SNS上でのHPVワクチン問題、名古屋市の調査に目を通しましたか?
HPVワクチンの危険性を伝えた地方議員に対して、SNS上で多くの医師や議員が批判のコメントを書いています。安全性の根拠として「名古屋スタディ」を挙げるコメントが見られますが、その人たちは「名古屋スタディ」と呼ばれている調査に目を通したのでしょうか。自由記載欄まで目を通したら、安全だと断言はできないと思います。
コミュニティノートとは?
X(旧Twitter)に、コミュニティノートという機能があるようです。
「X」になってからも、まだ「Twitter」や「ツイート」と書かれたままなので、ツイートのままでよいのでしょうか。よくわかりません。
「X」で炎上しているツイートには、下記のようなコミュニティノートがついていました。今回の記事で取り上げるのは、このコミュニティノートのコメントについてであり、元の発言の是非ではありません。
リンクを見ると疫学調査というのが「名古屋スタディ」と呼ばれているものを指しているようですが、監修した鈴木氏は「ワクチンを接種した人と接種していない人で差はみられなかった」とは言っていますが、元の論文でも「ワクチンにより引き起こされたものではなかった」と断言はしていません。
これを書いた協力者とは、どのような立場の人なのでしょうか。「ワクチンを接種した人と接種していない人で差はみられなかった」という記事の言葉だけで、判断しているように思えます。これを書いた人やこれを信じた人は、記事だけではなく、名古屋市の調査にも目を通したのでしょうか。
調査結果は今も、名古屋市のサイトで公開されています。
郵送での調査の限界
「名古屋スタディ」と呼ばれている名古屋市が行った調査(2015年)は、名古屋市に住民票のある小学校6年生から高校3年生までの女子約7万人(ワクチン接種、未接種問わず)に対してアンケート(調査票)を郵送し、約3万人が返送しました。調査票では、24項目について質問しています。
この調査を監修した鈴木貞夫教授(名古屋市立大学医学部公衆衛生学分野)は、下記の論文をまとめました。
名古屋での大規模調査からは、報告された24の症状の発生とHPVワクチンは有意な関連性を示さなかったことから、ワクチンと報告された症状または有害事象との間に因果関係がないことを示唆していると書かれています。
タイトルは「No association」(関連がない)となっていますが、結論部分には、「示唆している」と書いてあるだけで断定していません。
示唆しているなら、これを元にさらなる調査を行うべきだったのではないでしょうか。
日本語の論文が見当たらないので、コミュニティノートは下記をリンクしていたのだと思います。
そして、「ワクチンを接種した人と接種していない人で差はみられなかったという結論が得られました」という部分を引用したのでしょう。
けれども公開されている調査結果を見る限り、この調査は実態を知るためには非常に重要な意味があったと思いますが、因果関係があるか判断できるほど厳密に行われたとはいえないと感じました。
名古屋市のサイトでは、調査用紙も公開されています。
「 小学校6年生から現在までの間に、以下のような症状を経験したことがありますか」という形で質問し、原因がはっきりしている一時的な症状は「あり」に含めないでください、と書かれています。
医師がヒアリングしたわけではないので、保護者でも本人でも、厳密な判断ができたとは限らないと思います。
郵送で送られてきて、あまりじっくり読まずに回答してしまうこともあるでしょう。回答の判断に迷う質問もあったかもしれません。
例えば、「集中できない」と感じる状態には個人差があると思います。
「ひどく頭が痛い」というのも、実は目の使いすぎとか原因があるけれど、本人がそれを意識していなければ「原因がはっきりしている一時的な症状」とは思わないかもしれません。ですから、回答の信頼性にはバラつきがあるように思います。
実際に自由記載欄を見ると、下記のような回答もあります。
自由記載 質問3
自分に当てはまる「選択肢がなかった」と書いています。仕方なくどれかを選ぶ場合、人によって回答が変わってきてしまうこともあるでしょう。
「影響がなかった」と記入したが、影響がないとは言えない状況だったことが追記されています。
データを分析する際には、これらのコメントは反映されていないでしょう。このような回答が多数あるとしたら、それらをそのままデータとして扱って、「関係ない」と言ってもよいのでしょうか。
そのほか、ワクチンを接種した方のコメントをいくつか紹介します。
「ワクチンと関係があるのか調べてほしい」と書いています。この声は、市や国に届いたのでしょうか。
この方は、接種後すぐに何か異常があったわけではないが、徐々に体調が悪くなったとのこと。このようなケースをどう扱うかも難しいでしょう。
今も続く結論に対する反論
そして、24の症状について、接種なし、接種ありの回答数がまとめられました。
これについて、監修した鈴木貞夫教授は、「因果関係を示すオッズ比(相対危険度)を示すのが研究の目的でもあり、結果のオッズ比は低かった。一般的にオッズ比が2を下回るような数字で薬害と判断するのは無理があります」と上記の記事で語っています。
鈴木氏の論文について、薬害オンブズパースン会議は下記の見解を示しています。
「名古屋市子宮頸がん予防接種調査」に関する鈴木貞夫論文についての見解 薬害オンブズパースン会議 (2018年年6月11日)
この反論に対する回答に、鈴木氏は下記のように書いています。
2018 年 8 月 8 日
『「名古屋市子宮頸がん予防接種調査」に関する鈴木貞夫論文についての見解』に対する回答
名古屋市立大学大学院医学研究科 公衆衛生学分野 教授 鈴木貞夫
一方、江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授・隈本邦彦氏は数字以外に注目し、下記のような見解を出しています。
” 名古屋スタディ ” という疫学研究は存在しない
自由記載欄にこそある真実に目を向けるべきである (2021年5月)
隈本邦彦 (江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授、
名古屋大学客員教授、元 NHK 報道部記者)
自由記載欄をじっくり読んでみると、非接種群の自由記載欄には下記のようなコメントがあります。
自由記載 質問2
このようなコメントを無視して分析し、正確なデータが出せるのでしょうか。もし、子どもの頃から持病がある人の回答が多く含まれていた場合、「この年代にはよくある症状だから、ワクチン接種とは関係ない」と言えるのでしょうか。
さらに、名古屋市の調査で出された結論については、解析のやり方を変えたら違う結論になるなど、今も反論が出ています。
データ分析を学んでいる学生やデータ分析を専門にされている方は、ぜひ名古屋市が公開しているデータを見て、自分ならどう分析するか考えてみてください。
先日書いた下記の記事に、記事内で紹介した隈本邦彦氏ご本人からコメントをいただき、名古屋市の調査に関する論文をいくつか紹介していただきました。
今、すべての論文をじっくりと読む余力がないので、詳しく紹介することができませんが、データ分析を学んだ方たちにぜひ知っていただきたいので挙げておきます。
隅本氏も年齢調整の問題点を指摘していましたが、こちらでも取り上げています。
名古屋市 HPV ワクチン接種後調査データを用いた 2 つの解析論文の比較 八重ゆかり 聖路加国際大学
八重氏は2019年に、椿氏(後述)と名古屋調査データを異なる解析手法を用いて検討して、日本看護科学学会発行の英文誌 Japan Journal of Nursing Science(JJNS)にも報告しています。
以下、同じ名古屋市調査のデータを用いて違う解析を行い、結論が異なっている論文。
Safety concerns with human papilloma virus immunization in Japan: Analysis and evaluation of Nagoya City's surveillance data for adverse events
Yukari Yaju, Hiroe Tsubaki
症状発現に交互作用を含む疫学データの解析 ─「名古屋市子宮頸がん予防接種調査」から ─
設楽 敏 (元 株式会社ベルシステム 24)
森川 敏彦 (元 久留米大学バイオ統計センター 教授)
下記は、2023年1月に投稿された新しいものです。
名古屋市子宮頸がん予防接種調査に関わる様々な議論への回答と2 つの交絡因子の同時調整分析 椿 広計 統計数理研究所
メディアでは取り上げられませんが、安全性に関する問題は決着したわけではありません。サリドマイド薬害は、メカニズムがわかるまでに50年かかりました。今の段階で、「安全」だと断言することなどできないはずです。
HPVワクチン被害者の方たちによる訴訟も、まだ続いています。次の記事で、アメリカでの訴訟について取り上げる予定です。
コミュニティノートは、どのような立場の人が書いたのかわかりません。それを鵜呑みにせずに、そこから得た資料の情報などから、自分の目で確認することが大切だと思います。