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NTT法が改正(廃止)されたら、国民にどのような影響があるのか?

内閣は2024年3月1日、定例閣議において「日本電信電話株式会社等に関する法律(NTT法)の一部を改正する法律案」を閣議決定。国民にどのような影響があるか、資料を掘り起こしました。


国会提出法案

国会提出法案の概要などは、総務省のサイトで見ることができます。

令和6年3月1日 
日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律案
概要
法律案・理由
新旧対照条文

以下、概要より

https://www.soumu.go.jp/main_content/000931290.pdf

特に問題とされているのは、概要には書かれていない「附則」です。

大手キャリア3社の見解

KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社は、2024年3月1日付で下記のリリースを出し、「附則」について懸念を示しています。

  • NTT法廃止を含めた検討や時限を設ける規定は、拙速な議論を招きかねない

  • 引き続きNTT法の「廃止」には反対、より慎重な政策議論が行われることを強く要望

しかしながらNTT法改正案では、附則に「日本電信電話株式会社等に関する法律の廃止」を含め検討し「令和七年に開会される国会の常会を目途」とあり、時限を設ける旨が規定されています。これは今後の議論に先立ち、あらかじめ法制度のあり方を方向づけるとともに拙速な議論を招きかねず、極めて強い懸念があります。例えば、これまでNTT法に規定されている責務の担保について、十分な検討なしに電気通信事業法への一本化が進められることは、結果として必要な規律を欠くことにつながりかねません。

https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2024/03/01/7297.html

附則に日本電信電話株式会社等に関する法律の「廃止」を含め検討し、「令和七年に開会される国会の常会を目途」と書かれているため、十分な議論が行われないまま廃止が決定する懸念があるということです。

附則は総務省のサイトにある法律案・理由でも見られますが、縦書きのPDFなので、衆議院のサイトの方が見やすいです。

以下、附則の廃止に関する部分です。

●日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律案
附 則 より

(検討)
第四条 政府は、この法律の施行の状況並びに電気通信技術の進展の状況及びその利用の動向、電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第五号に規定する電気通信事業者間の競争の状況その他内外の社会経済情勢の変化を勘案し、国民生活に不可欠な同条第三号に規定する電気通信役務のあまねく日本全国における適切、公平かつ安定的な提供の確保、電気通信事業(同条第四号に規定する電気通信事業をいう。以下この条において同じ。)の公正な競争の促進、電気通信事業及びその関連事業の国際競争力の強化、電気通信事業に係る安全保障の確保等を図る観点から、日本電信電話株式会社等に関する法律の廃止を含め、日本電信電話株式会社、新法第一条の二第二項に規定する東日本電信電話株式会社及び同条第三項に規定する西日本電信電話株式会社(以下この条において「日本電信電話株式会社等」という。)に係る制度の在り方について検討を加え、その結果に基づいて、令和七年に開会される国会の常会を目途として、日本電信電話株式会社等に対する規制の見直しを含む電気通信事業法の改正等必要な措置を講ずるための法律案を国会に提出するものとする。

やはり、「廃止を含め」と書かれています。

自民党、NTT、NTT以外の通信業者の主張については、下記の記事がわかりやすくまとめています。

以下、ITmedia(2024年3月1日)の記事から一部引用です。

同法を巡っては、自由民主党において防衛財源の確保の観点から完全民営化(≒NTT法の廃止)の議論が湧き起こる一方で、NTT以外の通信事業者はNTT法廃止を阻止する観点で一致団結するなど、ここ最近は議論が活発となっている。
・→NTT法の廃止は「絶対反対」「料金値上げにつながる」 KDDIやソフトバンクのトップが主張、180者が賛同
・→「NTT法は廃止ありきではない」 鈴木総務大臣がコメント
・→「NTT法は2025年をめどに廃止を」自民党が提言 NTTは「法整備等の議論に積極的に協力する」とコメント
・→NTT法廃止は「必ず禍根を残す」「国民の利益が損なわれる」 KDDI、ソフトバンク、楽天のトップが猛反発

 当のNTTはどうかというと、機会がある度にNTT法が事業上の障害となっている面があることを訴えてきた。NTT法の廃止(≒完全民営化)とまでは行かなくとも、少なくとも時代や事業環境に合わせたNTT法の改正を求めるというスタンスだ。

https://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/2403/01/news190.html


NTTが有する「特別な資産」とは?

総務省のサイトに、各社の考えがわかる資料が公開されています。以下、KDDIの資料から引用です。

2024年3月12日開催

資料2-3 KDDI株式会社発表資料


https://www.soumu.go.jp/main_content/000934616.pdf


https://www.soumu.go.jp/main_content/000934616.pdf


https://www.soumu.go.jp/main_content/000934616.pdf

とう道の詳細な場所や入口はケーブル切断といったテロ行為を防ぐため非公開となっています。
さらに、とう道内も24時間365日、厳戒な監視体制が敷かれています。


https://www.soumu.go.jp/main_content/000934616.pdf

平時のみならず国民生活が脅かされるような非常事態においても
通信役務が確保されるよう、国がコントロールできる仕組みが必要
そのため、政府による株式保有(NTT法第4条)は維持すべき

NTT法第4条は、前述の概要には書かれていませんでしたが、「廃止」となった場合はこれが関係してきます。


第四条 政府は、常時、会社の発行済株式の総数の三分の一以上に当たる株式を保有していなければならない。
2 会社は、その発行する株式を引き受ける者の募集(以下「新株募集」という。)をしようとするとき又は株式交換若しくは株式交付に際して株式(会社が有する自己の株式(以下「自己株式」という。)を除く。)の交付をしようとするときは、総務大臣の認可を受けなければならない。会社法(平成十七年法律第八十六号)第二百三十八条第一項に規定する募集新株予約権(新株予約権付社債に付されたものに限る。次条第二項及び第二十三条第四号において「募集新株予約権」という。)を引き受ける者の募集をしようとするとき又は株式交換若しくは株式交付に際して新株予約権付社債(会社が有する自己の新株予約権付社債(同号において「自己新株予約権付社債」という。)を除く。)の交付をしようとするときも、同様とする。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=359AC0000000085


一方、NTT側の資料には、下記のように書かれています。

資料2-2 日本電信電話株式会社発表資料


https://www.soumu.go.jp/main_content/000934713.pdf

仮に株式保有義務が廃止された場合においても、経済安全保障等の
観点から政府が株を保有し続けるかは政府の政策判断
(当社はその是非について意見を申し上げる立場にない)

NTTは、株式保有義務が廃止された場合、政府が株式保有をし続けるかは「政府の政策判断」と言っています。

では、自民党はどう考えているのでしょうか。

自民党は2023年12月5日に行われた政調審議会で、下記の提言を取りまとめました。


「日本電信電話株式会社等に関する法律」の在り方に関する提言
令和5年12月 5日 自由民主党 政務調査会

この提言は、政調審議会に先立ち12月1日に行われた党防衛関係費の財源検討に関する特命委員会の下に設置された、「日本電信電話株式会社等に関する法律の在り方に関するプロジェクトチーム(PT、座長・甘利明衆院議員)」が取りまとめたものです。

以下、一部引用です。

2ページ

本PTとして、下記の通り、NTT法の主な条文や各事業者等から指摘された課題を含め、今後のNTT法のあり方について検討した結果、政府に対し、NTT法において速やかに撤廃可能な項目については 2024 年通常国会で措置し、それ以外の項目についても、2025 年の通常国会を目途に電気通信事業法の改正等、関連法令に関する必要な措置を講じ次第、NTT法を廃止することを求める。

6ページ

〇 政府による1/3以上の株式保有義務について
(中略)
以上を踏まえ、政府による株式保有義務については、電話のあまねく普及責務、及び研究推進・成果普及責務等のための担保措置であることから、既に記載の通り、ユニバーサルサービス提供責務について電気通信事業法を改正する(同時にNTT法における責務は撤廃する)際に、株式保有義務も撤廃すべきである。
ただし、政府による1/3以上の株式保有義務を撤廃しても、政府保有株式の売却の是非については、NTT東西の有する「特別な資産」の公共性や経済安全保障の観点も踏まえ、別途政策的な判断に委ねるのが妥当である。したがって、政府が株式を売却することなく保有し続け、株主としての権利を行使することも可能と考えられる。

自民党内でこのような議論がなされていることに対し、通信事業者181社が反対の意見を表明。その代表としてKDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、全国ケーブルテレビ連盟が2023年12月4日に記者会見を開きました。

上記の記事によると、会見でソフトバンクの社長・宮川潤一氏は、国民の生活全て、企業の経済活動全てに影響があるとして「国民不在の議論には、断固反対する」と主張。

楽天モバイルの会長・三木谷浩史氏は「もし私がNTTの立場からフリーハンドで経営できるなら、NTT法廃止後に利用料を20%値上げすれば莫大な利益が出ると考えるだろう。それを電気通信事業法でけん制する規定はないし、新たに規制するのは難しい」と話し、そのような行為を規制するNTT法の存在意義を強調しています。また、三木谷氏は「議論のプロセスにも違和感がある」という疑問も呈しました。

「NTT法廃止」の議論は、自民党内で防衛財源を確保するために政策案をまとめた報告書の中で、NTTの株式を売却して防衛財源を確保するべきという発案が記載されたことから議論が始まっているのです。

党防衛関係費の財源検討に関する特命委員会(委員長・萩生田光一政務調査会長)は、今後の財源確保に向けた検討事項を取りまとめた提言を2023年6月9日、岸田文雄総理に提出しています。

提 言 令和5年6月8日
自由民主党 政務調査会 防衛関係費の財源検討に関する特命委員会

4ページ

3-1-2.国有財産(政府保有株式)
政府保有株式は、2021(令和 3)年度末時点で 33.3 兆円にのぼっており、その多くは、公共上の見地から事業を行う特殊会社について、その業務の的確な実施や経営の安定性を確保するために、政策判断により保有されているものである。従って本来の政策目的を曲げて政府保有株式を売却することは本末転倒であり、本特命委員会は、そのような対応を行うべきではないと考える。他方、それぞれの政策分野における検討結果を踏まえて政府保有株式を売却することになる場合は、その売却収入を、臨時的に追加で得られた税外収入として、防衛力強化の財源として位置付けることは考え得る。既に売却が決定ないし予定されているものとしては、日本郵政、日本たばこ産業、東京地下鉄、商工組合中央金庫がある。

日本郵政、日本たばこ産業、東京地下鉄各社の株式の売却
収入については、復興財源確保法により 2027(令和 9)年度までの売却収入を復興財源に充てることとされている。これまでに日本郵政、日本たばこ産業については政府保有義務分を超過する分の売却を完了しているが、東京地下鉄については、政府保有義務がない中で、足下、政府保有分の1/2の売却に向けた手続が現在進められている(2028(令和 10)年度以降の売却収入については未定)。
(中略)

なお、防衛力強化の財源確保のために、あらゆる選択肢を排除せず精査しているところ、時代の変遷の中で政策目的に照らし、政府が保有する必要性について改めて議論すべきと考えられるものも存在する。日本電信電話(NTT)については、1984(昭和 59)年に制定された「日本電信電話株式会社等に関する法律」(以下 NTT 法とする)により、固定電話のユニバーサルサービス提供責務や電気通信技術に関する研究推進・成果普及義務等の担保措置として、政府による1/3以上の株式の保有義務が課されている。しかしながら、通信手段が高度化・多様化し、国際競争も激しくなっている中で、これらの義務を維持し続けることについて検討の余地がある。本特命委員会としては、今後、NTT 完全民営化の選択肢も含め、NTT 法のあり方について、経済安全保障にも配慮しつつ、速やかに検討すべきと考える。

政府は、国民の生活にとって重要な株をどんどん売却しています。NTT法改正についても、上記の提言から株を売却することが目的と読み取れます。

政府が保有しているNTT株が外資に売却されたら、有事のときにどうなるのでしょうか。テロへの対策は、どうなるのでしょうか。

読売新聞の記事によると、政府の保有割合は2023年6月末時点で33・33%(実質ベース)で、時価は4・7兆円相当。仮に20年かけて売却すれば、年2400億円程度の財源となる、とのこと。

前述の会見でKDDIの社長・高橋誠氏は「NTT法で廃止の議論をそもそも、なぜ今する必要があるのか。廃止にあたって外為法上の担保措置を行うなど議論があるが、なぜそこまでしてNTT法を廃止したいのか。何か大いなる目的があるのだろうと推測せざるを得ない」と見解を述べ、オープンな場で議論ができるよう訴えています。

また国民に知らせずに、重要なことを決めようとしています。2025年の通常国会をめどに規制見直しの法案を提出するとのことなので、今からでも、何が起きようとしているか知ろうとし、国民が関心を持っていることを政府に知らせることが必要ではないでしょうか。


<参考資料>

NTT法改正関連

東京メトロ株関連


東京地下鉄株式会社の株式の処分について
令和4年3月28日 財政制度等審議会

資産運用立国実現プラン関連


「資産運用フォーラム準備委員会」参加者名簿