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津軽でアートと歴史に触れて② 大鰐温泉にて

今やすっかり秋の気候になりましたが、残暑がまだ尾を引いていた、とある9月の連休中、津軽まで一泊旅行に行ってきました。

弘前れんが倉庫美術館を堪能した後、車で約30分程かけて、その日の宿泊先のある、隣町の大鰐(おおわに)町へ。

スキー場と、特産品である大鰐もやし、そして青森県内でも有数の温泉街を持つこの町まで足を延ばすのは、皆初めて。
食堂やお土産屋など、並ぶ店舗から昭和の息遣いを感じさせ(好きです)、懐かしさも彷彿させる温泉街の一角に、私達一行がお世話になる宿がありました。

ヤマニ仙遊(せんゆう)館
こちらの旅館は、レトロという表現では軽すぎるくらい歴史あるところ。
創業を開始されたのは1872年(明治5年)、そして1897年(明治30年)に造られた建物を、存続させて現在まで活用されております。

やはりここも姪の向学の為に予約を入れたところで、義母、姪親子(母と娘)、我々夫婦と男女混合5人一部屋という親族ならではの組み合わせでの宿泊です。

私達が通されたのは、自殺未遂後の(!)太宰治が静養の為、母親と共に数日滞在したと言われる間。
しかし実はもう一つ同じ間取りの部屋があり、太宰がどちらの部屋を使っていたのか、それについて書かれた文献が残っていないため、未だ定かではないそうです。

部屋の窓を開けると、そこにはゆったりと流れる平川という大鰐の川。
太宰が同じ景色をここから眺めたかは定かではありませんが、100年以上前にここにいた人と同じ風景を、私達も見ているということは確かで、そんな時間をくれた姪と、この建物の存続に携わってくれた方に感謝です。

現代よりも若干スペース狭目の間取りや廊下などの造りは、建立当時そのままのようですが、部屋や水回りなどはリニューアルされています。
トイレ、洗面台は共同で、数か所ある水回り、昔の木材と新たに施された可愛らしいタイルが見事にマッチしています。
そして思わず「これ、お高いんでしょう?」と言いたくなるような、使い古された津軽塗の調度品の数々が目を引き、こちらの歴史の長さを感じさせてくれます。
館内どこに視線を置いても、目が楽しくてしょうがない。

今年リニューアルされたというお風呂もまた壮観で、こじんまりとはしていますが、洗い場も浴槽も、和製マジョルカタイルがふんだんに敷き詰められ、これまた一つ一つの絵柄が愛らしい。
日の差す時間帯に入浴すると、壁にはめ込まれたステンドグラスの光越しのタイルが一層美しく、思わず見とれてしまいます。

ただしこちらの温泉、かなり熱めです(源泉60℃以上だそう)。
ゆっくりと入浴するつもりで、水の蛇口を廻したつもりが、お湯の方を廻してしまった私。
しばらく後、背中に熱さを感じ、湯船で1人飛び上がってしまった、というその場所に似つかわしくない失態をしてしまいました。

旅の楽しみの一つである食事も本当に申し分なく、メインのお肉もお魚も美味しかったのですが、何といっても大鰐もやしが美味すぎて、本当にびっくりしてしまいました。
夜はお吸い物に、朝はおひたしとして頂いたのですが、さすが町の特産品、通常のもやしより細いのですが、味がとても濃く、まさかもやしでこんなに感激するとは意外でした。
その外の副菜も、優しくもしっかりしたお味で、年齢層高めの我が一行はとても満足。
朝は、私の大好きなりんごジュースも付き、〆まで完璧で、朝から幸せを充填させて頂きました。


こちらの旅館は、2017年に国の有形文化財に指定されたのを期に、建築に明るい今の当主により、素敵にリニューアルをされております。
それ以前は、温泉ブームの陰りや当主の高齢化による一時期休業の経験もあったと、お部屋にあった新聞の切り抜きコピーで知りました。
やはり伝統文化の継承は、一筋縄ではいかないものだと、伺い知れます。

チェックアウト後、私と夫と義母は、明日への英気を養うために、そのまま自宅へ向かいました。
一方姪親子は、弘前公園前のスターバックス(こちらも指定文化財)など、まだまだ見たい建築物があるとのことで、そこで2家族が解散となりました。
いや、ただでは帰らないところが、すごすぎる。

美術館でも旅館でも、この旅が勉強になったようで、姪は始終何かを書き残しておりました。
見るべき既存の建物はまだまだあるし、新しい建物は次々出来るし、本当に研究は尽きることなく、姪は将来へ向かって、大海原へ漕ぎだしたんだな、と叔母の私は思ったのでした。

そして、美しいものに沢山触れたし、リフレッシュも出来て今回の旅に自分自身とても満足したのですが、城下町である弘前市には、まだまだ見るべき歴史的建物がいっぱいあります。

また、弘前市は近年アップルパイを押していますね。

うーむ、帰路に一店舗でも立ち寄れば良かったな。
今回は口にすることは出来ませんでしたが、今度遊びに来るときは、数あるケーキ屋さんやパン屋さんの中からいくつか巡ってみたいと思います。

もし旅行で津軽にいらっしゃるなら、日中弘前市を巡った後は、大鰐の温泉で夜は疲れを癒すのはいかがでしょう。
弘前市と大鰐町を結ぶ弘南鉄道一本で移動も可能ですし、温泉街には渋好みの旅館もあれば、大手資本のホテルも立地しています。

とても楽しかったのですが、余韻と次回への課題が残った、ある秋口の旅でした。
また時間を作って、別な季節にこちらを訪れたいな。

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