文徒インフォメーション Vol.48

1)【Book】柚木麻子「ついでにジェントルマン」(文藝春秋)が描く菊池寛が面白い
2)【Publisher】「同志少女よ、敵を撃て」の早川書房が編集正社員を募集
3)【Advertising】明坂真太郎プロデュースのテレ東「お詫び」広告が話題
4)【Digital】朝日新聞出版、「小説トリッパー」のWEB版を開設
5)【Magazine】「ブルータス」新編集長・田島朗のインタビュー
6)【Marketing】新聞休刊日はなくすべきなのではないだろうか
7)【Comic】藤本タツキの長編読切「さよなら絵梨」が30日間無料で公開
8)【TV, Radio, Movie, Music & More】入社3年目ディレクターが仕掛けるフジテレビ「ここにタイトルを入力」
9)【Journalism】映画界から文学・出版へと広がる「性暴力のない土壌を作りたい」
10)【Person】朝鮮半島での五木寛之「棄民」体験が今リアルによみがえる
11)【Bookstore & Library】気を吐く今村翔吾・全国100日書店行脚

1)【Book】柚木麻子「ついでにジェントルマン」(文藝春秋)が描く菊池寛が面白い

◎朝日新聞デジタルは4月6日付で「本屋大賞の逢坂冬馬さん『絶望することはやめる』ロシアへの思い語る」を掲載している。「独ソ戦を日本人である逢坂さんが書かれた。日本人が書いた意義についてどんな考えがありますでしょうか」という質問に逢坂は次のように答えている。
《一般的な事柄としておこたえしますと、戦争を当事国の人が語り継ぐ、文学にする、映画にするというのは簡単なようで難しい。おおむね戦争という事象はフィクションのなかでは国民の物語に回収されていく。ロシアにとっての独ソ戦がまさにそうなんですけれども。多くの方から、独ソ戦のソ連に女性兵士がいることを知らなかったという感想もいただいた。この作品を読んでからニュースを見ることがよりつらくなったという感想もいただいている。読者に対して外国の戦争を描く意味というのは、視線を一回遠くにもっていってもらって、その後、自分の足もとにもってきてもらう。身の回りのことを捉え直すきっかけになる。当事国には語り得ない物語をつくるのが、外国の戦争を描く意義かと思います。》
https://digital.asahi.com/articles/ASQ465W6KQ46UCVL03K.html

◎実業之日本社は、貫井徳郎の作家デビュー30年と同社の創業125周年を記念して、6月より貫井徳郎文庫作品連続刊行プロジェクトをスタートさせる。「プリズム」が6月3日、「追憶のかけら」が8月5日、「罪と祈り」が10月7日に刊行し、7月には既刊の「微笑む人」をカバーデザイン・円と球による新たなビジュアルカバーで展開する。貫井徳郎がコメントを発表している。
《作家デビュー30年の節目の年に連続刊行できること、大変嬉しいです。今回の作品群はそれぞれ方向性が異なり、ぼくの作風を網羅した4冊になっています。これまで貫井徳郎作品を知らなかった方々にとっての入り口になるといいなと思っています。『追憶のかけら』は旧字旧仮名遣いだった作中作を現代語にし、『罪と祈り』は主人公たちに感情移入しやすいよう加筆しました。新しいカバーがかかりますので、新しい気持ちで読んでいただけたら幸いです。
どうぞよろしくお願いします。》
https://www.atpress.ne.jp/news/305511

◎宇佐見りんの「くるまの娘」が河出書房新社から5月12日に刊行される。宇佐見自身がツイッターで告知している。
《【告知です】
『くるまの娘』、お陰様で本になります……!!!大切な作品なので、こんなに素敵な本に仕上げて頂きうれしいです。ぜひ手に取ってもらえたらと思います。装丁は鈴木久美さん、装画は上田風子さん。5月12日(木)発売です。本当に、ありがとうございます。》
https://twitter.com/rinrin_usami/status/1512056898367139845
これも宇佐見のツイート。ねっ、読みたくなるでしょ。
《それと、文藝では、水上文さんが季評「戦争と文学」で『くるまの娘』を大きく取り上げてくださっています。小説を読むとき、この状況下であっても読むに耐える小説かどうか考えるようになったという出だしからはじまり、戦争を描きこんでいるわけではない本作を、しかし世の中に避けがたくあふれる暴力や、もつれる加害/被害について描くものとして大きく捉え、論じてくださっています。私はやはり小説を書いて、小説でしかやれない方向で、何かを考えていくべきなのだと思いました。(り)》
https://twitter.com/rinrin_usami/status/1511879887258537991
https://twitter.com/rinrin_usami/status/1511881619153756160

◎下村敦史がツイートしている。
《4月下旬発売の『情熱の砂を踏む女』(徳間書店)、ゲラやNetGalleyで読んでくださった書店員さんから絶賛のコメントを次々にいただいています!
執筆から刊行まで15年。間違いなく僕の今後の作家人生を左右する一作になる渾身の勝負作です!
今年は『新藤怜奈』の物語にどうか注目してください!》
https://twitter.com/atushishimomura/status/1512335585297371138
舞台はスペインで、日本人闘牛士だった兄の死の真相を探るため自らも闘牛の世界に飛び込んだ女性が主人公だという。私は基本的にスペインものに目がない。これは買いだ。

◎「こんまりメソッド」で欧米を熱狂させた「こんまり」こと近藤麻理恵と「世界から猫が消えたなら」(小学館)の川村元気が讀賣新聞でタッグを結成して完成させた共作小説「おしゃべりな部屋」が中央公論新社から刊行された。
https://www.chuko.co.jp/special/chattyrooms/
近藤麻理恵が片付けて来た1000以上の部屋にまつわる実話をベースに川村元気が七つの物語を紡ぎ出したという。「婦人公論」の公式YouTubeチャンネルにて、近藤麻理恵が「おしゃべりな部屋」の魅力について語っている。
https://www.youtube.com/watch?v=yw3fD6VXsZI
「リアルサウンド」は4月7日付で「こんまりが語る、ときめきの正体と本棚整理術『片づけを通じて本当に大切なものに気付き、人生が変わっていく』」を公開している。
絵本作家・大桃洋祐によるイラストを近藤が絶賛している。
《――まず、本を読んだ率直な感想を聞かせてもらえますか。
近藤:率直な感想で言うと、ときめいて、ときめいて、ときめいちゃいました。
――ときめきが止まらないでしょうか。
近藤:私は本の感想を述べるときは、まず触ったときのときめきを大事にしているんです。それでいうと、装丁、デザイン、触り心地、発するエネルギー。こんなにときめく本はないです。大桃洋祐さんのイラストも絵本のようで素晴らしいです。》
https://realsound.jp/book/2022/04/post-1002773.html

◎朝日新聞、毎日新聞ともに4月9日付書評面で横田増生の「『トランプ信者』潜入一年」(小学館)を取り上げている。朝日の評者・稲泉連 は次のように書いている。
《政敵への憎悪と嘘、亀裂を突き分断を広げる手法が、いかに民主主義の土台を侵食してしまうか。老獪さすら感じさせる潜入取材のノウハウを駆使し、現場の肉声によってその危うさを語らしめた力作だ。》
https://book.asahi.com/article/14593834
毎日の評者は藻谷浩介。こう書く。
《同時に全米をかけ回り、両陣営の選挙集会や、警官による黒人殺害を契機に起きた、ミネソタ州での暴動の現場にも身を置いた。
そのような渾身の取材活動の末にできたこの本の中には、「支持者は要するに、白人のノンエリートだ」といったがさつな総括は、どこにもない。そしてどの章にもあふれる臨場感に満ちた記述は、面白いという言葉で片づけるのが申し訳ないほど面白い。》
https://mainichi.jp/articles/20220409/ddm/015/070/026000c
「日刊ゲンダイDIGITAL」は4月7日付で《著者インタビュー「『トランプ信者』潜入一年」横田増生氏》を掲載している。横田は次のように警鐘を鳴らす。
《「多数派ではなくなりつつある白人の危機感やキリスト教などの背景からくる熱狂や分断は、日本人には理解しにくいかもしれません。しかしコロナ以降、日本でもマスクやワクチンの必要性に関して極論が飛び交うようになり、民主主義の基本である話し合いや歩み寄りがおろそかにされています。民主主義の崩壊は対岸の火事ではありません」》
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/303530

◎新潮文庫の公式アカウントがツイートしている。
《70年ぶりの復活となった川端康成『少年』が大反響をよんでいます。
発売からわずか7日で重版が決定するなど、異例の売行きを見せています。
川端が愛した〈美しい後輩の少年〉とひそやかな二人の特別な関係を描いた今作、是非ご一読ください。》
https://twitter.com/shinchobunko/status/1511898582617534466
川端の代表作のひとつでもある「雪国」がNHK BSプレミアムで高橋一生の主演でテレビドラマ化され、4月16日に「雪国~SNOW COUNTRY~」として放映される。
https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-1479128/
今年は川端康成の没後50年である。
東京新聞は4月10日付で多胡吉郎「生命の谺 川端康成と『特攻』」(現代書館)の書評を掲載している。評者の平山周吉は次のように書いている。
《本書の表紙カバーに写るのは、ノーベル賞作家・川端康成の戦争中の姿である。軍帽をかぶってはいるものの、とてもお役に立ちそうもない。敗戦を目前にした昭和二十(一九四五)年四月、四十五歳の川端は、海軍報道班員として鹿児島県の鹿屋(かのや)航空基地へと派遣された。》
《川端の滞在中に特攻出撃は六回、百七十二人の特攻隊員が散華した。「川端はそれだけの数の若者たちが逝くのを見届け、その生命(いのち)の残影を背負うことになった」。川端がエッセイの中で回想した何人かの特攻隊員を著者は特定していく。回想や記録、本人の日記や遺族の証言によって、「特攻」の実像にも肉薄する。
本書後半は、川端文学の中に特攻体験の痕跡を探していく作業となる。傑作短編「生命の樹」、長編『虹いくたび』(新潮文庫)に描かれるエピソードが、彼ら特攻隊員との交流をヒントに作られていたことがわかってくる。それどころか、戦後になっての『雪国』の改稿、川端文学全体への「特攻」の影響も視野に入ってくる。》
https://www.tokyo-np.co.jp/article/170678
「雪国」は1937年に刊行されたが、戦後の1948年に完成版として刊行された。その改稿に川端の「特攻」体験が与えた影響について多胡吉郎は言及しているのである。川端文学はまだまだ掘り起こされきってはいないようである。

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