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日本の中小企業
202X年
その0
内閣官房
「長官、我が国の成長はこれまで中小企業により支えられて来ました。
日本の総企業数の約99%は中小企業です。
しかし、昨今その数は減少に転じています。
現在の国際情勢に鑑み、今こそ、その育成に力を注ぐべきと考えます。
なにとぞご尽力のほどお願い申し上げます」
「うむ、同感だ。
R国、C国・・・中東情勢・・・様子を見ているときではないな。
菊池君、すぐに素案を練ってくれ。
上申は私が責任を持ってやることにしよう」
その1
神奈川県の町工場(先端化学工業)井山工業で、世界を驚愕させるに充分な装置の開発に成功した。
なんと大気の約8割を占める窒素から莫大なエネルギーを引き出すと言うものだ。
同社の社長、井山克麿は公式発表を控え、井山の長男である克馬(内閣情報調査室勤務)を通じて内閣官房に直接報告することにした。
この開発はこれまでのエネルギー産業を根底から覆すものであり、日本のみならず世界中に及ぼすであろう影響は計り知れないからである。
その2
同時期
大阪府の町工場(先端科学工業)織田製作所において、宇宙から降り注ぐ未知の物質の解明及び地球が持つ磁場の制御に成功した。
それによると、日本列島程度であれば完全にバリア状に覆うことが出来、国防の為の軍備がまるで必要なくなるという。
つまり、どのようなミサイル、放射能、航空機、軍艦、潜水艦にいたるまで日本に接近することは不可能になるということだ。
ただし、悪意のない航空機、タンカー、客船の類はその限りではないということだから驚きである。
これについても、社長の織田悟は公式発表をせず政治家のつてをたどり内密のうちに内閣情報調査室へ報告した。
織田は世界のミリタリーバランスが一変することを理解していたのである。
その3
それから数年後、日本政府は最先端科学の国際的シンポジウムを開催するべく世界中から関係者を招待していた。
そしてその会合の開会を内閣総理大臣が宣言したその時・・・
その4
U国への軍事侵攻の失敗により経済的疲弊の極みにあるR国、不動産バブル崩壊、度重なる経済政策の失敗により凋落の一途を辿るC国、国家崩壊の危機に瀕する北K国、I国の執拗な軍事攻撃で窮地に追い込まれるイスラム過激派組織の救済に本格的に乗り出そうとするI R国‥‥etc.
第三次世界大戦への環境はこれまでにないくらい整いつつあった。
その時‥
その5
数発のICBM(大陸間弾道ミサイル)が某国から発射された。
もちろん全世界がその動きを注視している。
ただこれは、しばしば行われる模擬弾頭を搭載した試射であり規定のコースを飛んで落下するものである。
と、誰もが思っていた。
しかし、今回は違っていた。
各国とも予測軌道から到達地点、同時間をリアルタイムに計算する。
驚いたことにその数発のICBMは何度計算しても米国、ヨーロッパ西側主要国を標的としていた。
誤射であればあるはずの発射国からの通知も何も無い。
A国及び西側主要国はこれを100%迎撃する能力を持っていた。
そして、全面核戦争に突入しないための方策を考えるのが順当であるが、そうはしなかった。
迎撃体制を整えると同時に、仮想敵国を殲滅する絶好機ととらえ、それらの国へ数百発の核ミサイルを発射した。
もちろん、仮想敵国側もすぐさま西側主要各国へ数百発の核ミサイルが発射された。
地球上を両陣営から発射された核ミサイルが千発に近い数飛び交う状況である。
当然、日本にも降り注いだ・・・
が、一発もダメージを与える事が出来ず、はるか上空で虚しく爆発するのみである。
1年後、日本以外の先進国のほとんどは爆発と放射能で絶滅した。
日本のたった2社の中小企業が人類絶滅を救ったのである。
完
文酔人卍
尚、イメージ画像は
4696a4bis 氏の作品を使用させていただきました。
感謝