その時俺はおまわりさんの心配をしていた 〜双子の生活40〜
※当記事と併せて兄・PNRAの記事も読むことをおすすめします(後でも先でもどちらでもお好みで)
2024年3月10日
ヨッシーストーリーというゲームがある。
(公式サイト。古すぎる)
ニンテンドー64の名作ゲームであり、絵本の中で活躍するたくさんのチビヨッシーという、非常にキャッチーで可愛さに溢れたゲームだ。
このゲームの特徴として、横スクロールアクションなのにゴールが存在しないことが挙げられる。
ステージ中に散りばめられた様々なフルーツをレロンっと飲み込む。30個食べると、ステージの何処に居ようが関係なくステージクリアとなる。なんて斬新なゲームなんだと、当時小学生の俺は思った。
中でも俺たちを熱くさせたフルーツ、メロン。
ヨッシーストーリーではメロンが最上級フルーツとして扱われており、各ステージに30個、他のフルーツよりも難易度の高い場所に散りばめられている。
クリアノルマの30個を全てメロンで賄うと最高スコアを獲得できるのだ。
双子も当然オールメロンを目指した。
しかし攻略本を読みながらでもなかなか達成できない。そのぐらいの高難易度がオールメロンである。
閑話休題
夜勤明け、家の最寄りのコンビニを出て気付いた。
なんかいい匂いがする。惣菜のような香ばしい匂い。
兄・PNRAもそれを感じ取ったようで、少し思案したのち
――これは明太フランスだ。
と答えにたどり着いた。
なんてことない日常の一コマ。誰にでも経験ある話だろう。どこかからいい匂いがする……この世界はそういうシーンがたくさんある。
でも俺たち双子は、ありていに言って狂っている。とりわけPNRAは俺より多めに頭のネジが飛んでいる。
だから
「パン屋を見つけ出そう。匂いを辿りながら」
なんて言葉が飛び出すし、俺もそれに乗ってしまうのだ。
俺が先頭、PNRAが殿。俺が嗅ぎ漏らした匂いをPNRAが察知する、考えうる最善の布陣だ。
……最善とはなんなのか。
本当の最善とは真っ直ぐ帰宅することではないのか?俺たちは一体何をしてるんだ?30も過ぎて朝6時から汚ぇ鼻をヒクヒクさせながら街を練り歩いてなんになる?こんなことしてる暇あるなら貯金の事でも考えた方がいいだろ。口座の金はいつになったら人並みに増えるんだろう。
開始30秒でそんなことを思い浮かべながらも匂いを辿る。否、もう既に匂いは行方不明だ。
ヨッシーは地面をクンクンしてメロンを掘り当てる才能を持っている。でも俺たちは人だ。麻薬探知犬はその優れた嗅覚を武器に麻薬密輸業者を探り当てる。でも俺たちは人だ。そして花粉症患者だ。
美味いパン屋があるなら見つけたい。
その気持ちが僅かにあったが故にこの不毛な不審者ごっこは終わらなかったし、そしてとうとう
公園にたどり着いた。
俺は近所を散歩した際ここに公園があることを知っていたが、PNRAは知らなかったようで、広く快適な公園の存在に目を輝かせている。
自然とパン屋探しから公園遊びへとシフトしていた。なぜなら2人とも頭のネジをどこかで落としたから。
PNRA「この滑り台ヤベェ!デコボコしてる!ケツがイカれる!」
俺「なぁ、アレってエロ本じゃね?」
PNRA「あんなん絶対エロ本やん。……タウンページやったわ」
………………
…………
……
心がときめいた順に遊具を試しては次へ行き、誰もいない公園を中年双子が闊歩する。
どう見ても大人が使ったら危なそうなシーソーをしようと誘うPNRA。またがる双子。跳ね上がるケツ。目の前にいる無邪気な笑顔の兄。ケツに受ける衝撃と目の前の男の笑顔を見て、些か正気が戻ってきて、戻ったきたと同時にまたケツが跳ね上げられ、その時俺はおまわりさんの心配をしていた。
シーソーが終わる。
PNRAは遠くに謎のポール群を見て、そちらへ駆け出す。どんな遊び方なんだろう。そんな無邪気さを露にしながらポールに辿り着いたPNRAが肩を落とす。遠目に見ても分かるぐらい正気を取り戻していた。
今に始まったことじゃない。
今まで遊んだ遊具も大半は同じ対象年齢だったはずだ。
でもこの14文字は明確に双子の頭を引っぱたいた。ぐんぐん現実へ引き戻される。散歩中のおじいちゃんが現れたことも作用した。
PNRAが踵を返し、俺も続く。
そのまま家に帰り、いつものように自炊して腹を満たしたのちそれぞれの部屋に籠った。
俺たちがしたことは決して好意的に見られるものではない。社会の鼻つまみ者そのものだろう。
でもなぜだろう、この公園で遊んだ記憶が、いつか見る日が来るであろう走馬灯の一ページに加わったような、えも知れぬ充足感に満ちていたことは否定できない。
そんなことを思いながら眠りに落ちていった。
終
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