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10歳の帯状疱疹と報告医師のコメント

厚労省のサイトで、5歳から11歳への新型コロナワクチン接種後に起きた副反応疑いの報告が公開されています。6月10日に、新たな報告が公開されました。


10歳 帯状疱疹の事例

新たに公開された報告から、気になる事例を取り上げます。

ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)> 第80回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和4年度第5回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催) 6月10日資料

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208910_00043.html


資料1-2-3-4 薬機法に基づく製造販売業者からの副反応疑い報告状況について(コミナティ筋注5~ 11歳用・集計対象期間における基礎疾患等及び症例経過)(全134ページ) より

紹介する報告は、重複している部分などは編集してあります。BNT162b2は、コミナティ筋注(ファイザー製)のことです。時系列で追えるように、順番を入れ替えたりしています。
※は、こちらで補足しました。

事例:22446 10歳男性 コミナティ筋注2回接種 ロット番号:不明

本報告は、ライセンスパートナーからの連絡不可能な報告者(医師)から入手した自発報告である。

患者の関連する病歴は以下のとおり:「水痘」(継続中かは不明)、注記:1 歳過ぎ。

2022/03/02、BNT162b2(コミナティ5~11 歳用)の 1 回目接種。2022/03/23、2 回目接種。

2022/04/14、左肋間神経領域の胸背部に発赤・水痘をみとめた。患者は、皮膚科医院にて帯状疱疹と診断された。
本日(※4/15)午後、患者は痛み止めを希望してクリニックに来た。
患者は 1 歳過ぎに水痘の病歴があり、そこから帯状疱疹が発症したと考えられた。患者は抗ヘルペスウイルス剤を処方され、服薬していたが、局所の痛みが激しく、鎮痛薬を希望した。

コロナワクチン接種後に水痘-帯状疱疹ウイルスが活性化されるとの報告 1) 2)もある。報告者は、被疑薬と事象間の因果関係は関連ありと考えた

事象の転帰は、抗ヘルペスウイルス剤と鎮痛薬を含む処置により回復であった。

https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000948926.pdf

コロナワクチン接種後、5歳から11歳の報告で帯状疱疹の事例を見たのは初めてです。免疫力が低下した大人がなるイメージですが、今回、10歳の事例が報告されていました。

報告医師のコメントで、「コロナワクチン接種後に水痘-帯状疱疹ウイルスが活性化されるとの報告 1) 2)もある」というのが気になりました。1) 2)には、おそらく根拠となる資料などが書かれていたと思われますが、公開されている報告にはありません。そこで、該当する論文がないか調べてみました。

コロナワクチン接種と帯状疱疹に関する論文

これかどうかはわかりませんが、病院のブログで参考文献としている論文が2つあったので、内容を確認してみました。

(1)A. Català,C. Muñoz-Santos et al : Cutaneous reactions after SARS-COV-2 vaccination: A cross-sectional Spanish nationwide study of 405 cases . British medical journal 2022 ; 186 ; 142 – 152.
(2)van Dam CS, et al : Herpes zoster after COVID vaccination . International Journal of Infectious Diseases 2021 ; 111 ; 169 – 171 .

1つずつ、見ていきます。

(1)A. Català,C. Muñoz-Santos et al : Cutaneous reactions after SARS-COV-2 vaccination: A cross-sectional Spanish nationwide study of 405 cases . British medical journal 2022 ; 186 ; 142 – 152.

こちらは、概要が公開されていました。

Cutaneous reactions after SARS-CoV-2 vaccination: a cross-sectional Spanish nationwide study of 405 cases

Methods:A nationwide Spanish cross-sectional study was conducted. We included patients with cutaneous reactions within 21 days of any dose of the approved vaccines at the time of the study. After a face-to-face visit with a dermatologist, information on cutaneous reactions was collected via an online professional survey and clinical photographs were sent by email. Investigators searched for consensus on clinical patterns and classification.

Results: From 16 February to 15 May 2021, we collected 405 reactions after vaccination with the BNT162b2 (Pfizer-BioNTech; 40.2%), mRNA-1273 (Moderna; 36.3%) and AZD1222 (AstraZeneca; 23.5%) vaccines. Mean patient age was 50.7 years and 80.2% were female. Cutaneous reactions were classified as injection site ('COVID arm', 32.1%), urticaria (14.6%), morbilliform (8.9%), papulovesicular (6.4%), pityriasis rosea-like (4.9%) and purpuric (4%) reactions. Varicella zoster and herpes simplex virus reactivations accounted for 13.8% of reactions. The COVID arm was almost exclusive to women (95.4%). The most reported reactions in each vaccine group were COVID arm (mRNA-1273, Moderna, 61.9%), varicella zoster virus reactivation (BNT162b2, Pfizer-BioNTech, 17.2%) and urticaria (AZD1222, AstraZeneca, 21.1%). Most reactions to the mRNA-1273 (Moderna) vaccine were described in women (90.5%). Eighty reactions (21%) were classified as severe/very severe and 81% required treatment.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34254291/

以下、調査方法と帯状疱疹に関する部分を書き出しました。

・SARS-CoV-2ワクチン接種後の皮膚反応:スペイン全国規模の横断研究405例。
・対象者:調査時に承認されたワクチンのいずれかの投与後21日以内に皮膚反応を起こした患者。
・皮膚科医との対面診療の後、皮膚反応に関する情報をオンラインの専門家アンケートで収集し、臨床写真を電子メールで送信。

・2021年2月16日から5月15日までに、BNT162b2(ファイザー社製;40.2%)、mRNA-1273(モデルナ社製;36.3%)、AZD1222(アストラゼネカ社製;23.5%)ワクチン接種後の反応405件を収集。
・患者の平均年齢は50.7歳で、80.2%が女性。
・皮膚反応の中で、水痘帯状疱疹と単純ヘルペスウイルスの再活性化が13.8%を占めた。
・各ワクチン群で最も多く報告された反応は,ファイザー社製は水痘帯状疱疹ウイルス再活性化が17.2%

ファイザー社製を接種した人からの報告では、皮膚症状の中では帯状疱疹が最も多いという結果です。

(2)van Dam CS, et al : Herpes zoster after COVID vaccination . International Journal of Infectious Diseases 2021 ; 111 ; 169 – 171 .

こちらは、全文が読めます。

医療従事者2名の事例を紹介していますが、事例そのものより、考察に興味深いことが書かれています。長くなるので、概要だけ引用します。

Herpes zoster after COVID vaccination
Abstract
COVID-19 presents in various ways, but mainly as a pulmonary disease (Marzano, 2020). Skin manifestations have been reported, including reactivation of the varicella-zoster virus (Marzano, 2020). Our case report describes two adults developing herpes zoster after vaccination with tozinameran (the Pfizer-BioNTech COVID-19 mRNA vaccine). A possible cause for this reaction is a transient lymphocytopenia that occurs after the vaccination — similar to that in COVID-19 disease (Mulligan, 2020; Wang, 2020; Qin, 2020; Brabilla, 2020; Wang, 2020; Wei, 2017). In the context of vaccinating older and/or immunocompromised adults, our observations can be the starting point for further evaluation of a possible relationship between COVID-19, COVID vaccines, and herpes zoster.

PDF

<概要>より
・COVID-19は様々な形で症状が現れ、水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化など、皮膚症状も報告されている。
・我々の症例報告では,Pfizer-BioNTech社製COVID-19 mRNAワクチンの接種後に、帯状疱疹を発症した成人2名が報告されている。
・この反応の原因として考えられるのは、COVID-19と同様に、ワクチン接種後に起こる一過性のリンパ球減少である。

<考察>より

・本稿執筆時点で、欧州のEudraVigilanceデータベースでは、ファイザー社製ワクチン投与後に帯状疱疹を発症した症例が4103例報告されており、同ワクチン接種後の報告事象全体の1.3%を占めている(http://www.adrreports.eu[2021年7月27日にアクセス])。モデルナ社製では、590例(0.7%)、アストラゼネカ社製では2143例(0.6%)の症例が報告されている。

・米国ワクチン有害事象報告システム(VAERS)では、ファイザー社製ワクチン投与後に2512例(報告事象全体の1.3%)、モデルナ社製ワクチン投与後に1763例(0.9%)、アストラゼネカ社製投与後に302例(0.7%)の帯状疱疹が報告されている。

・COVID-19感染と同様に、BNT162b1(ファイザー社製ワクチン、現在はトジナメランと呼ばれている)の第I/II相試験では、注射後数日で用量依存的にリンパ球の減少が見られた

・COVID-19感染後またはワクチン接種後に起きる、短期間のリンパ球減少症が、帯状疱疹ウイルス再活性化の引き金となることが考えられる。

・報告された2名は、どちらも医療従事者として接種を受け、接種時には全く症状がなかった。ワクチン接種後に帯状疱疹が発生したことは、単なる偶然の一致である可能性もある。しかし、最近の報告では、類似の症例が報告されており、そのほとんどが帯状疱疹再活性化の既知の危険因子を含んでいる(Bostan, 2021; Furer, 2021; Arora, 2021; Tessas, 2021; Eid, 2021)。

ファイザー社製コロナワクチン接種後のリンパ球減少

リンパ球の減少について、特例承認に係る報告書で確認してみました。

審査報告書 PDFの35ページ

コミナティ筋注 特例承認に係る報告書 7.2.1

臨床検査値異常について、Grade 3 以上の異常変動として、リンパ球数減少が本剤 10 μg 群及び 30 μg群各 1 例、ビリルビン増加が本剤 10 μg 群 1 例に認められた。いずれも 1 回目接種後 1~3 日に発現し、1 回目接種後 6~8 日までに基準値範囲内に回復した 23)。申請者は、本剤接種直後に認められたリンパ球数減少は一過性(接種 6~8 日で回復)であったことから、リンパ球枯渇ではなくリンパ球再分布によるものと考えられ、臨床的意義は低いと判断して、第II/III相パートでは臨床検査値は検討しないこととしたと説明している。

23) BNT162b1 群では、Grade 3 以上のリンパ球数減少は、18~55 歳集団で 10 μg 群 1 例、20 μg 群 2 例、30 μg 群 1 例、100 μg 群 4 例、
65~85 歳集団で 30 μg 群 1 例に認められ、いずれも接種後数日で認められ、数日で回復している。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20210212001/672212000_30300AMX00231_A100_6.pdf

※当初は、2 つの mRNA ベースのワクチン候補として、 BNT162b1とBNT162b2について、臨床試験を行っていたようです。

たしかに、審査報告書にも、接種後にリンパ球の減少があったと書かれています。しかし、臨床試験では、この件についてそれ以上検討されなかったようです。「臨床的意義は低いと判断して」というのは、推測で判断したということでしょう。臨床試験で異常変動があったら、それについて徹底的に調べるものだと思っていましたが、違うんですね。それで審査に通るなんて、なんのための審査なのでしょうか。

前述の論文から考えると、コロナワクチン接種だけで帯状疱疹が発症するわけではなく、危険因子を持っていた人にとって、ワクチン接種が引き金になる可能性があるということなのだと思います。

ワクチン接種が引き金になるとしたら、それは因果関係がないといえるのでしょうか。