井坂勝之助 その21
虎千代 2
武者修行に出る前の一年間、どのような相手であっても一度も遅れをとるようなことはなかった。
それがどうだ、子供の遊びのようなものとは言え、剣術の立ち合いの体をなしている。
負けるはずがない‥と思っていた。
しかも相手は年端も行かぬ少年である。
勝之助は悔しさよりも、世の中というものの広さを感じた。
剣の道に慢心は禁物・・・
勝之助は心に刻んだ。
虎千代の魚を突く技といい、この申し合いといい勝之助は思わずニヤリと笑い、
「これはしばらく此処に逗留し極めねばなるまい‥」
「お兄ちゃん、なに笑ってるの?お兄ちゃんは虎に負けたんだよ」
「そうであった、今後は虎千代殿を師匠と呼ばねばならんな」
虎は
「し、ししょう?‥」
と言ってキョトンとする。
長時はそばで目を細めていた。
「この若者なら遠からぬうちに虎千代に勝てるかもしれん・・・」
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