「自己肯定感低い」ガチ勢

先程、本屋さんで完膚なきまでに打ちのめされた。完全に不意打ちである。というのも、ただ私は本を立ち読みしただけなのだ。タイトルは忘れたが、「自己肯定感が低い人に送る毎日の語録」みたいな本。なんの気無しにパラパラめくったら次のようなことが書いてあった。

「もしもう一人の自分に酷いことを言われたら、ノートにあなたのいいところを綴りなさい、少なくとも5つ」

じゃあちょっと頭の中でやってみよう。
も「あなたは学歴が低い」
私「だけど私ってパートだけど一生懸命働いて一応収入を得」
も「そんなん当たり前じゃん世の中にはフルタイムで働いてる人だっているのにあなたなんか体力も気力もないから収入が今までの半分に減っちゃってさ、かといって家事がちゃんと出来てるわけでもないし、体力だってないから休みの日は寝てばっかりだし、食材はすぐ冷蔵庫で傷ませちゃうし、仕事だってあなたの部署デキる人ばっかであなただけポンコツだし、喋るのが下手だから職場の人と雑談したって盛り上がらないからなかなか仲良くなれないし、あなた生きてる意味ある?」

敗北。本屋さんで本を開いたまま思わず倒れそうになった。「自己肯定感低い」ガチ勢にしか伝わらないかもしれないが、自己肯定感が低い人はもう一人の自分に一瞬でも反論しようものならものすごい勢いでスマッシュを打たれる。一点も取らせてもらえない。この本のメソッドによるとこの強敵相手に5点先制しないといけないらしいんだけど、無理じゃない?(今気付いたんだけど私の中のもう一人の自分、口調がうちの母にそっくりだ)

あと私は本屋さんに来る前に喫茶店にも行っている。喫茶店でファッション誌を手に取った。どうやら「私の『私なんて…』に対する対処法」みたいな特集が組まれている。おっ、自己肯定感を上げる系の話か?と思って早速そのページを開いたところ、東大卒の人気モデルさんが「東大卒なんて凄いですね!」と言われて「いえ、昔のことなんで…」と思わず謙遜してしまうという話が載っていたのでそっ閉じした。キラキラしていないのにキラキラ系のファッション誌をチョイスしてしまった私も悪いが、まったくこの世の中は「自己肯定感低い」ガチ勢をナメすぎてる。私のような低学歴の不美人になってから出直してこいと言いたいところだが、そもそもそんなファッション誌は需要がないだろう。

今日本屋さんからの帰りにふと思い出したことがある。大昔に数ヶ月だけ一緒に勤務したことがある方の話だ。彼女はディズニーランドで結婚式を挙げたらしい。関東であれば意外といらっしゃるのかもしれないが、うちの地域ではディズニーランドで挙式を挙げた話なんてなかなか聞かない話なので、へぇ凄いですね!と我々は沸き立った。そうしたら彼女はこんなことを言った。

「だって私の弟はセントレアで式を挙げたんですよ、それに勝つにはディズニーランドしかないじゃないですか」

私は当時思った。そこ、勝ちに行く必要ある?
個人的にはディズニーランドで結婚式を挙げること自体は夢があってとても素敵だと思う。しかしおそらく決して安くはない値段、近くはない距離。そこまでしてディズニーランドで式を挙げる理由が「昔からの夢を叶えた」とか「憧れていた」ではなくて「弟に勝ちたかったから」。自分の幸せの評価軸について考えさせられた一件だ。ちなみにご本人も弟さんも、既に離婚なさっているらしい。

自己肯定感を上げるためのメソッドでは大体何か自分の良いところを見つけるように言われる。しかし自分の良いところとか武器とか強みとか、どう転んでも「ない」人だっている。仮に何かあったとしても上手いこと活かせないのだ。だから自己肯定感を上げるための本のせいで自己肯定感が下がってしまうという悪循環が発生する。
だから他人に勝ちに行く必要はない。「幸せ」というのは多分自己完結させなければいけない。何もない自分、でもご飯が美味しい。多分そんなんでいいのだ。
そのためにはおそらく、「自己肯定感が高い」ではなく「自己肯定感とは無縁」を目指す必要がある。

確か髭男爵の山田ルイ53世さんがおっしゃっていた。「キラキラしていない人間がただ生きていたっていい」。この言葉に私は大分救われている。心の底から「何も誇れるものがなくてもいい」と思えるまでにはまだ大分時間が必要だが、少しずつ私なりの幸せを見つけていきたい。

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