子持ち女性(男性もかもしれない)が正社員でキャリアを積む難しさ

「そうか、正社員の時短勤務って新卒カードと一緒なのか…」
気付いた時にはもう時すでに遅しだったんだけど、やむを得なかった。

私は数年前に出産している。つわりもお腹のハリも相当苦しかったにも関わらず、上司からそれはそれは心ないマタハラに悩まされたが、正社員として出産予定日前まで頑張って働き切った。仕事に対してやりがいと誇りを持っていたので、育休を取ってまた正社員として勤め続けたいと思っていたのだ。

そして一年後の4月に復帰する。しかし事件が起こる。私の仕事は間違いがあると下手したら死者が出かねないのに、正確さより速さを優先する上司の元に異動になったのだ(別記事参照)。そもそも異動前から例のマタハラ上司が子供の発熱時に早退させてくれない。仕事量が多すぎて時短勤務の勤務時間内にこなしきれないのに、私の要領のせいにされて「時短を取り消す」と脅される。16時退勤の契約なのに15時50分くらいに直属上司が何の説明もなく外出する必要のある業務を始め、私が代わりに仕事を回す羽目になる。土曜日は半日勤務のはずなのに仕事量が多すぎて毎回帰宅が18時になる(保育園迎えギリギリの時間であり、決して仕事は終わっていない)。細かい利益を求めすぎるため無駄な仕事が増えて残業する必要が出てくるような本末転倒な社風。そんなことも積み重なって毎日毎日死ぬことばかり考えていたので、本当は仕事は続けたかったし第二子出産後も育休を取りたかったが、泣く泣く退職することにした。

本当は転職先でも正社員として働きたかったが、そうするにはあまりに心も身体も疲れ果てていたので、同業種のパート職に転職した。週あたりの勤務日数も減らしてもらった。

転職後の今の会社はとても良い会社だ。妊婦に対するサポートがしっかりしており、時短やパートで退勤時間が決まっている人はその時間に退職させられるよう配慮してもらえる。社員教育の制度もしっかりしている。仕事量も負担になりすぎない程度の量。この間なんか「ルノモノさんは旅行とか行かないんですか?」と声をかけられ、旅行のための有給取得を勧められた(ちなみに前職ではマタハラ上司より、旅行のための有給取得を禁じる御触れが出ていた)。私は新卒でこの会社に入社しなかったことを心底悔しく思った。

しかし、私はあることに気付く。教育制度が充実した会社ではあるが、私が習っていないことが数多くある。中途で正社員として入社した同僚などはちゃんと研修を受けていて難なくこなせる業務を、パートの私は独学で学ばないといけない。正社員は将来的に管理職になることを見越しているためか、研修の手厚さにパートと正社員でだいぶ差があるのだ。

私の思いはこうだ。今の勤務形態はパートではあるが、一人のプロとしてきっちり仕事をしたい。もっと仕事に対する学びを得て、今の職種として成長したい。また、給料が以前の半分くらいになったことに対しても歯痒さを感じていた。第二子の予定もチラつく。パートは期限付きの勤務になるのでもし出産したら退職しないといけない。当然、育休は取得出来ない。保育園もまず入れないだろう。

日に日に「社員登用」について考えるようになった。ネットで調べたところ、パートでも勤務歴が1年あるなら育休や時短を取れる可能性があるらしい。パートは期間雇用だが正社員は無期雇用なので、出産したとしても会社に籍が残る。私は希望を胸に会社の偉い人に問い合わせることにした。

「結論ですが、不可です」

不可らしい。電話口で溜息を呑み込む。

「時短を取りたいのであれば通常の勤務時間帯で1年間働いてもらう必要がありますね」
「7時までですよね、それだと保育園が閉まってしまいます」
「でしたら、あなたは正社員になることはありませんね」

あなたは正社員になることはありませんね。言い方。

本当は「パートとしてでも会社に籍を置いて1年間勤務しましたよね?」と納得するまで根掘り葉掘り質問すべきだったかもしれないが、その気力もなく、ただ「落ち着いたらまた正社員登用を検討します」とだけ伝えて電話を切った。「あなたは正社員になることはありませんね」に対するほんのささやかな抵抗だ。

そうか、正社員の時短勤務って新卒カードと一緒なのか。遅ればせながらそう思った。でもどうしようもなかった。前職を退職する時も「スピード感を持って退職を決意した」とはいえ、本当にこれでよいのか幾晩も考えて結論を出した。過去の自分を恨むならどこだろう。前職の面接でマタハラ上司をマタハラ上司だと見抜けなかったことだろうか。新卒で今の会社に入らなかったことだろうか。

同時に現行の制度に対しても恨んだ。転職後に子供を保育園に通わせながらフルタイムの正社員として1年間働く。時短でなくても保育園の閉園までに仕事が終わる業種なら可能かもしれない。また、近所に祖父母が住んでいるとか、ベビーシッターを雇えるだけの収入があるなら可能かもしれない。私はどれでもない。
また仮に今時短で働けたとしても期限付きだ。子供が1年生になったら午前で帰ってくる。小1の壁が厚いとう話はたまに耳にする。また将来的には子供に塾や習い事をさせることになるだろう(ちなみに私の母は「実家の近くに家を建てれば私が習い事のお迎えなどを助けてあげられる」と力説するが、私の父親は威圧的で機嫌にまかせて怒鳴ったり無視したりするタイプで母はあまりに過干渉なので、実家近くに家を建てることについては申し訳ないが辞退したい)。

時短で正社員。私と同い年で新卒で今の会社に入ったという同僚が、第二子出産後育休を経て4月からまた職場復帰するらしい。出産後に転職していれば勿論だが、今時短勤務出来ている人でさえ、どうして女性(ひょっとしてシングルファザーなど、男性も該当するかもしれない)が正社員としてキャリアを積むことってこんなにも難しいんだろう。これって日本だけなんだろうか。私の声なんかおそらく政治家になんか届かないと思うんだけど、正直この文章を書きながら泣いてます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?