内閣は2024年3月1日、定例閣議において「日本電信電話株式会社等に関する法律(NTT法)の一部を改正する法律案」を閣議決定。国民にどのような影響があるか、資料を掘り起こしました。
国会提出法案
国会提出法案の概要などは、総務省のサイトで見ることができます。
令和6年3月1日
日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律案
概要
法律案・理由
新旧対照条文
以下、概要より
特に問題とされているのは、概要には書かれていない「附則」です。
大手キャリア3社の見解
KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社は、2024年3月1日付で下記のリリースを出し、「附則」について懸念を示しています。
附則に日本電信電話株式会社等に関する法律の「廃止」を含め検討し、「令和七年に開会される国会の常会を目途」と書かれているため、十分な議論が行われないまま廃止が決定する懸念があるということです。
附則は総務省のサイトにある法律案・理由でも見られますが、縦書きのPDFなので、衆議院のサイトの方が見やすいです。
以下、附則の廃止に関する部分です。
●日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律案
附 則 より
やはり、「廃止を含め」と書かれています。
自民党、NTT、NTT以外の通信業者の主張については、下記の記事がわかりやすくまとめています。
以下、ITmedia(2024年3月1日)の記事から一部引用です。
NTTが有する「特別な資産」とは?
総務省のサイトに、各社の考えがわかる資料が公開されています。以下、KDDIの資料から引用です。
2024年3月12日開催
資料2-3 KDDI株式会社発表資料
NTT法第4条は、前述の概要には書かれていませんでしたが、「廃止」となった場合はこれが関係してきます。
一方、NTT側の資料には、下記のように書かれています。
資料2-2 日本電信電話株式会社発表資料
NTTは、株式保有義務が廃止された場合、政府が株式保有をし続けるかは「政府の政策判断」と言っています。
では、自民党はどう考えているのでしょうか。
自民党は2023年12月5日に行われた政調審議会で、下記の提言を取りまとめました。
「日本電信電話株式会社等に関する法律」の在り方に関する提言
令和5年12月 5日 自由民主党 政務調査会
この提言は、政調審議会に先立ち12月1日に行われた党防衛関係費の財源検討に関する特命委員会の下に設置された、「日本電信電話株式会社等に関する法律の在り方に関するプロジェクトチーム(PT、座長・甘利明衆院議員)」が取りまとめたものです。
以下、一部引用です。
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自民党内でこのような議論がなされていることに対し、通信事業者181社が反対の意見を表明。その代表としてKDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、全国ケーブルテレビ連盟が2023年12月4日に記者会見を開きました。
上記の記事によると、会見でソフトバンクの社長・宮川潤一氏は、国民の生活全て、企業の経済活動全てに影響があるとして「国民不在の議論には、断固反対する」と主張。
楽天モバイルの会長・三木谷浩史氏は「もし私がNTTの立場からフリーハンドで経営できるなら、NTT法廃止後に利用料を20%値上げすれば莫大な利益が出ると考えるだろう。それを電気通信事業法でけん制する規定はないし、新たに規制するのは難しい」と話し、そのような行為を規制するNTT法の存在意義を強調しています。また、三木谷氏は「議論のプロセスにも違和感がある」という疑問も呈しました。
「NTT法廃止」の議論は、自民党内で防衛財源を確保するために政策案をまとめた報告書の中で、NTTの株式を売却して防衛財源を確保するべきという発案が記載されたことから議論が始まっているのです。
党防衛関係費の財源検討に関する特命委員会(委員長・萩生田光一政務調査会長)は、今後の財源確保に向けた検討事項を取りまとめた提言を2023年6月9日、岸田文雄総理に提出しています。
提 言 令和5年6月8日
自由民主党 政務調査会 防衛関係費の財源検討に関する特命委員会
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政府は、国民の生活にとって重要な株をどんどん売却しています。NTT法改正についても、上記の提言から株を売却することが目的と読み取れます。
政府が保有しているNTT株が外資に売却されたら、有事のときにどうなるのでしょうか。テロへの対策は、どうなるのでしょうか。
読売新聞の記事によると、政府の保有割合は2023年6月末時点で33・33%(実質ベース)で、時価は4・7兆円相当。仮に20年かけて売却すれば、年2400億円程度の財源となる、とのこと。
前述の会見でKDDIの社長・高橋誠氏は「NTT法で廃止の議論をそもそも、なぜ今する必要があるのか。廃止にあたって外為法上の担保措置を行うなど議論があるが、なぜそこまでしてNTT法を廃止したいのか。何か大いなる目的があるのだろうと推測せざるを得ない」と見解を述べ、オープンな場で議論ができるよう訴えています。
また国民に知らせずに、重要なことを決めようとしています。2025年の通常国会をめどに規制見直しの法案を提出するとのことなので、今からでも、何が起きようとしているか知ろうとし、国民が関心を持っていることを政府に知らせることが必要ではないでしょうか。
<参考資料>
NTT法改正関連
東京メトロ株関連
東京地下鉄株式会社の株式の処分について
令和4年3月28日 財政制度等審議会
資産運用立国実現プラン関連
「資産運用フォーラム準備委員会」参加者名簿