHONON」と銘打ったライブをやるということは、P-MODELからソロ、そして核P-MODELの新旧曲を織り交ぜた豪華絢爛ベストヒット最強セットリストのライブを開催するんだな、と、どこか何かが腑に落ちたような感覚を自分は覚えたのだ。
そして大阪2日間、東京1日、すべての公演が終わり、記憶を反芻している現在、すっかり忘れていたことを思い出した。
相手は"あの"平沢進だということを─────。
本公演について
公式による第一報(4月28日)後に公開(5月23日)された公演詳細まとめページにはこのような文言が記載されていた。
「やはり前回のハイノンと同じ形式だ!」と確信した。
そしていよいよライブが近づいてきた8月25日、公式ライブ用アカウントが再起動されたのだが、そのヘッダーを見てほしい。
左から赤、ピンク、青の3色展開だ。言わずもがな、
ソロ・アルバム最高傑作と名高い『救済の技法』のジャケットからの赤、
すべての始まりであるP-MODEL『IN A MODEL ROOM』からのピンク、
新境地を切り開いた核P-MODEL『ビストロン』からの青である。
それこそ平沢進がほぼ毎日する定期ツイートのなかで半ばシャレのようにP-MODELの名を出すことや、核P-MODELの『ビストロン』や『回=回』のライナーノーツで名前が引用されることは多々あった。
だからこそ、公式サイト上でのHYBRID PHONON 2566の情報解禁時には書かれていなかった、特設サイト発表時に追加された文言には驚かされた。
平沢進ソロと核P-MODELだけが”融合”するというならまだしも、そこにP-MODELまでもが加わってきてしまった。
お祭りだ。完全に。
かくして『HYBRID PHONON 2566』は多くのファンの期待を背負い、大阪初日公演である9月8日を迎えたのである。
大阪公演と東京公演のはざま
ここ数年の平沢ライブ、特にノンタラ(=インタラクティブ・ライブではない通常のライブ)において、1曲目は出囃子という観客の期待と興奮を嫌でも煽る”装置”込みなので当然盛り上がる曲を選ぶのだろうが、それにつけてもサプライズ選曲であることが非常に多い。
例をあげていくと、前述した「会然TREK」シリーズの『2K20▼02』では「電光浴」〜「世界タービン」のメドレー、『2K20▲03』では「SPEED TUBE」と「おやすみDOG」、『24曼荼羅』では「ロタティオン(Lotus-2)」が、
また核P-MODEL名義の『LIVE 回=回』では「Zebra」「いまわし電話」、さらには「2D or not 2D」「回収船」などかなり意外なところを攻めてきた。
今回のハイフォ2566でも出囃子~1曲目は凝った演出だった。詳しくは後述するが、今回のライブは今から演奏する曲がソロ、P、核Pのどれか全く予想がつかない状況ではなく、1曲目をはじめ数曲区切りで「このサイドの楽曲を今から演るよ」というほとんど犯行予告まがいの演出がなされる。
初日は解凍P『big body』よりなんと「BiiiG EYE」!
同アルバム収録の1曲目にふさわしそうな「CLUSTER」ではなく「BIG FOOT」でもなくこの曲とは、かなり驚きの選曲である。
2日目は核P-MODEL『Gipnoza』より「Alarm」。ライブを観ていない人は「1曲目に持ってくるには意外と地味な曲だ」と思うかもしれないが、実は今回のライブ、1曲目の選曲には法則がある。
それは「シャウトのある曲」ということ。「BiiiG EYE」も「Alarm」も平沢進・魂のシャウトをふんだんに使用した楽曲である。
観客の期待がマックスになり平沢進がステージ上に登場するとき、姿を見せると同時に曲中でされるシャウトをしながら現れる。
ここまで読み進めてきた察しの良い方ならわかるかもしれないが、ここで選曲基準にもう1つの法則を読み取れる。初日はP-MODELの楽曲、2日目は核P-MODELの楽曲を据えてきたのだ。
すなわち、3公演それぞれで ”シャウトが曲中で使用され” かつ "ソロ、P-MODEL、核P-MODELそれぞれ"の楽曲を1曲目に選んでくるのではないだろうか。
大阪公演でP-MODEL、核P-MODELとくれば次の東京公演ではおのずとソロ楽曲が演奏されるだろう。ソロで初めてシャウトが使用された「Mirror Gate」か、セイッ! の「Day Scanner」か、それとも手堅くインヤーでおなじみの「Town-0 Phase-5」あるいはヘーイヤイーの「庭師KING」か。
否が応でも高まる期待を胸に抱きいよいよ初日であり楽日・東京公演に望む我々を待ち受けていたのは、あまりにも予想外の結末と始まりだった。
本題:全楽曲感想
入場。大阪公演がクソ席 あまり良くない席だったぶん東京公演ではかなり良い席を引けた。それこそステージ上を鮮明に見渡すことができ、御三方が楽器を弾く手付きまで肉眼でバッチリ見えるくらい。
席に座り後ろを振り向くと圧倒的な人・人・人。ホールAは5000人ほど収容可能らしいのだが、それがほぼ満杯になっているのは壮観だ。
デカすぎるキャパがゆえ開演はちゃんと10分押しました。入場列が国際フォーラムの建物に沿って出来ていて、それが折り返していたくらいなのでしょうがない。
2度ブザーがなり暗転、いよいよハイフォ2566の総決算・最終公演だ。
ステージ中央には丸形のパネルが設置されている。
近年平沢ソロで用いられるロゴ、ビストロンで用いられたクエスチョンマークに似たロゴ、そして『IN A MODEL ROOM』のジャケットに使われているピクトグラム調ヒト型のロゴが組み合わさり「P」の形を取っている。
その両脇を挟むように、縦長のLEDモニターが左右で1枚ずつ据えられている。『2K20▲03』の構成に似た非常にシンプルなステージだ。
0. 出囃子
今回の出囃子は『BEACON』でも用いられていたようなクリスタルな音がメイン。段階的にサウンドが重なっていく、ここ数年で定番になった構成は観客の興奮を最高潮まで盛り上げる。
まずは会人の2人が登場。それと同時に曲が一旦終わり、4つ打ちのリズムと共に照明がピンク→青→赤と移り変わっていく。テンポアップに合わせて目まぐるしく変化していた色彩の種類は、サウンドが終わると共に固定される。
両会人のわきには投光機が設置されていたのだけれど、なんとそれをサイドごとの色で客席に投写するのだ。これが前述した「このサイドの楽曲を今から演るよ」という演出である。
【幕間解説】サイド変更演出について
ハイフォ2566ではだいたい2~3曲ごとに演奏される楽曲のサイドが変わるのだが、そのタイミングで演出が入る。
その演出の流れは、
①前述したリズムとサウンドに合わせて照明が3色に変化
※赤→ソロ、青→核P、ピンク→P-MODEL
②サウンドが終わりサイド確定。
会人が投光機でサイドごとの光を客席に投光
③ひとしきり観客席に光を当てまくった後、最終的にモニタに投光
④サイドに沿った映像がモニタに映される
というものだ。
さて、観客の大半が予想していた平沢ソロの象徴である赤色は点灯せず。
まさか、あの妖しいピンク色が投光されるとは。開幕P-MODEL再び。観客たちはいよいよ抑えきれない衝動と共に大歓声をあげ、舞い戻ったP-MODELのどの楽曲が演奏されるのかと胸を躍らせる。
今回のライブで印象的な演出のひとつに「叫ぶ」がある。それだけ聞いてもなんのこっちゃだろうが、今回の出囃子~1曲目で平沢進がステージに現れる際、シャウトをしながら現れるというのは前述した通りだ。
まずイントロを少しだけ聴かせ、いよいよ平沢が姿を見せる際に人工音声が「叫ぶ」という言葉を発し、そのあとに平沢がシャウトをする、そこから演奏スタートというのが大阪公演2日間でお決まりの流れになっていた。
だからこそファンは東京公演の1曲目の条件が”平沢ソロ” で "曲中にシャウトのある" 楽曲だと考え、予想を張り巡らせていたのだ。
いざ東京公演、蓋を開けてみるとピンク色。まず第一裏切り。
何も考えられなくなった自分は宇宙ネコの顔をせざるを得なかった。
聞き覚えのある、でも生ではなく音源でしか聴いたことのない高揚感を煽るイントロ。
「え? でもこの曲シャウトなくない? なんでこの曲…あ、あれか」
などとアホな考えを走らせていたのを尻目に人工音声が朗々と声を発す。
「叫ばない」
「ハイ」
国際フォーラムが割れんばかりの大歓声。東京のド真ん中・有楽町の皆様にご迷惑をおかけしている。
かくして第二裏切り。叫ばないのはあなただけ。
1, DUSToidよ歩行は快適か?
・はいじゃないが。平沢進のこういう茶目っ気が大好きなんですよ。
・また新しくなったレーザーハープ(前回の24曼荼羅タイプはぶらさがり健康器みたいで何か安っぽかった)を捌く姿もカッコいい。
・前半のほう歌とハープがめちゃくちゃ怪しかったのはご愛嬌。まだ今回やってない曲だから。
・「群衆には~」からのモニタに映し出される映像との歌唱の同期がクール。白地に黒文字で歌詞が映し出されるだけのシンプルな演出なのに。
・はいじゃないが(二度め)。遠くを仰ぎ見るように手を額につけて敬礼のポーズ。二階席より上に座っている人々への救済か。
・還弦版なのにP-MODEL枠ということでいいんですね?
2, おやすみDOG
・東京でも? ありがとうございます。『2K20▲03』で会場に来られなかったファンへのサービスか。
・とはいえその時の音源をまんま使い回しじゃなくて、特徴的な声のブツ切りが入ったり少しアレンジされている。よりソロに近づいた印象がある。
・たぶんレーザーハープも使っているからだな。03で使っていたっけ?
・MOMO色デストロイが炸裂。下手側の席だったからギターを弾く手から何から大変よく見えました。
・「のこりギリギリ」のフレーズを弾いてくれるサービス精神。
・4-Dの「After Dinner Party」も混ぜ込んでいる?という投稿を観たけどそんなことはなかった。
3, 偉大なる頭脳
・やってくれたな
・もっと盛り上がっていけ(観衆へ)
・周りだと盛り上がっているより「何だコレ…?」の人が多かった印象。
・知らなかったのか、感動のボルテージを突き抜けて無になっちゃったのかという2択。後者であろう、多分。
・初期Pですよ? 『IN A MODEL ROOM』ですよ? マンドレイクですよ?!
・近年のライブだとけっこうギターとちったりしてたから、あのギターリフをまだ弾けてミスなかったのに正直驚いたし感動した。
・練習したのか、45年前の曲といえど身体に染み付いていたのか。
・歌詞改変されていた。さすがにいま「ラジカセラテカセミニチュアビッグ」はダメですか。あと「記憶の切れ目が死にめ」ってコーラスしてくれる人いないしね。
パート・チェンジ。赤点灯。
4, BEACON
・当たり前の話なんですけど、直近に出たアルバムだから観客も沸く。
・個人的にはちょっとだけ食傷気味。『ZCON』で満足した感がある。
・前回に比べてめちゃくちゃ声の調子・ギターソロが良い。
5, ロケット
・まさかの選曲。イントロが「ロケット」すぎる。
・アコギの立ち弾きって初めてしてる…か? 少なくとも自分は観たことがない。
・けっこう原曲に寄っている(っていうかほとんど原曲)ようなアレンジ。
・後ろに流れる歌詞が「つまみ食い」というか、印象的なセンテンスを強調しながら流れるように表示されていく。良い。
・「虚空へロケット」の「う」で声が裏返るのだけど、そこがすごく綺麗かつ音程を外さないで歌っていた。
6, TIMELINEの終わり
・この曲はもうエンディングとかじゃなくて普通に演奏するんだな。
・完フリ入りで。
・一番最初に手を挙げるタイミングで何か手から滑り落ちて「あれ何?」と思いながら観ていたんだけど、途中でピックだ! と気がついた。
・この曲始まってからギターなんて弾いていない、つまり前の「ロケット」で使ったピックをそのまま持ち続けてたってことじゃないですか。
・すなわちピックを持ったままアコギをおろして、そこから赤EVOを背負って歌い始めたってことで
・確信犯です
パート・チェンジ。ピンク点灯。
7, 時間等曲率漏斗館へようこそ
・嘘だろ?
・『big body』が優遇されている。
・「BiiiG EYE」もなのだが、改訂期のライブ(『ENDING ERROR』とか)でも結構な頻度でセットリスト入りしていたみたいだし、かなり古参ファンにとってはそこまでサプライズ選曲でもなかったのかな。
・ただ個人的にはかなり驚きだった。
・大阪2日目だと最後の方でリズム取れなくなったみたいで(映像収録的に)不安だったのだが東京では危なげなく完奏。
・この曲もレーザーハープを使用。先般の「おやすみDOG」と比べると使用風景にかなりしっくりくる。曲調がソロ曲寄りのエスニック風味だからマッチするのかな。
・間奏部分の「皆様の~」アナウンスはどうやら折茂昌美らしい(ネット情報)。なんだってみんな分かるんだ。
8, 1778-1985
・昇天
・正直なところこの曲新規アレンジだし大阪のみの演奏で済ませるわけないよな、とは考えていたんだが「そういうこと平気でする人だしな」とも。
・個人的にはこの曲が自分が現地参加できていない大阪1日目に演奏された時点で今回のツアーは心残りがあって完全に満足できないな、と思った。
・それでもやっぱり、あの怪しさ満点のイントロをいざ生で聴いたら少しだけ涙ぐんでしまって…。中期Pの楽曲群のなかで一番好きなんですよ。
・そんなにアレンジされておらず。どちらかというとソロ初期三部作に似た雰囲気の曲調になっていた。
・会人が前に出てきた。サービスタイム。ベースとギター弾いてる人が前に出てきたら、それはもうバンドじゃん。
・この曲でもレーザーハープを使用。下手に座っていたので、リズムに合わせて平沢さんが前に切り出す右手のほう。絶え間なくレーザーハープを弾いているのでかなり疲れそう。
・過去曲アレンジ史上で一番歌詞が変わっているんじゃないか。それにしても「メスメル イン ナノチップ」は最近の氏の考えド直球ですなあ。
9, Zombi
・まあ「1778-1985」演ったら当然こっちも演るだろう。
・モニタに映される映像があまりに魚のウロコっぽすぎて初め「Coelacanth」だと思った。『Perspective』だとそっちのほうが好きなのでちょっと残念。
・ストリングスやブラスの使い方とかのせいかアレンジがほとんど平沢ソロ楽曲になっていた。要はカッコいい。
・この曲も自分しか興奮してないのか? というくらいビックリするほど周囲の反応が薄かった(大阪2日目)んだけれど、SNS観たら(主にファン歴長めの人たちからは)称賛の嵐。仲間、たくさん居た。
・っていうか大阪の時点で盛り上がってたっぽい。薄かったの自分のまわりだけみたいでした。
パート・チェンジ。赤点灯。
モニタに会人(ペストマスク姿の)がひょっこりと現れた。恐らくこれは「次に演奏する楽曲は会人セレクト」ということを示唆しているんだろう。
10, LANDING
・本ライブのお笑い枠
・一体どういうことかというと、Aメロを歌いながら平沢進がポージングするんです。
・ポージングするんです。立つ→椅子に座る→ターミネーター→横臥。
・面白い。横臥のポーズが一番盛り上がっていた。
・椅子に座るポーズなんて1脚あれば十分なのにわざわざ2脚も用意してるところとか。
・大阪だとステージが遠すぎて何しているのか全然見えなかったんだけれど、東京は逆に近すぎて次のポーズが完全にシルエットで見えてしまった。なんのネタバレだよこれは。
・それはそうと、ポージングしているときも口パクじゃなくてきちんと歌っていて「すごいな…」と感動した。
・そういうしょうもないところで手抜きしないから寒々しくならないんだろうな。視覚情報で手一杯で歌詞とか頭に入ってこないのに。
・会場中、拍手喝采でした。いや拍手か?
・「虹を見たか」でステージ上が虹色になる演出にグッと来た。
パート・チェンジ。青点灯。ひょっこりと左からTAZZが。
いや…待て? 右からSSHOが?!
SSHOの首が動くと同時に点灯していた青は消え失せ赤に。激アツからの当たり(?)だ!
11, 賢者のプロペラ-1
・救済
・大阪初日はこの曲で2日目は「Lotus」と入れ替わりだった。たぶん東京で演奏するのは「Lotus」(結構アレンジ効いていたし)だろうなと思っていたところに、しかも激アツ演出でおいでなすったので興奮した。
・平沢進がステージの一段高いところ(デストロイ用お立ち台)に登って腕を前に突き出し指を差すと会人が投光機でそこを照らしていく。
・このパフォーマンス、実は大阪2日間で演奏された「崇めよ我はTVなり」と同じ形式を取っている(「崇めよ~」については後ほど)。
・投光機から発せられる白い光は賢者によって発せられていて、これが我々を浄化する聖なる光のように見えた。
パート・チェンジ。今度こそ青点灯。
12, HUMAN-LE
・本ライブのエンディング・その2(その1は「TIMELINEの終わり」)。
・あの印象的なリフってギターで弾いてたっけ? 聞き覚えがない。すごく新鮮だ。
・シンセを弾かないパートで暇を持て余したTAZZがギター弾いてるSSHOに絡みに行くのが面白い。真面目に仕事してる人に絡みに行くなよ。
・そんでSSHOも結構ノリノリなんかい。
・大阪2日目のアンコールで演奏したときはTAZZが投光機を直でSSHOに照射していたのだが、東京ではそれに加えて平沢進が真面目に歌ってるのを尻目に、その後ろまでお互い歩み寄ってごちゃごちゃしていた。
・社長の気が散るでしょうよ。
13, 暗黒πドゥアイ
・イントロから歌いだしをちょっと過ぎるまで大阪2日目に観た「パラ・ユニフス」と盛大に勘違いしていた。
・平沢進も核P曲なのに赤EVO携えていたからおあいこです。
・曲始まってすぐ気づいたようで赤EVOを降ろし、青EVOを担ぎなおす前に一度謝罪していた。平沢進、初の公開謝罪だ。いや別にそうでもないか。
・最初のほうにギター・トラブルがあったからか、新しくアレンジしたギターのフレーズが曲の途中まで全然聴こえなかった。
・シャウトすごい。「叫ばない」のぶんをここで取り返しているようだ。
14, 白く巨大で
・1番Aメロ終わりくらいからステージ上を練り歩く平沢進
・練り歩きながらスイッチをひねりまくる平沢進
・ひねる動作と同時にステージ照明が青→赤→ピンクのループで変化していく。「ステージを操っているのはワタシだ」と言わんばかりの演出だ。
・最近の白髪センターパートも相まって魔術師みたいでカッコいい。
・PA席の人が操作しているのかと思いきやギターの出番がないSSHOが変えているようだった。
・下手寄りに立っている時間が結構長かったので近くで歌っている姿&青EVOをじっくりと観られた。
・べつにギターソロを弾く前にせわしくスイッチングしなくてもいいんじゃないのか。
・案の定、途中でリズム掴みそこねてよくわからんタイミングで照明チェンジしちゃったのもご愛嬌。
パートチェンジ。赤点灯。
15, MONSTER A GO GO
・ソロ枠に聖遺物をそっと差し込んできたな
・この曲がカスタムトレンド入りしてて、実は大阪で現地参加する前にネタバレを喰らっちゃっていた。
・ただバレは曲名だけだったので、この曲がまさかソロ枠扱いでねじこまれてくるとは思わなかったので結果的には非常にサプライズ。
・かくいう自分もイントロのドラム・パターンだけで悶絶しました。
・まさか正式にリリースされたとは言い難いこの曲を焼き直しアレンジするとは思わないじゃん。
・改めて「ソロです」という感じで演奏されるとちょうどP-MODELとソロを足して2で割ったような感じがする。原曲も時期が近いぶん、平沢ソロの初期っぽい雰囲気があるからな。
・歌詞改変が。けっこうガラッと変わっている。
16, Lotus
・イントロが違いすぎて全然なんの曲か分からなかった。
・心臓止まるかと思った
・自分が平沢進に出会ったはじまりの曲で、今も平沢ソロで不動の1番好きな曲だから。
・アルバム『Switched-On Lotus』のアレンジ版よりもオリジナルに寄った感じで、しかし印象的なメロディが原曲よりもバグパイプっぽい音になっていた。最近の楽曲に見える電子音とストリングスとエスニックな音の比重の傾向が強く出ていて、電子音が多めに感じる。
・この曲でもギターを弾くようになるとは。やっぱりギター好きじゃん。
・「キミまだ~」のパート、低い方を歌うのはもうキツいですかね。歳を重ねると高音よりも低音のほうが出しづらくなるとBSPかなんかで言っていた記憶がある。
17, Another Day
・イントロの万能感だよなあ。どこまでも行ける気にさせてくれるストリングス。
・この曲をギター弾きながら歌ったらもうP-MODELです。ありがとう。
・「ぅぅぅぅううううあああああ!!!!」で昔の平沢進が顔を出す。片眉キッとつりあげてシャウトするのがカッコいい。
・「Day Another Day」でハンズアップするのがお決まりなんだけれど、ホール公演でもかなりの人たちが上げていてグッと来た。ライブの醍醐味ってそういうところにも見いだせるから。
・還弦版だからソロ枠ということでいいんですね?
「ありがとう。」
以上で本編が終了。ゾロゾロとステージを去る3人。
会場からは「まず出てこい」「いいから早く出てこい」の熱気だか殺気だかほとんど分からないようにテンポよくアンコールをねだる拍手。
けっこう長い時間焦らしてステージ上が再びライトアップ。
主演・平沢進のご登壇。
MC
・サラッと「ギターアルバム終わったし新しいアルバムまでのスキマ時間だったから」と言い放った。もう始めてるんですか? バイタリティの鬼かよ。
・平沢「ボツ曲があって今日はやらないけどまた今度…」
観客一同「「「えーーーーーーーー!!!!!!」」」
平沢「やかましい」
観客一同「「「キャーーーーーーー!!!!!!」」」
・ここで会人登場。
・はじめに出てきたSSHOがチェロの弦を刀のように腰から抜く。
・これよく分かんないけどもしかしたら妖刀MURAMASAじゃない?
・そのうちレーザーハープを刀で鳴らすパフォーマンスとかしそう。よく分かんないけど。え?先駆者がいる?・次に出てきたTAZZがデカい。前回ライブとは比べ物にならないくらい異様にデカい。
・会人それぞれの楽屋の名前欄が本名で書かれていてブチ切れた(筆者による誇大表現)らしい。ていうか「会人の本名」とか言っていいの?
・平沢「次の曲ですべて終了です」観客「え…」
・食い気味に「パレードです」と言い放つ平沢進。
・「えー」殺しが上手。
・そのわりに「えーじゃない」も言う。出血大サービスだ。
・っていうか配信を観ていて初めてそう言ってたのを知ったんだけど、現地はもう大歓声すぎて全然聴こえなかった。
さあ、東京・有楽町に狂気のパレードが来る!
18, パレード
・なんでこんな手の込んだカッコいい映像あるのに東京オンリーなんだ。
・歌詞が組違えに後ろを通り過ぎながら消えていくのがまさにパレードのようだった。
・ところどころ「Gipnoza」が演奏されるときに後ろで流れていた映像も使われていたみたいで「もはやすべてを出し切ってしまおう」という感じがする。
・「頼みはSSRI」が非常に明朗な発音。御大、歳を取るごとにクオリティアップするの本当に不思議で羨ましいです。
・「パレード」繋がりでもう一回「MONSTER A GO GO」演奏してくれないかなー、と思ったんだけどダメだった。
「ありがとう。」といつものように一言だけ述べてステージを去る平沢進と会人。これにて大阪・東京に連なる『HYBRID PHONON 2566』の全プログラムが終了したのだった。
一旦ここで、現地で実際に聴いた大阪公演2日目で演奏された楽曲の話も。
補遺:大阪公演感想
1階が前から縦に3ブロックほど分かれていて、その2ブロック目の右側、ほとんど一番後ろみたいな席だった。
おまけに双眼鏡を忘れたのでステージに立つ演者を豆粒サイズで観覧。そんな日もある。
1, Alarm
・1曲目にこれを持ってくるとはなんという渋さ。アルバム『Gipnoza』のなかでも人気曲に比べてかなり影が薄い印象を受ける。
・実際、2014年に開催されたレコ発ライブ『パラレル・コザック』以降で演奏されていなかったみたいだ。
・生で聞くとやっぱり新しく魅力を発見できる。シャウトのカッコよさとか歌詞の「銃身の先に立つキミ」って言い回しとか。
・オリジナルとは少し違ったギターソロの速弾きっぷりがカッコいい。
2, パラ・ユニフス
・初っ端から知らないフレーズをアグレッシブに弾きまくる平沢進。ただでさえ攻撃的な曲調なのに10割増しで破壊的だ。
・後ろのモニタに表示されるノイジーな青色が曲にマッチしている。
3, Gipnoza
・イントロで客席が沸いた。みんな好きだからね。
・これまでに行ったライブでかなり聴いてるなー、と思っていたんだけれど何と最後に生で聴いたのは2019年の『LIVE 回=回』だということがいま判明した。
・『2K20▲03』で聴いた覚えがあるんだけど、この記憶は何?
4, CODE-COSTARICA
・『白虎野』から演奏したのはこの曲と「パレード」だけか。
・ソロの中じゃ1,2を争う人気アルバムだってのに何と豪胆な。
・レーザーハープ捌きがキレッキレだった。回を重ねるごとに「この音を(に合わせて)弾いたほうが見栄えが良い」というポイントを掴むの最高です。
・キツめのサビ高音を出すために腹を抑えるという人間アピール
5, Wi-SiWi
・何故かこの曲の記憶がほとんどない。
・映像アーカイブを観てもなお「この曲ってこのタイミングで演奏してたっけ?」となるレベルだった。
・別に好きじゃない曲でもなんでもないのに…。不思議。
6, ビストロン
・小品というか決して印象的な曲ではないんだけど、なんか惹かれる曲。
・SSHOがついに核P曲でもチェロを? すごい。エポックメイキングだ。
・これ以前にも弾いていたらすみません。自分の記憶にないんです。
・原曲にはないギター。メロウなフレーズとソリッドなカッティング。
7, 崇めよ我はTVなり
・のっけから繰り出される「パンデミック」というワード。
・やってるな。
・WHO事務局長のテドロス・アダノムが演説で発した際の音源だと聞き及んだ(未確認情報)。本当にやりそうだし、多分本当だと思う。
・ステージから少し高いお立ち台に登って、何かを誓うように右手を顔の高さくらいまで上げ手のひらをこちらに向けるポーズを取る平沢進。
・後ろのモニタに走っていたカラーバーのノイズみたいなものも含めた演出の全てが相まって本当に本当の"アレ"な集会みたいになっていた。
・そこから腕を前に突き出し指を差すと会人が投光機でそこを照らす東京公演の「賢者のプロペラ-1」でやったパフォーマンス。
・ステージ上のライトが青色なのも相まって、冷静さを取り戻させるような、あるいは新たに我々が何らかに気づくための手助けをするような、そんな効果があるんじゃないかと本当に思えるような演出だった。
個人的見どころ・気になった点
まずは楽曲的な見どころの話を。
全サイド合わせて一番印象に残ったのは「Lotus」だ。
今回のライブで披露されたなかでも大多数が待ちわびたであろうP-MODEL時代の楽曲群を押しのけ、個人的トップに躍り出た。
「何だコレ?」と思わせるイントロから(誇張なしに)何百回も聴いたバグパイプ風のメロディに加わるギターの切れ味鋭い音。そして平沢進の、此岸にも彼岸にも響き渡るように抜けていく快活な歌声。東阪合わせて2回も聴くことが出来て本当に良かった。
P-MODELだと「偉大なる頭脳」。
あのカッコいいリフと「頭の中の頭に頭の中の頭が」を生で聴けるのはもはや自分が死んだあとだろうと思っていたからすごく嬉しい。変わったサビが今の平沢ソロっぽいところも良い。
「頭の中の頭に~」を歌っているときに(ほとんど読み取れないくらい)ノイジーかつ切り刻まれて表示されていたのだけれど、あれでも人って脳内で処理できるんだなと感心した記憶がある。
ソロだと「ロケット」。
PHONON2551で披露された際には、本人いわく「腑に落ちなかったアレンジ」だったらしいのだが、そのリベンジが完遂されたわけだ。
ステージをソロでこなしていた時代に比べ、ここ数年で会人を2人携えたことで使える音の選択肢が増えたのも関係しているのだろうか。
華美な装飾を施さず少しだけ変更を加えることでオリジナルよりも爽やかになったようなアレンジは、まさに「今の平沢進」を体現していたと思う。
核P-MODELだとかなり悩ましいけれど「Alarm」。
核P楽曲でシャウトなら「暗黒πドゥアイ」や「遮眼大師」など派手派手しい選択肢があるなかで、ライブの肝心要である一曲目にこの曲を持ってくるという意外性、そしてこの曲が秘めていたカッコよさに気づけたという大きな収穫を得られた点からこの曲を推したい。
大阪公演「崇めよ我はTVなり」/東京公演「賢者のプロペラ-1」で披露された投光機を用いたパフォーマンスが、今回ライブの演出面だとダントツでカッコよかった。
パフォーマンスの中身は前述したとおり「平沢進がステージの一段高い部分に登り、腕を前に突き出し指を差すと会人が投光機でそこを照らしていく」というものなのだが、曲によって全く雰囲気が異なった。
「崇めよ~」では青い光を、「賢プロ」では白い光を会場の至る所から観客席に投光するのだが、光の色が異なるだけでここまで感じるものが違うのかと感動した。
日常でも白色とオレンジ色の電球だけで感じる雰囲気が違うように、それをこのように大きな会場で見せられると今自分のいる場所がどこか別世界のように感じられ、大阪公演では"あっち"、東京公演では "むこう" に連れて行かれるところだった。
印象に残ったというか「これぞ平沢」を存分に堪能できた点だと、大阪「叫ぶ」東京「叫ばない」の一連の流れが挙げられる。
”3日間”、”ソロ、P、核Pの3サイド”、そして ”「叫ぶ」の2連発” という、これだけの「じゃあ東京の1曲目はソロに決まっている」とファンが考えるお膳立てをしておいてそれをあっさりとひっくり返す。
緊張感を高める演出とそれを裏切る行為のバランス、これが良い塩梅であり、これをサラッとやってのけるのが平沢進なのだ。
今回ネガティブに気になったのは物販対応だけ。
大阪公演の初日はかなり酷かった。14時販売開始を予定していたのにも関わらず12:30には販売を始め、その理由が「もう並んでいる人がたくさんいるから」と。
この対応(=列が伸びたから販売時間を早める)を一度してしまうと「じゃあとにかく早く行けば早く売ってくれるし買いそびれない!」という亡者どもがわらわらと湧いて出てしまう。
それこそ2日目には本当に居たようなのだが、朝9時台から会場付近で待機するような、近隣の配慮とかそういうことをなんにも考えない輩が増えてしまう。まったく悪手だった。
大阪公演の初日ではライトコートとかTシャツはともかく小物には個数制限を設けていなかったからか、(これも実際に自分が確認してはいないのだが)ピンバッジを20個も購入していく輩がいたそうだ。仲介業者か? そいつのおかげで2日目からは小物類にも販売個数制限がかかっていた。
フリマサイトではグッズの転売がチラホラと。地域限定のメモリアル・カードは5,000~7,000円、酷いものでは10,000円で取引が成立しており、Tシャツも8,000~10,000円で取引されていた。たしかにケイオスユニオンの物販はかなりの争奪戦なので早々と諦めたのかもしれないけれど、公式で事後物販を予定しているのにも関わらずいま転売ヤーから購入している連中もほとんど同罪だろう。
東京では「12時に待機列を形成します」というアナウンス通りに事が進み、なおかつ列が長すぎる+酷暑のために販売時間を20分早めていた。大阪のアレに比べてこれは正しい判断だと思う。
噂によると、その時点で列の全長が1500人以上にも及んでいたらしいので「今さら早めたとて後ろの方の人はアパレル類なんて買えないっしょ」という感じだろうか。国際フォーラム周辺に用事がなくても通り抜ける人が多いから通行の妨げにもなるし。
結論としては「事前物販しようや/事前予約させてくれ」に尽きる。
実際、『ZCON』のときは抽選に当たったFC会員のみだけどグッズの事前予約・会場受取が出来たんだし。自分は恩恵に預かれてないけど…なぜ前回実施して好評だったものを無くすんだ。FC限定でいいんで次回から復活してほしい。ケイオスさんの内部事情は一切分からないから事前予約制は準備が大変すぎてパンクしてやめたのかもしれないが、これだけ規模が膨れ上がったんだからその方面に詳しいスタッフ雇ってそこもキッチリすればいいのにな。
普段は「ありがとうございます!」みたいなリプがたくさん付く公式ポストにすら批判・否定的な意見集まってたの、かなりヤバいなと思う。
ここで気を取り直して、改めて東京公演のセットリストを。
東京公演のセトリだけを見てみると、かなりハイノン感(=お祭り感)を感じる。特に人気があるけれど近年演奏していなかった「DUSToidよ歩行は快適か?」「Lotus」「Another Day」あたり。
それに加えて軒並み20年以上ぶりの演奏になった「時間等曲率漏斗館へようこそ」「1778-1985」「Zombi」あたりは新規ファンへ平沢進から送られた挑戦状のようだ。
そして本ライブの白眉となったのは「MONSTER A GO GO」と、東京公演で演奏されたマンドレイクの遺伝子を持つ「偉大なる頭脳」。
さらに大阪公演で演奏された曲も観てみたい。
ほぼ30年ぶり、しかも改訂期のスロー・テンポなアレンジではなくオリジナルに似た「BiiiG EYE」を筆頭に、けして地味とは言えないメンツだ。
終わった直後はなんとも尖った選曲をしたものだ、と思っていた。しかし1週間ほど経ったいま再度確認してみるとこれが驚くほどにレア曲大放出のお祭り感が強い。
それでは、大阪のみ演奏されたうち「ビストロン」や「CODE-COSTARICA」、「Wi-SiWi」などがハイフォ2566を尖らせているのかというと、決してそうではない。
それでは「HYBRID PHONON 2566はキンッキンに尖ったセットリストだった」と自分に思わせるような要因は一体なんだったのか?
これは完全に選曲(順)の妙であり、なおかつ各楽曲の持つ性質が大きくあると思う。
先ほど例に挙げた3曲などはかなりそのような傾向があると思われるのだが、本ライブのセットリストには「地味」ではないものの「比較的玄人好み」な曲が多く、ありていに言ってしまえば「ここ数年でファンになった人たちには到底拾いきれないであろう」楽曲が多いのである。
最たる例が「MONSTER A GO GO」だろう。
これは1986年頃に制作されるはずがポシャったアルバム『MONSTER』に収録されるはずだった曲で、正式に音源として聴けるのは(ほぼ絶版に近い)P-MODELのCD BOX『太陽系亞種音』だけだ。そんなモノはよっぽど深いファンしか知らないんじゃないか。
それに加えて、ハイフォ2566では古参ファンをぶっ刺すような「”定番”から少し外してきた選曲」があまりにも多すぎると個人的には思う。
90年代初頭に開催されたライブの定番ナンバーであった「ロケット」はともかく、『サイエンスの幽霊』から選ぶなら「FGG」ではなく「夢みる機械」だろうし、『白虎野』から選ぶなら「CODE-COSTARICA」ではなく「白虎野」だろうし、『ビストロン』から選ぶなら「パラ・ユニフス」ではなく「Big Brother」であるべきなのだ。
上に挙げたような、いわば ”ハイフォ的” 選曲を避けたのは2014年に開催されたハイフォの焼き直し的なライブにハイフォ2566がなってしまうことを避けるためでもあるだろう。1979年から1981年にかけての「脱・テクノポップ」的な行動から分かる通り、平沢進は「これがウケたから次の活動もこれに似た感じで…」という、たとえ己がつけた轍だとしてもそれを踏んで進むというスタンスは基本的に良しとしない。
9年前に演ったライブと同タイトルを冠したライブを演るからといって、ただ前回と似たりよったりな選曲をするなどという面白みのない行為を「あの」平沢進がするわけがなかったのだ。
だからこそ『Perspective』からは「HEAVEN」でも「Solid Air」でもなく「Zombi」を選ぶし、『Gipnoza』からは「それいけ! Halycon」でもなく「Timelineの東」でもなく「Alarm」を選ぶし、『big body』からは「CLUSTER」ではなく「BiiiG EYE」を選び、「BIG FOOT」ではなく「時間等曲率漏斗館へようこそ」を選んできたのだ。
というかそもそも、解凍期のアルバムから演奏するにあたって『P-MODEL』からは1曲も選ばずに『big body』から重点的に披露した時点でかなり外してきている。
「ハマったら深い」でおなじみの平沢進と言えど、すべてのファンがすべての活動・全楽曲について精通しているわけではない。ファンそれぞれに依って作品の聴き込みやディスコグラフィーの掘り下げが異なるのはどんなミュージシャンでも当たり前の話だ。
好きなソロを重点的に聴いている人もいれば「P-MODELはサブスクでサラッとしか聴いたことがないから全然知らない」みたいな人も勿論いるわけで、平沢進の場合も例外ではない。
まだ平沢進に足元までしか浸かっていないファンへは「昔の曲にも良いのがたくさんあるからもっと聴け」という平沢進からのメッセージ、あるいは挑戦状、はたまたお見舞いであるようにしかもはや思えなくなってしまった。
他方、もう首までどっぷりと浸かってしまって今さら逃げられない自分のような気合の入った好事家には「オマエタチはこういう直球から少し外してきた選曲のほうが嬉しいんだろう」というミュージシャンがひねくれていればそのファンもしっかりとひねくれているということを体現したセットリストだ。少なくとも自分はそうである。
大成功をおさめた『HYBRID PHONON 2566』は前回ハイフォに比べその様相は少しだけ変化したものの、結局のところコアの部分にあるものは "お祭り" であり、そのことを迂遠に伝えるようなセットリストだった。
そして新たなファンへは平沢進というキャリア40年を擁する「音楽使い」のさらなる深淵への招待状であり、深淵をひとしきり覗き込んだファンにとっては今の平沢だけでなく、アーカイブ音源などでしか触れ得なかった過去の平沢進/P-MODELを少しだけ追体験させてくれるような、そんなスペシャルなライブだったのかもしれない。
総括
ところで「叫ぶ」というのは、観客一同にも向けられた言葉じゃないのかと考えてしまう。
ここ数年のあいだライブ会場に足を運ぶことは出来ず、ようやくミュージシャンを生で観に行けるようになったと思いきや声援が禁止されたままであったり。とかく音楽好きにおいては非常にダメージが大きい3年であった。
今年に入ってからは日本でも世界各国の大部分に遅れながらも日常活動への回帰がなされつつあり、イベントホール・ライブハウスでの公演においてもマスク着用の任意化・声援の解禁が進んでいる。
ライブ『HYBRID PHONON 2566』公式インフォの裏側からは「ようやく『ヒラサワ』と叫べるぞオマエタチ」という声が聴こえてきそうだった。
”ようやく”だ。2021年『24曼荼羅』や、2022年『ZCON』ではましてインタラクティブ・ライブであったにも関わらず演者への声援が出来なかった。よくもまあ、みんな律儀に守ったものである(筆者が守っていなかったわけではない)。
ファンだからこそ、いわば同好の士がたくさん周りにいるからこそ他者に迷惑はかけられない。もちろん知らない人たちが行き交う街中でもそれは同じだ。
だからこそ、今回のライブで人々はステージへ歓声にも似ているがほとんど「叫び」を叩き込んだ。けして「ヒラサワ」と人の名前を声高らかに呼ぶことは日常的な行為ではないかもしれないが、ファン一同にとって、この行為は "ライブにおける日常の象徴的なもの" なのだ。
平沢進が「叫ぶ」ことでライブが始まり、観客が「叫ぶ」ことでライブはより一層盛りあがりをみせる。「叫ぶ」というのは平沢への指示でありながら、遠くからライブの模様を家で見ているファンへの、そして現地まで足を運んだファンへの「日常へ回帰せよ!」という呼びかけだったのかもしれない。
大阪2日目のMCで本人が「ハイブリッド形式のライブはいつもやっているような気がします」と話していたのだけど、違うぜヒラサワ。確かにソロ・核P曲を交えてたまにレア枠としてP-MODEL曲を披露するという、内容的に直近のライブとほとんど一緒ですよ。
でもライブ・タイトルに"HYBRID"と冠する、たったそれだけのことで我々はそこにありがたみと特別感を見出してしまうのです。
様々な事象を丁寧に守ってきたファンたちへの贈り物として、規制が緩和されつつある最良のタイミングで放り込まれた『HYBRID PHONON 2566』は、またも我々ファンの間で語り継がれる新たな伝説となったのである。
最後に、
平沢進さん、会人のお二人、スタッフの皆様方、素晴らしい歌声とパフォーマンス、仕込み等々、ありがとうございました。満を持してのハイノン、最高でした。
周期的に考えると次回のハイノンはまた9年後の2032年ということなので、それまでどうかご自愛ください。78歳でキレッキレの「Solid Air」シャウトを何卒。
終わらなくとどく声、はるか空の下──────。
(了)
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