パンの耳はトロの部分
私は色々な食べ物の「端っこの香ばしい部分・カリカリの部分」が好きだ。例えばとんかつの端の部分とか細くカリカリに揚がったポテト、アイスクリームのコーンの先端、ピザの耳、アメリカンドッグの根元の部分、唐揚げのはみ出た鶏皮の部分、タルト地の端、石焼ビビンバのお焦げ、などなど例を挙げるときりがない。端っこグルメは世の中に溢れている。そして端っこグルメには無限の可能性がある。
端っこグルメの魅力はまず歯触り。歯応えはあるが軽快、という絶妙さが多幸感を導く。そして咀嚼に続き口の中を広がる香ばしさ。端っこグルメは大体揚げたり焼いたりする工程を経てきつね色になっている。多分「メイラード反応」とかいうやつだ。あと希少性も心をくすぐる。例えばトンカツの端っこは1枚当たり2切れしか発生しないし、アメリカンドッグの根本にくっついてる生地に至っては小指の先くらいのかさしかない。かといってアメリカンドッグの根本の部分だけ量産するのは趣がない。あ、でも以前「メロンパンの皮焼いちゃいました」という商品があったな。もちろん買った。なかなか美味しかった。
完全に余談なんだけど、赤城乳業の「ソフ」という商品がある。ソフトクリームの上の部分だけ食べられるというのが売りの商品なのだが、個人的には「トクリーム」の部分、とりわけ「ム」の部分が食べたい。「ム」がソフトクリームの中で一番カリカリで美味しいのに、なんで「ム」を商品化してくれなかったんだろう。「カプリコのあたま」についても同じ意見だ。カプリコは頭より絶対おしりが美味しいんだ。
えっと、本題は何だっけ。そうそう、私はパン屋さんに売っている全面耳の食パンが好きだ。私の経験上数十円で売られていることが多いが、先日とあるパン屋で耳が4枚で130円くらいで売られていた。パン耳相場からしたら相当高いが、猫の形をした食パンでしかも抹茶と白餡の味のものや胡桃とココアの味のもの(三毛猫らしい)など様々な味を楽しめたので良しとしたい。あとパン耳も他の端っこグルメ同様希少性がある。一斤の食パンから2枚しか取れない。マグロでいうとトロの部分だ。先述のパン屋さんには何回も足を運んでいるが、耳を売っているのは初めて見た。売り切れたら販売終了なのだ。
全面耳の食パンは美味しい。買った初日は焼きたての柔らかさを味わえる。柔らかいながらほんのり歯応えがあって美味しい。噛んでいるとスルメのようにじわじわ旨みが出てくる。翌日以降はトーストすると簡単にラスクみたいなのが出来る。ふつうのトーストは天面しかカリカリじゃないのでなんとなく物足りないが、耳トーストは紛う事なく全体がカリカリしている。ほぼおやつだ。これを朝食として食べると「朝一からおやつを食べている!」という背徳感に似た嬉しさを感じる。
こんなに美味しくて希少価値が高いパンの耳なのに、世間一般ではどうやら「サンドイッチなどを作る時に要らない部分」らしく、安く売られていることが多い。友人と話している時にパンの耳を「トロの部分」と形容してむちゃくちゃ笑われたことがあったが、実は江戸時代にトロは寿司ネタとして好まれずに捨てられていたらしい。これにはパンの耳とトロの因果を感じずにはいられない。
というわけで今後もパンの耳が販売されているパン屋さんを根気よく探していきたい。あと、パン屋さんで食パンを買って何枚切りかに切ってもらうときに耳を残して一枚にされることがあるけどあれやめてほしい。うすーく切り落として食パンの袋の中にそっと入れといて欲しい。