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【アッセイを考える #7】定量PCRの内部標準

 「アッセイを考える」シリーズの7回目である。前回はアッセイに必要なサンプル数について、盲目的に $${N = 3}$$ とせずに、状況に応じた判断が必要であることを見た。

 今回は、RNA 発現量を定量する手法として古典的に用いられている定量PCR(リアルタイムPCR;qPCR)について触れてみたい。絶対定量と相対定量のどちらを使うか、蛍光検出法としてインターカレーターとTaqManプローブのどちらを使うか、などは議論の俎上に上がりやすいが、もう一つ見落としがちな点を取り上げたい。


【問題】
 ある細胞の遊走現象の機序を知るために、遺伝子AのRNA発現量を相対定量しようと考えている。内部標準遺伝子としてβ-アクチン遺伝子を選択したが、これは適切だろうか? また、内部標準として適切であることをどのようにして確認すべきだろうか?



【回答例】
 アッセイ系を構築する上で、検量線や内部標準など、測定の基準となるものが不変なのかどうかは常に気にしなければならない。哺乳細胞ではβ-アクチン遺伝子やGAPDH遺伝子など、いわゆるハウスキーピング遺伝子が内在コントロールとして参照されることが多いが、注目する事象が細胞遊走など細胞骨格に関わるものであればβ-アクチン遺伝子を内部標準とするのは不適であるし、同様に解糖系に着目した実験の場合にはGAPDH遺伝子を内部標準とするのは不適であるだろう。

 多くの論文で遂行されている手法としては、geNorm, NormFinder, BestKeeper の3種類の異なるアルゴリズムを用いて、内部標準遺伝子候補の発現安定性の順位を付け,それらを総合的に加味して内部標準とすべき遺伝子を決定する形となる。


【参考】

https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/15/1/15_24/_pdf


【要点】
 最近は 次世代シーケンシング手法ベースのアッセイ(RNA-seq)が安価に利用できるので、定量PCRの代替手段として利用する手もある。データの正規化にも特定の遺伝子の情報だけでなく、リード全体の情報を用いるので、注目する事象の影響を受けにくく、系としての汎用性も高いと期待される。ただし、RNA-seq 解析は、「殆どの遺伝子の発現量は変化せず、特定の遺伝子の発現量のみが変化する」という前提が敷かれていることには留意しておこう。

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