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ダダダイアリー、主に映画。2024/11/16ー11/3

11月16日
ジョージ・ソーンダーズ「短くて恐ろしいフィルの時代」読了。
とても小さな内ホーナー国を取り囲むように存在する広大な外ホーナー国。大国による迫害が独裁者フィルの登場でエスカレートして行く。ジェノサイドについての普遍的でユーモラスな寓話だが、どうしても読んでる間イスラエルとパレスチナが浮かんで来てしまってちっとも笑えなかった。フィルはこの世界のあちこちに存在している。

11月18日
早稲田松竹のジャック・リヴェット監督特集にて2本鑑賞。
「彼女たちの舞台」
ビュル・オジェの答えの見えない演劇スクールに通う女学生たち。彼女たちの暮らすシェアハウスに怪しい男が現れて。演劇的展開好きのリヴェット得意のモチーフの完成系。それで幕はいつ上がるのか。物語を分断する謎の電車のシークエンス。人生は不条理な舞台そのものだ。今年2回目。DVD持ってるけどやっぱりスクリーンで観たい作品。

「パリでかくれんぼ完全版」
話の辻褄が合おうが合わなかろうが行き当たりばったりだろうが関係ない。だってそれが人生だから。EnzoEnzoとアンナ・カレーニアの歌。ナタリー・リシャール、マリアンヌ・ドニクール、ロランス・コートのキュートの炸裂。高くて低くて壊れやすい。日常とミュージカルがシームレスに接続するリヴェット90年代の傑作。今年3回目の鑑賞だけど何度観ても最高。

アーティフ・アブー・サイフ「ガザ日記ジェノサイドの記録」読了。
ナクバという言葉を世界は未だに学ぼうとしない。
2023年10月7日から12月30日まで。ガザと避難キャンプで過ごした84日間の克明な記録。いったいそこで何が起きていたのか。
未だにハマスが、とか寝ぼけた事を言ってるポストトゥルースに振り回されている人はいい加減文字を読む事を覚えた方が良いとつくづく思うリアルトゥルースに満ちた入魂の一冊。

「tiny desk CONSERTS JAPAN/小沢健二」録画鑑賞。
ホイッスルにスチャダラに詩の朗読に「台所は毎日の巡礼」に、あの曲にこの曲の全9曲。ギッチギチに詰め込んだてんこ盛りの30分ノンストップ生演奏。この情報量の多さがオザケンだよなぁ。で収まらないではみ出してしまうのもまたオザケンって感じで炸裂してた。

11月19日
シアターイメージフォーラムで開催中のベット・ゴードン「エンプティニューヨーク」にてベット作品3本一気見。
「エニバディズウーマン」
長編「ヴァラエティ」に繋がるパイロット版のようなヴァラエティ要素を圧縮してスケッチしたような短編。

「エンプティ・スーツケース」
空のスーツケースを持ち歩く女性の行動の観察。孤独と虚無感と革命の序曲。ガンガンに流れるトーキングヘッズ「サイコキラー」どX-Ray Spexが印象的な作品。

「ヴァラエティ」
ポルノ映画館「ヴァラエティ」のもぎりの仕事についたクリスティーンがある客に惹きつけられて。男のテリトリーにズンズンと介入して行くクリスティーン。見る側と見られる側の主体と客体の反転、セクシャリティと欲望の考察と理由なき執着とミステリーの始まりの様な着地。
脚本に「血みどろ臓物ハイスクール」のキャシー・アッカー、撮影にトム・ディチロ、音楽にジョン・ルーリーで主演にジョナサン・デミのガールフレンドだったサンディ・マクロードとか、もうクレジット観るだけで爆上がりする80年代ニューヨークインディーズシネマの遅すぎる再発見にトキメキが止まらなかった。


WWWXで開催の「ElleTeresa×柴田聡子」ライブへ。
一見違和感のある組み合わせ乍ら、SSWから踊るSSWにアップグレードした柴田のポップアイコンへのリスペクトと思い切り寄せた様なアッパーでグルーヴ感溢れるステージでスムーズに繋がり最後は夢の競演で締める展開。レアだけど全然有りなツーマンに体温上がりまくった。
それにしても改めて「Your Favorite Things」名盤だよな。全曲名曲だしライブで映える。あと、それ以前の楽曲だと「ワンコロメーター」の破壊力は凄かった。

柴田聡子さんと谷口雄さん
ElleTeresaさんと柴田聡子さん

11月22日
菊川の映画館Strangerにて、池田健太監督「STRANGERS」鑑賞。
山口さんとは一体誰だったのか。前半の黒沢清味ある不穏さと全てが緻密な伏線の様な緊張感。後半のジャイロ味あるサスペンスとアクション。そして小川あんの掻き回し。日常はホラーな事で溢れている。Jホラーの新しきアイコンになり得る「山口さん」の登場のトキメキを禁じ得ない作品。
上映後には池田監督と出演者の小川あんさんによるトーク付き。映画通でもある小川さんの鑑賞者としての作品の魅力やオーディションで選ばれた経緯など。掴み取らせないその掴ませなさが魅力の作品。また観たい。それにしても小川あん出演作にハズレがないをまた更新。Strangerで「STRANGERS」ってのも良かった。

池田監督と小川あんさん

池袋に移動。
久々の新文芸坐にて酒井善三監督作品2本鑑賞。
「カウンセラー」
トータルで4回目となる鑑賞だったけど、新文芸坐のでかいスクリーンで観るのが新鮮で初めて観る様な緊張感に包まれた。分かってはいたけど相変わらず分からない作品。怖い。西山真来さんがほんと怖い。

 

「フィクショナル」
ディープフェイク画像の作成バイトに駆り出された主人公に巻き起こる統合の失調。何が真実で自分は誰なのか。ポストトゥルースの時代のきな臭さとサスペンスとしての緊張感。そしてラストの爆笑的な飛躍。時代の気配を娯楽に落とし込んだ見事な70分だった。
上映後には新文芸坐花俟さん進行で酒井監督とプロデューサー大森時生によるトーク付き。新文芸坐で観た「カウンセラー」がタッグを組むキッカケとなった事や「フィクショナル」が孕む社会性と現代性と娯楽性などたっぷりと聞けた。

酒井監督と大森時生さん

「STRANGERS」からのサスペンス三昧な流れとなったが、実は西山真来、はやしだみき特集だったりもした。

11月24日 
開催中の東京フィルメックス2024にて、サンディヤ・スリ監督「サントーシュ」を丸の内TOEIで鑑賞。
警官となった寡婦のサントーシュ。ベテラン女性警官の指導の元で成長して行き少女殺害事件の真相に迫るが。
インド北部を舞台にカースト制、家父長制、権力の腐敗構造の根深さをサントーシュの視点から浮き上がらせた緊張感あるドラマだった。
上映後にはサンディヤ監督登壇によるティーチイン付き。日本に住んでいた事も有ったそうで日本語で挨拶。実在の事件からインスパイアされた経緯やシーンに込められた意味など短い時間だが伺えた。分断と差別の世界を冷静に見つめた長編第1作とは思えない手堅い演出が光る作品だった。

アフタートークの模様
サンディヤ監督と記念撮影

続いてヒューリックホール東京にて開催の「柴田聡子のひとりぼっち'24〜My Favorite Things〜」へ。
この前のWWWXはバンドセットのYour Favorite Things仕様だったが、今回は完全弾き語りのひとりぼっちのマイフェヴァ仕様。TWICE「Feel Special」のオリジナル対訳カバーや新旧織り交ぜじっくりと且つ矢継ぎ早にたっぷりと披露。特にラストの新曲「公園で」が良かった。そしてフェイバリット映画は「天使にラブソングを2」との事でチェックしないとな。

11月26日
ユーロスペースにて、イム・オジョン監督「地獄でも大丈夫」鑑賞。
死ぬ前にいじめっ子に復讐しようと旅に出るナミとソヌ。なぜかカルト宗教に巻き込まれ2人だけの決死の修学旅行となる展開に。
私たち生きる事も死ぬ事もマトモに出来ない。どこを見ても地獄な世の中だけどナミとソヌならOkiOki。リベンジしたかったのは自分の弱さだった。多面的なキャラクターと社会性、ヘヴィな題材を娯楽作品に落とし込んだ全てのぼっちに捧げる痛快バディムービー。ラストにグッと来た。

続いてヒューマントラストシネマ渋谷にて、クリストファー・ボルグリ監督「ドリーム・シナリオ」鑑賞。
もしもニコケイが夢に出て来たら。平凡な男の周囲で勝手に巻き起こる大騒動とその状況に対していちいち判断を誤るニコラス・ケイジ。
SNS社会の集団作用を批評した藤子・F・不二雄SF短編とか星新一ショートショートとかに通じるシニカルな寓話。
スタイリッシュな映像で笑える状況が笑えない状況にエスカレートするのは前作「シック・オブ・マイセルフ」と共通するが、トーキングヘッズに至るラストは後味が良く上手く纏めたなと思った。爆笑は出来ないが楽しめた。

11月27日
だいぶ前に放送してた「世界サブカルチャー史/ヒップホップ編」を録画鑑賞。NYブロンクスのストリートから生まれ世界中のストリートを繋げたヒップホップカルチャーの変遷。カウンターが資本に消費され、新たなオルタナティブが派生する攻防。マチズモの問題や人種の違いや社会への影響、日本での拡がり方など黎明期から現在まで網羅した充実した内容だった。

ポレポレ東中野で開催中の山中瑤子監督特集にて3本鑑賞。
「ナミビアの砂漠」
3回目。毎回違う劇場で観てるが、面白いのは劇場の雰囲気と特性を作品が取り込みながらそこで独自性を放つ様な不思議な馴染み具合を発してる所。どこで観ても違和感を持ってズバリとハマる。カバのぬいぐるみからの怒涛の繋ぎによるラストに向かう展開に改めて感動。

上映後には山中監督と漫画家の瀧波ユカリさんによるトーク付き。カナとホンダとハヤシとのパワーバランスと多面的なキャラ設定、罪悪感の利用、成人女性の着ぐるみなど、カタルシスに向かわない客体化させない作品の魅力について存分に聞けて楽しかった。

山中監督と瀧波ユカリさん

「おやすみ、また向こう岸で」
もともとテレビドラマとして作られた作品。劇場で観るのは2度目。やはりこの作品はスクリーンの方が断然似合う。三浦透子と古川琴音というベストキャスティングの魅力の炸裂。2人のバディ感が凡ゆる可能性を感じさせる好編。これは何度も観れる。 

「魚座どうし」
これは何回目だろか、おそらく4、5回目。小学生の小さな肩にのしかかる大人たちの勝手な都合。抑圧された社会の中で行きる2人の主人公のそれぞれの日常を等身大の目線で描いた中編。シリアスなテーマの中にユーモアが散りばめられた緊張感ある作品。しかし久々にまとめて観たら改めて山中監督の天才ぶりに唸った。

引き続きポレポレ東中野にて、川上さわ監督「地獄のSE」鑑賞。
こちらは2回目。吉行と天野のバディに割り込む島倉の叫び。変態早坂を見守る菊育美。クールな保健室の先生。大暴れ後の早坂の船出の余韻。予め決められた絶望的な地獄では、狂気でいる事が正気の様なコント風に綴ったホラー仕立ての一編の詩。やっぱり最高に面白かった。

11月28日
ハン・ガン「別れを告げない」読了。
悪夢に魘されるキョンハの元に親友インソンから連絡が入る。二羽のインコ、白い雪、ジェノサイドの記録。
済州島四・三事件細部の書き起こし、フィクションによる継承の実践。決して哀悼を終わらせない。
時間や場所や生死を超えた愛と快復の物語。圧倒的に引き込まれた。

11月29日
東京藝術大学大学会館2階展示室で開催中のアメル・ナーセル写真展「ガザ.シグナル オブ ライフ」へ。
ガザで暮らす写真家、映画監督アメル・ナーセルさんの支援を兼ねた写真展。命のシグナルが点る危機的な状況の中でそこに毅然と在る生命の美しさを捉えた素晴らしい作品の数々に胸がいっぱいになった。もう誰も殺すな。今すぐ停戦。ガザ関連本コーナーやグッズ販売も有り。入場無料。

有楽町に移動。
東京フィルメックス2024にて、スカンダル・コプティ監督「ハッピー・ホリデーズ」を丸の内TOEIで鑑賞。
イスラエルのハイファに暮らすパレスチナ人一家に関する4つのエピソードを交差させながら、封建的で家父長的なアラブ社会とイスラエルのシオニズムや軍国主義などを炙り出す。最もマトモだと思える女性フィフィの振る舞いに希望を託したラストが秀逸な多層的なドラマだった。
上映後にはスカンダル監督によるQ&A付き。素人俳優たちを起用したスクリプトを持たず時系列にそって撮影する独自のメソッドで作られた制作過程などを中心に伺えた。まさか全員非俳優だとは全く気付きもしなかった。
更に会場外で監督に作品の感想とパレスチナへの連帯を伝えられた。新宿のデモと丸被りでそっちには行けなかったので良かった。

トーク中のスカンダル監督
スカンダル監督と記念撮影

11月30日
「小林旭回顧録マイトガイは死なず」読了。
その話するの何回目だよ、といったお馴染みの破天荒エピソードから、初めて明かされる逸話や更にここ数年の世の中の動向までを旭が語り倒す。芸歴70年、毎日ステーキを平らげる無敵の85歳。昭和百年を前にいよいよ最終章を迎える最後の銀幕スターのその幕開けに相応しい一冊だった。


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