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経鼻投与インフルエンザ予防ワクチン「フルミスト」の「効果が1年持続」への疑問

昨年日本でも承認され、今シーズンから接種開始となった経鼻投与インフルエンザ予防ワクチン「フルミスト」(対象:2歳以上19歳未満)。承認前も、輸入された「フルミスト」を扱うクリニックがありました。それらのHPを見たのか、Xでは「フルミストの効果は1年」だから予約したという保護者の発信が見られます。添付文書には、効果の持続期間について書かれていないのに、医師はHPに「効果は1年持続」と書いてもよいのでしょうか。

「効果の持続期間1年」の根拠は?

「フルミスト」については、詳しくは下記の記事でも取り上げました。

アメリカなどでは承認されていたので、日本で承認される前から取り扱うクリニックがありました。そういったクリニックのHPを見ると、効果の持続期間について「1年」と書かれています。「と言われています」などとぼやかして書いているクリニックもありますが、中には「効果の持続期間は1年間!」と言い切っているクリニックもありました。けれども、添付文書には効果の持続期間については書かれていません。

この「1年」がどこから来たのかなかなか見つからなかったのですが、やっと、おそらくこれではないかという論文にたどり着きました。

2014年の論文

CDCのサイトには、「Live Attenuated Influenza Vaccine [LAIV] (The Nasal Spray Flu Vaccine) Brand name: FluMist Quadrivalent」と書かれています。「LAIV」はLive Attenuated Influenza Vaccine(生弱毒インフルエンザワクチン)のことで、それは経鼻投与するタイプであり、商品名が「フルミスト」ということになるようです。

下記は、LAIVに関する論文です。


「Longevity of B-Cell and T-Cell Responses After Live Attenuated Influenza Vaccination in Children」

38 人の子ども (3~17 歳) に、 LAIV を3~9歳の小児は4週間間隔で2回投与、10歳以上の小児は1回投与。投与前と投与後 1 年まで血液サンプルを連続的に採取して、細胞性免疫について調べた。

結論
LAIV elicited B-cell and T-cell responses that persisted for at least 1 year in children. (LAIV は、小児において少なくとも 1 年間持続する B 細胞および T 細胞反応を誘導した)

下記の論文(2019年)中にも、上記の研究を含めて、「LAIV の免疫応答の持続性は、いくつかの研究で調査されている」と書かれています。

How to assess the effectiveness of nasal influenza vaccines? Role and measurement of sIgA in mucosal secretions

クリニックの医師たちがどの論文を見て「1年」と書いているのかはわかりませんが、免疫応答が「1年」持続するという論文はいくつかあるようです。

けれども、国内での臨床試験(2016年10月~2017年5月までに行われた国内第3相試験)では、フルミスト接種群の25.5%インフルエンザを発症しています。

添付文書より
審査報告書より 7.R.2.3

この結果から、効果が1年持たない人もいるということになります。
「効果の持続期間は1年!」という表現など、接種した人はみんな1年予防できるような印象を与えてしまう書き方は、普通に考えてもアウトだと思うのですが・・・。

「フルミスト」の添付文書などは、PMDAのサイトで見ることができます。

添付文書 PDF(2024年08月19日)



クリニックのHPに書いてよい範囲


医療従事者向けポータルサイト「m3.com」に、下記のQ&Aがありました。

以下、一部を引用します。

Q 当院で行っている医療サービスに関連して、次のような媒体・形態で表示が行われた場合、これらは、「広告」に当たり、法律による広告規制を受けるのでしょうか?
①当院の公式ウェブサイト
②院内掲示・院内配布パンフレット
③一般的な病気の治療法を掲載した書籍・記事
④医療サービス比較・ランキングサイトにおける口コミやSNS上で、第三者である個人Xが作成した投稿
A
①通常は「広告」に当たり、医療法による医療広告規制を受けます。
②通常は「広告」に当たらず、医療法による医療広告規制を受けません。
(中略)
医療広告規制に関する厚生労働省の公的見解を示した医療広告ガイドラインは、医療サービスに関する表示は、次の2つの要件を満たす場合に、医療広告規制の対象となる「広告」(医療広告)に該当するとしています。
患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性
医業若しくは歯科医師業を提供する者の氏名・名称又は病院・クリニックの名称が特定可能であること(特定性

https://www.m3.com/news/open/iryoishin/1187279

「病院・クリニックの公式ウェブサイト、公式SNSアカウントや公式アプリ等は、通常、そこで提供される医療サービスを広報するものであり、誘引性や特定性の要件を満たす」とも書かれています。

ということは、クリニックのHPは広告にあたることになり、そこに書かれた「フルミスト」の説明も広告にあたるのではないでしょうか。

医薬品の広告には、「医薬品等適正広告基準」や「薬機法(旧・薬事法)」などが関係してきます。

医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について(平成29年9月29日薬生監麻発0929第5号厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長通知) より

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000179263.pdf


https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000179263.pdf


医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針 より

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000209841.pdf

「飲めばききめが3日は続く」等の表現は、原則として認められないと書かれています。ということは、「効果の持続期間は1年間!」などと書くことも、やはりアウトなのではないでしょうか。


知らせるべきリスク

リスクについては、伝播のことまできちんと書いているクリニックと書いていないクリニックがありました。

患者向医薬品ガイド フルミスト点鼻液(経鼻弱毒生インフルエンザワクチン)

患者向けガイドより

赤ちゃんのいる家庭では、上のお子さんを2回接種に連れて行くのは大変だから、1回で済む「フルミスト」を選択したいと思うかもしれません。けれども、赤ちゃんのいる家庭こそ、伝播のリスクを考えた方がよいのではないでしょうか。

さらに、フルミストの投与によってインフルエンザを発症し、38℃以上の熱が出る可能性があることもきちんと知らせるべきだと思います。

添付文書にも、その他の副反応(1%~10%未満)に「インフルエンザ」と書かれています。

添付文書より


審査報告書 より
7.R.3.2.2 インフルエンザ

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20230424001/430574000_30500AMX00102_A100_1.pdf

中等度の症状が5日~8日続いた被験者もいるので、これでは何のためにワクチンを接種したのかわかりません。

ベネフィットばかり強調するのではなく、このような可能性があることも知った上で接種を検討できるような情報を発信することが、医師の役目ではないでしょうか。

医師が発信していない場合は、自分で添付文書などを確認することも必要になるでしょう。「添付文書や審査報告書などは、素人が見るものではない」というMRの意見も目にしたことがあります。けれども、医師らがリスクをきちんと説明してくれないなら、自分で調べなければ自分や家族を守ることができないのです。そのことは、コロナワクチンで痛感しました。

例えば、インフルエンザワクチンの添付文書を比較してみると、製薬会社によって添加剤が違うことがわかります(下記参照)。

審査報告書を見ると、「承認されたのだから安全」とは思えないことがいろいろと書かれていて、黒塗りで隠された部分もたくさんあります。

「フルミスト」の黒塗りも、添加剤などのほか、例えばスプレーノズルの○○製を隠しているのはなぜなのか気になります。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20230424001/430574000_30500AMX00102_A100_1.pdf

審査報告書は全部読もうとすると気が遠くなるので、気になったところだけでも見てみると、これまでワクチンについて考えてもみなかったことが見えてくるかもしれません。


医薬品の広告にあたるものに関する疑問は、下記の記事などでも取り上げています。

下記の記事は、企業で広告に携わる方などに読んでいただきたいです。

広告に関して掘り起こした記事をマガジンにまとめました。