お前はまだ何も成し遂げていない 〜双子の生活34〜
2024年2月16日
よつばと!の風香は言っていた。
「なにもない があるのよ」と。
書くことが無いならたまには素の双子を晒そうか。
AM6:15
仕事が終わり家に帰ってくると、兄PNRAの後輩から荷物が届いていた。
子供が生まれたということで、何日か前に双子連名で出産祝いを送ったのだが、そのお返しらしい。お返しなんて要らんのにね。
律儀にウチに既にある包丁に合わせて関孫六だ。
こういうのをサッとプレゼントできる後輩って凄いな……人間力の違いを感じる。俺たち双子なんて未だにクリスマスプレゼントもお年玉も欲しているというのに。
いいプレゼントをありがとう。
AM6:30
出勤前に回していた洗濯機から洗濯物を取り出す。そして着ている服をねじ込む。
365日おっさん二人の衣類を洗う洗濯機。ごめんな、お前もたまには美人の下着とか洗濯したいだろうに……
罪悪感に駆られながらおっさんの下着を放り込んで風呂に入った。
AM7:00
風呂から出て洗い物をしていたPNRAとバトンタッチ。今日の調理は俺だ。献立はクリームシチュー。
最近はフードロス(賞味期限切れ)削減のために、1週間先まで献立を考えている。SDGsというやつだ。
切った野菜をフライパンで炒めている最中、ふと後ろを振り返る。
友人からお土産で貰った信玄餅を食べていた。
これから飯を食うというのに間食をされると世の中の主婦(主夫)は内心穏やかじゃないと聞く。
でも俺は動じない。
双子の間にそういう遠慮や配慮など昔から存在しないのが当たり前なのだ。
PNRA「しまったな……きな粉と同じ色の服やんけ……きな粉とペアルックか……」
下らない独り言が聞こえてくる。
PNRA「こう、餅を上手く配置してからタレ混ぜんと均等に絡まんのよな……」
俺「ええやんけ別に。その偏りも楽しみの内やん」
PNRA「……まぁ奇特な人間はそうかもしれんな」
俺「――今俺の事、奇特っつったか??」
PNRA「おう……例えばお前がこれからナニか大きな事を成し遂げ有名人になったとしよう」
PNRA「そしてSNSで『俺は信玄餅にうまく絡まないタレ、その偏りも楽しみの一つだと思う』と言えば、それは信者によって美談として成立しただろう」
PNRA「だが今のお前は何も成し遂げていない。そんな人間がゴチャゴチャ宣ったところでそこには何の価値もない」
PNRA「故にお前は奇特な人間だと言っている」
涙がこぼれ落ちるのを歯を食いしばって耐えた。
その様子を見てPNRAは大笑いして涙を流した。
双子に遠慮は存在しない。
笑顔で言葉のナイフを突きつけ合う。
絶対ビッグになってやるかんな
そう震えながら返すことしか出来ない自分がそこにいた。
どういう訳か分からないが酒を飲みたくなった。
思ったより心にダメージを受けたのかもしれない。
これより先は飲みながら調理する。
PNRAはピザまんを食べていた。
多分俺が飯を作っている事に気付いていない。
AM8:15
シチューが完成した。
双子はホワイトシチューで白米を食べるのが好きだ。
お好み焼きでご飯を食べるのも好きだ。
今日のシチューはなんだかしょっぱい。
レシピ無視して突っ込みまくったグラナパダーノチーズの塩分か、それとも別の、例えば涙の味か……それは分からない。
食べ終わり布団に入り、夜の出勤に備え眠りに落ちる。
明日は何かいいことがありますように。