![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/133279651/rectangle_large_type_2_b33598fe3c812670f90a7196bfd483e2.jpeg?width=1200)
雪の日だったからこそ
今日は雪。
こうなることはわかっていたけど、なかなかバスは来ない。
周りの人も寒そうに灰色の空を見上げている。
まだかな。まだかな。
みんな気持ちは一緒。
その間も雪はどんどん空から落ちてくる。
他の行き先のバスは到着するのに、
私が待っている、同じ列のみんなが待っているバスは
なかなか来ない。
遠くが見えなくなるくらい、雪が激しくなってきて、
もうそろそろ寒さを我慢するのも限界に近づいてきたその時、
ぼんやりとバスの行き先の表示が見えてきた。
「あ、やっと来た!」
思わずみんなで声を上げた。
すくんだ肩で急いで乗り込む。
席について、ほっと一息ついていると、
肩にポンポンポンというリズムが伝わってきた。
びっくりして後ろを向くと、私より先にバスを待っていた人が
ハンカチを持って、私のコートの方についた雪を拭いてくれていた。
「このまま雪が解けてしまったら、冷たくなっちゃうでしょう?
こういう日はお互い様ですよ」
ただ一緒にバス待ちの列に並んでいただけなのに、
こんなにやさしくしてもらって、本当にうれしかった。
こんな雪の日だったからこそ、こんな素敵なやり取りができたんだ。
そう思うと、雪の日にちょっと無理して出勤してよかったなと思った。
「ありがとうございました。気をつけて帰ってくださいね」
それくらいしか言えなかったけど、
私より先にバスを降りるその人の背中を見送った。