【アッセイを考える #5】ウェルプレート内のグラデーションの解決
「アッセイを考える」シリーズの5回目である。前回は、物質の定量試験という、やや分析化学に近しい状況を題材に、夾雑物の影響を如何にして評価するか(添加回収試験)という観点で特に深く掘り下げてみた。
今回は、ハイスループットな定量試験で多用されるプレートリーダーに関して、そのトラブルシューティングを例に取り上げてみたい。
【問題5】
ウェルプレートを用いて各ウェルのシグナル強度を測定したところ、ウェルプレート内でシグナル強度にグラデーションが生じていた。何が原因と考えられるだろうか? また、次の一手としてどういう実験を行うとよいだろうか?
例1:ウェルプレートの上部から下部に向かってシグナルが減少していく。
例2:ウェルプレートの周縁部から中心部に向かってシグナルが減少していく。
【回答例】
ウェルプレート内でシグナル値がバラつくことは多々あれど、そのシグナル値がある規則性を持っている場合には、改善の余地が明確なことが多い。その代表例が例1・例2であり、基本的にこれらの応用で対処できるように思う。
例1:ウェルプレートの上部から下部に向かってシグナルが減少していく。
まずは、シグナルの減少がウェルプレートに由来するのか、アッセイ系に由来するのかを識別するために、ⅰ)ウェルプレートを上下逆さまにして測定してみたり、ⅱ)測定する順序を変えてみたり(「上から下」だけでなく「下から上」「左から右」など)する。ウェルプレートに問題がある場合には、ウェルプレートの向きや測定する順序を変えても状況は変わらない。プレートリーダーにウェルプレートが適合していない可能性があるため、ウェルプレートのメーカー・型番などを変えてみると良いはずだ。
ⅰ)ⅱ)で検証した時に、測定する順序に応じてシグナルの減少が見られる場合は、アッセイ系に問題がある可能性が高い。観測対象の反応が相当速いと、反応のタイムスケールより測定のタイムスケールが遅くなり、測定の順序に伴ったシグナルの変化が見られるようになる。対策としては観測対象の反応を遅くする必要があろう。
例2:ウェルプレートの周縁部から中心部に向かってシグナルが減少していく。
ウェルプレートの周縁部と中心部では、ウェル内の蒸発速度が異なるほか、外気温度の影響の受けやすさも異なる。一般的にウェルプレートの周縁部は蒸発しやすく、外気温に影響されやすい。前者に対しては、観測対象の反応を早める工夫が必要だ。後者に対しては、観測対象の反応を開始する前に、外気温度にプレインキュベーションする工夫等が必要だろう。
【要点】
もしウェルプレート内でグラデーションがあったとしても、求める定量精度に影響がなければ、気にしなくても良い。それは以下の記事でも触れた通りである。